1月07日

バタンッ!

遠くから、勢い良くドアの閉まるような音が響く。

シュゴオオオオオオーッ!

直後、板張りの廊下を走るようなホバーリフト音が、冷たい空気を揺らしていた。

・・・・・って、ちょっと待て。

静かだった部屋に、遠くから近づいてくるようなホバーリフト音。

祐一「・・・・・・・・・」

まだまだ深い眠気に包まれながら、どこか夢の続きのようにぼんやりと布団にくるまる。

祐一「・・・・・・・・・」

今日はまだ冬休みだからまだ寝ててもいいはずだ・・・

無意識にそう結論を出してその考えを早速実行に移す。

目を閉じて、このままもう一度深い眠りの中に・・・・・。

シュゴオオオオオオオーッ!

眠りの中に・・・・・・・・

シュゴオオオオオオオーッ!

中に・・・・・

声「あっ・・、わたしまだパジャマだよっ・・・」

壁越しに、女の子の声が聞こえてくる。

声「うー・・本当に時間ないのに・・・」

切羽詰ってる台詞の割には、あまり大変そうな口調ではなかった。

バタンッ!

もう一度、扉が閉まる。

祐一「・・・・・」

祐一「なんだ今の音は・・・?」

部屋の中に、さっきまでの静寂が戻ってくる。

俺は布団から手だけを伸ばして、目覚し時計を引き寄せようとした。

しかし、いつも目覚ましを置いている場所にはなにもなかった。

今度は布団から顔を出して、壁にかかっている時計で時間を確認しようとする。

・・・・しかし、壁に時計は無かった。

というか、時計どころか何もなかった。

祐一「・・・・・・・」

閑散とした部屋に、何も物が入っていない家具・・・・。

祐一「・・・というか、ここどこ?」

重い瞼をこすりながら、ぼうっとする頭を懸命に揺り動かす。

祐一「・・・・・・」

とりあえず出るか・・・・。

バタンッ!

廊下を出るとほとんど同時に、隣の部屋のドアも開く。

名雪「お母さんっ、私のパイロットスーツないよ・・・」

中から顔を出した女の子が、困ったように呟く。

名雪「時間無いよ〜、時間無いのに〜、どうしよう・・・」

と、ふと俺と目が合う。

名雪「あ・・・・・」

名雪「おはよう、祐一」

にこっと微笑みながら、まるで今までもそうだったかのように朝の挨拶をする。

祐一「・・・・・(普通の名雪だな)」

あまりに普通のリアクションだったので、思わず言葉が詰まる。

名雪「ダメだよ、祐一。朝はちゃんとおはようございますだよ」

祐一「・・・・・おはよう」

少し戸惑いながら、言われた通り挨拶を返す。

名雪「うん。おはようございます」

7年ぶりに再会したいとこの名雪は、すっごく変わっていた。

名雪「早いね。祐一は今日までお休みなんだから、もっと眠っていてもいいのに」

祐一「そう思うんだったら、もう少し静かに騒いでくれ」

名雪「うー、難しいよ・・・・」

たしかに、あのホバーリフト音で静かにするのは至難の技だ。

名雪「・・・あっ」

名雪「そういえば、時間とパイロットスーツがないんだよ・・・」

その言葉どおり、名雪はまだパジャマ姿だった。

祐一「俺に言われても困る」

と言って、ふと思い出したことがあった。

祐一「パイロットスーツって、昨日も着てた変な服のことだろ?」

名雪「変じゃないよ・・・」

いや、十分変だ。しかもあれはどうみてもプラグ○ーツだった。未だにKanon版エヴァを引きずってるのか?

祐一「秋子さんが洗濯してたんじゃないのか?確か」

名雪「・・・・・あ」

(都合により一部割愛)

祐一「今からでも間に合うのか?」

名雪「一生懸命走れば間に合うよ」

どうやら、かなりヤバイらしい。

祐一「なあ、名雪」

名雪「ん?」

祐一「帰ってきたら、部屋の片付けを手伝ってくれないか?」

名雪「祐一の荷物、もう届いたの?」

祐一「いや、まだだけど、今日の午前中には届くと思う」

名雪「女の子に力仕事させるの?」

祐一「運動部の腕の見せ所だろ?」

名雪「うー」

困ったように横に向く。

名雪「運動部は運動部でも、私は操縦専門だよ」

待てっ!!操縦ってなんだ!?

・・・やっぱり普通じゃない。

祐一「似たようなもんだろ?」

俺も何言ってんだぁ!?

