1月14日

祐一「・・・・・・・・」

目覚ましよりも少しだけ早く目が覚めたので、天井を眺めながら朝の微睡みを楽しんでいた。

祐一「・・・・・そろそろ起きるか」

鳴ることの無かった目覚ましをオフにして、俺は部屋を抜け出した。

廊下の冷たい部屋を歩きながら、名雪の部屋まで行く。

祐一「名雪ーっ!起きろーっ!」

ドアを殴打しながら、名雪の名前を呼ぶ。

こうでもしなければ起きないのは先刻承知の上だ。

ドアを開ければ声も届きやすいのだが、あの部屋の重力を体験するのは非常に嫌だ。

祐一(名雪が起きなかったら俺死んでるよな・・・・)

名雪「・・・・・・・・・」

カチャと扉が開いて、中からプラ○スーツ姿の名雪がぽーっと顔を出す。

たぶん、寝ぼけてそのまま寝たのだろう。

・・・・・・って、なに冷静に状況説明してんだ俺は!

祐一「起きたか?」

いや、まずその格好につっこめ!

歩いてドアを開けているんだから普通は起きていないわけは無いのだが、しかし名雪は普通ではない。

名雪「・・・・香里」

祐一「香里?]

名雪「・・・わたし、香里食べられるよ」

祐一「食うなっ!!」

名雪「・・・香里、好きだもん」

祐一「好きでも食うなっ!!」

名雪「・・・おかあさんも好きだもん」

祐一「秋子さんまで食おうとするなっ!」

名雪「・・・・・くー」

寝ている。

しかし、名雪の口の端が笑っている。

名雪「・・・・・ごちそうさま」

祐一「・・・・・・・」

食べたらしい。

ぼかっ。

名雪「うく・・・あ、あれ?」

祐一「おはよう、名雪」

名雪「あれ?あれ?」

祐一「今日もさわやかな朝だな」

名雪「なんだか頭が痛いよ・・・」

祐一「それはきっと、二日酔いだな」

名雪「え?」

祐一「ゆうべ、一升瓶ごとがぶがぶ飲んでただろ」

名雪「えっ」

祐一「俺がコップについでやったら、こんなもんでちびちび飲んでられるかーって言って」

名雪「・・・・」

祐一「しかも、酔った勢いで裸踊りまで披露してたな」

名雪「・・・・・あ、そうか」

祐一「・・・・・・は?」

名雪「祐一、良く知ってるね」

祐一「なにぃぃぃぃぃ!?

名雪「でも、あの時祐一は寝てたはずなのに・・・・」

祐一「な、名雪、まさか本当に裸踊りを・・・・」

名雪「じゃあ、わたし着替えてくるね」

祐一「待てっ!何事も無かったように部屋に戻るなっ!」

っていうか、これ本当は名雪のセリフじゃ・・・・。

★  ★  ★  ★  ★

名雪「・・・・・・・あ」

いつもの通学路を歩いていると、名雪が小さく声をあげて立ち止まった。

名雪「・・・・・・」

そして、じーーーーーーーっと向かいの家の軒先を見つめている。

祐一「どうしたんだ?まだ寝てるのか?」

名雪「猫さん・・・・・」

祐一「・・・・は?」

名雪「猫さんがいるよ・・・」

複雑な表情の先に、確かにこげ茶色の猫がうずくまっていた。

うにゃあ〜。

あくびでもするように、怠惰に一声鳴く。

名雪「可愛い・・・・」

頬を赤く染めて、とろんとした表情で、よだれをたらしている。

・・・・・って、よだれ!?

名雪「可愛いよぉ・・・抱きしめたいよぉ・・・・」

じゅるり。

なんだっ!今の「じゅるり」はっ!

うなぁ〜。

当の猫は、名雪の反応などおかまいなしにのんきに日向を楽しんでいる。

祐一「なんか、可愛げのない猫だな」

名雪「そんなことないよ!祐一、おかしいよ!」

祐一「・・・そ、そうか?」

名雪の普段見せることの無い剣幕(&よだれ)に、思わず一歩後ずさってしまう。

名雪「あんなに可愛いのに・・・・」

じゅるり。

祐一(・・・・・・・・・・)

猫の命、危うし。

名雪「わたし、行って来る・・・」

名雪「祐一、止めないでね」

祐一「ちょっと待てっ!」

猫の生命のためにと止めてしまったが、止める理由が無い。

・・・・・・はっ!そうだっ!

こんなとき思い出した記憶に俺は感謝した。

祐一「お前確か、猫アレルギーだろ!」

都合良く思い出させてくれたゲームに感謝。

名雪「うー。そうだけど、でも可愛いもんっ」

祐一「やめとけって、またあの時みたいにくしゃみが止まらなくなるぞ!」

名雪「ねこーねこー」

祐一「後で大変なことになるからダメだ」

名雪「ねこーねこー」

俺は猫の命を死守した。

★  ★  ★  ★  ★

名雪「そういえば、私が猫アレルギーだったこと、良く覚えてたね」

祐一「忘れてたけど、今思い出したんだ」

名雪「・・・・・・チッ

言った!確かに今「チッ」って言ったっ!

★  ★  ★  ★  ★

香里「・・・・あれ?」

学校の敷地内に入ったところで、クラスメートと出会った。

香里「おはよう、相沢君。今日はひとり?」

祐一「いや、名雪が隠れてる」

香里「・・・どこにもいないじゃない」

祐一「巧妙に隠れてるからな」

名雪「・・・祐一、良く分かったね」

祐一「うおっ!」

名雪「完璧に気配を隠していたのに・・・」

祐一「本当に隠れてたのか・・・」

祐一「・・・・って、なんでお前の方が遅いんだ」

名雪「うん・・・ちょっとね」

げぷっ。

祐一「・・・・・・・・・・」

何が起こったのかは想像に難くないのだが、それを口にするのはどうしてもはばかられる。

名雪「あ、チャイム。急がないと」

祐一「・・・・・・・・・・」

とりあえず、冥福を祈るしかなかった。

★  ★  ★  ★  ★

商店街にて。

名雪「そういえば、お腹すいたね・・」

切なそうにお腹を押さえる。

祐一「言われてみれば、そうだな」

祐一「何か食っていくか」

名雪「闇鍋」

間髪入れずに返ってくる。

祐一「俺、帰る」

名雪「わっ、祐一、非道いよ〜」

名雪「百花屋さんの闇鍋」

祐一「このまえ行った喫茶店だよな?」

っていうか、百花屋に闇鍋なんてあるのか?

名雪「うん」

祐一「今日はおごりじゃないぞ」

名雪「えー」

祐一「えー、じゃない!」

しゃきっ!

気づくと、俺の首にナイフがあてがわれていた。

名雪「うー」

口調は困っていたが、顔は笑っていた。

そして、持っているナイフ。

祐一「・・・・おごらせてもらいます」

今まで生きてきて一番怖い笑顔だった。

1月14日 完

評:今度は名雪がすごい壊れてます。性格が分からなくなってきました。なんかもう多重人格って感じですね。