秋子「おはようございます、祐一さん」
秋子さんが、まるで俺が時間に起きてくるのを知っていたかのように微笑む。
祐一「おはようございます。いつも早いですね」
秋子「祐一さんも早いですよ」
自分の椅子に座る俺の目の前で、秋子さんが温かそうなジャムをきゅうすで注ぐ。
・・・・・って、ジャム!?しかもきゅうすに!?
あゆ「秋子さん、ボクにもっ」
秋子「はいはい」
祐一「名雪、起こさなくても良いですよね」
秋子「起こしても、きっと起きないと思いますよ」
あゆ「うぐぅ、このジャム熱い・・・」
熱いジャムってどんなジャムだ・・・・・。
秋子「そういえば、猫舌だったわね。ちょっと待ってね、今お水入れるから」
祐一「真琴のやつは?」
秋子「・・・・・企業秘密です」
祐一「は?」
秋子「祐一さん、真琴の後を追いたいですか?」
にっこり。
祐一「・・・・・うぐぅ、遠慮します」
あゆ「うぐぅ、真似しないで・・・・」
そして、黙々と食事が進む。
祐一「ごちそうさま」
あゆ「ボクもごちそうさまでした」
祐一「それじゃあ、俺は部屋に戻ってますから」
がたんっ、と席を立つ。
そして、そのまま食卓を出・・・・・・
しゃきんっ!
あゆ「うぐぅ、祐一君・・・・いぢわる」
しかし、俺の首にはナイフがあてがわれていた。
あゆ「無視しないでよ、祐一君〜」
祐一「わ、悪かった。無視したのは謝るからそのナイフをどけろっ!」
あゆ「うぐぅ、心がこもってないよぅ〜」
祐一「・・・・・すいませんでした」
あゆ「あと3回」
埋蔵金探してたほうがまだ可愛かった・・・・・・・・。
★ ★ ★ ★ ★
あゆ「だったら、映画を見ようよ」
祐一「ビデオでも借りてくるのか?」
あゆ「違うよ、盗んで来るんだよ」
祐一「借りて来いっ!」
★ ★ ★ ★ ★
名雪「祐一、お昼だよー」
1階から、名雪の声が聞こえる。
祐一「・・・・・・あれ?」
目の前にはラーメンでは無く、巨大な魚だかなんだか分からない生き物が。
名雪「どうしたの、祐一?サンショウウオ嫌い?」
何でサンショウウオが出てんだっ!
祐一「しかもよく見るとオオサンショウウオじゃないかっ!」
たしか特別天然記念物に指定されてなかったかっ?
っていうか、食えるのかっ!
名雪「しっぽ、しっぽ」
名雪は、珍しそうにオオサンショウウオの尻尾と戯れている。
祐一「っていうか、戯れるなっ!」
★ ★ ★ ★ ★
あゆ「・・・・・あ、祐一君っ!」
ベンチに座っていたあゆが、俺の姿を見つけて立ちあがる。
人目を気にした様子も無く、体を大きく伸ばして手を振っている。
祐一「もう少ししおらしく待てないか?」
あゆ「だって嬉しいもん」
祐一「そんなに映画が嬉しいか?」
あゆ「映画も嬉しいけど、やっぱり待ってた人が来てくれることが一番嬉しいよ」
あゆ「それだけで、今まで待ってて本当に良かったって思えるもん」
祐一「なんかおおげさだな」
あゆ「ううん、そんなことないよっ」
あゆ「だって、獲物が来てくれたんだもんっ」
祐一「・・・・・獲物ってなんだ?」
あゆ「秘密だよっ」
祐一「・・・・・・・・」
ぴょこっとベンチから立ちあがって俺の手を引っ張る。
あゆ「行こ、祐一君。日が暮れる前にね」
祐一「・・・そうだな」
祐一「・・・・そういや、今やってる映画ってなんだか知ってるか?」
あゆ「ううん。全然」
祐一「なんの映画かも知らないのに誘ったのか?」
あゆ「うん」
祐一「・・・まぁいいけど」
あゆ「ボク、あんまり映画見ないから」
祐一「俺だってほとんど見ないな」
あゆ「昔は、良く両親に連れられて見たんだけど・・・・」
祐一「昔って、どれぐらい前だ?」
あゆ「小学生ぐらいの時、かな」
俺と会っていた頃だな。
祐一「よし、そろそろ入るか」
あゆ「うん」
と、元気良く歩き始めた俺が、突然凍りついたように足を止める。
・・・・・まあ、本当はあゆが足を止めるのだが。
あゆ「うぐぅ、祐一君、銅像ごっこ・・・・・?」
いや、それ俺のセリフ・・・・。
俺の視線の先には、映画の告知用の看板が掲げられていた。
あゆ「あ、これだね。今日上映の映画って」
その看板には、「秋子さんのみちのくジャムの秘宝の旅」と描かれている。
祐一「なんで秋子さんが・・・・・・・?」
あゆ「すごいねっ。秋子さんてなんでも出来るんだねっ」
程度の問題だと思う・・
1月17日 完
評:真琴が消えちゃいました。・・・・うぐぅ。