名雪「全然似たようなものじゃないと思うけど・・・」

というか、似てる似てないの問題ではない気がする。

名雪「でも・・・うん、いいよ。祐一のお手伝いするよ」

祐一「悪いな。その代わり、空になったダンボール箱は全部名雪にやるから」

名雪「いらないよ」

祐一「秘密基地とか作れるぞ」

名雪「あ・・・・そっか。じゃあ、いる」

なぜそこで納得する?

声「・・・あら?」

玄関で固まってると、背中から不意に声をかけられた。

秋子「名雪、まだいたの?」

リビングの扉を開けて、秋子さんが顔を覗かせていた。

秋子「もうこんな時間だけど、今から間に合うの?」

名雪「エンジンをフル稼働させれば間に合うよ」

それはいったい何の言葉だ。

秋子「がんばってね」

名雪「うん」

祐一「何を頑張るんだ・・・?」

秋子「おはようございます、祐一さん」

すでに会話になっていない。

マイペース(という言葉で済ませられるのだろうか?)なところは、さすがに名雪の母親だった。

秋子「朝ご飯、食べますよね?」

祐一「いただきます」

名雪「わたしの朝ご飯は?」

秋子「もうすこし早く起きたらね」

もっともな意見だった。

名雪「えっと、行ってきます〜」

ドアを開けると、巨大なモビルスーツが立っていたが見なかったことにする。

名雪は颯爽とモビルスーツに乗りこむ。

秋子「行ってらっしゃい、気をつけてね」

名雪「うんっ」

ヴォオオオオオオオオオオオン!!

謎のホバーリフト音を響かせてモビルスーツらしきものは音速で去っていった。

モビルスーツの後ろ姿を見送った後、秋子さんがぽつりと呟く。

秋子「もう少し早く起きてくれると助かるんだけど・・・」

祐一「名雪って、朝弱いんですか?」

秋子「明日から、祐一さんも大変ですね・・・」

いや、すでに大変なのは分かっています。

朝ご飯を食べた後、ソファーでくつろいでテレビを見る。

祐一(見たことの無い地図だな・・・・)

つくづく、自分が未開の土地に来たことを実感する。

祐一(俺はいつまでこの街で暮らすんだろうな・・・)

できれば、すぐに国へ帰りたかった。

 

祐一「いっぱいあるなあ」しみじみと言う。

名雪「祐一が送ったんだよ・・・」とても不満そうだった。

祐一「とりあえず、運んでしまうか」

名雪「・・・大変そうだよ」

俺も手近な箱を一つ持って、階段に向かう。

名雪「・・・祐一」と、後ろから名雪が呼びとめる。

祐一「どうした?」

名雪「・・・・持ちあがらない」

祐一「気合だ!」

名雪「無責任だよ〜」

祐一「変身だ!」

名雪「・・・・・あ、その手があった」

祐一「え?」

名雪「へんし〜ん」

呑気そうにそう言うと、名雪の体が光り輝いた!!

名雪「変身したよ〜」

一瞬にして、名雪は魔法少女になっていた。

祐一「・・・・・・・」

名雪「魔法少女名雪だよ〜」

センスのかけらも無かった。

祐一「で、何が出来るんだ?」

名雪「魔法が使えるよ〜」

どうやら、体力的には何も変わってないらしい。

祐一「俺一人でやるか・・・」

 

 

名雪「急いで買ってくるよ」

祐一「じゃあ、俺ここで待ってるから」名雪に買い物鞄を渡す。

名雪「絶対に待っててね」

名雪「勝手にどっか行ったら嫌だよ」

祐一「大丈夫だって」

それに、ひとりだと帰れる自信が無い。

名雪「それでは、行ってきます」

祐一「ああ」

 

声「そこの人っ!」

祐一「・・・・え?」突然の声。

声「どいてっ!どいてっ!」

状況がわからないまま、気がつくとすぐ目の前に女の子がいた。

いた・・・・・というか、走っている。

手袋をした手で大事そうに旧日本軍の不発弾を抱えた小柄で背中に羽の生えた女の子だった。

・・・って、不発弾!?

女の子「うぐぅ・・・どいて〜」

ドカッ!

ズゴオオオオオオオオオオオオオンッ!

女の子「ひどいよぉ・・・避けてって言ったのに・・・」

祐一「お前は人間爆弾かっ!!」

1月07日 完

評:うわ〜またも壊れてます。というか壊れないと成り立たなくなってきました(爆)なぜかロボットネタ多しです。月宮あゆにいたっては名前すら出ずに終わってますね(爆)月宮あゆファンの皆さん、ごめんなさい。