朝、目覚めると、眩しい光がカーテンの向こう側から差し込んでいた。
それでも暖かさではなく寒さが先に立つのはこの街ならではだと思う。
手早く着替えて、そして部屋を出た。
名雪「祐一」
すぐ隣の名雪が、俺の顔を見上げる。
名雪「今日は午前中で終わりだね」
祐一「何が?」
名雪「祐一の寿命」
こら待てっ!俺の寿命は午前中で終わるのかっ!
祐一「そうなのか?」
テキスト通りに答えてるし、俺。
名雪「うん。明日の生け贄の準備があるから」
生け贄・・・・って、俺明日の生け贄!?
名雪「あ」
祐一「どうした?」
名雪「心臓、止まってる」
祐一「・・・誰の?」
名雪「祐一の心臓」
祐一「のおおおぉぉぉぉっ!」
★ ★ ★ ★ ★
名雪と歩く商店街。
半日で学校が終わったので、陽はまだ高かった
名雪「あとで、おいしいもの食べに行こうよ」
祐一「また、百花屋か?」
名雪「ううん、今日は違うところ」
祐一「なんだ、珍しいな」
名雪「百花屋の闇鍋はすっごくおいしいけど、でも、たまには別の店もいいよ」
闇鍋・・・・すっかり忘れてたな。
祐一「どっか、うまい店知ってるのか?」
闇鍋じゃないことを祈ろう。
名雪「うん。いろいろ知ってるよ」
食べられるものでありますように・・・・・・。
名雪「屋台のフグ焼き屋さんなんてどうかな?」
名雪「フグを焼いて中にあんこをそのまま入れるの」
祐一「絶対にダメだ!」
名雪「どうして?」
死ぬから・・・・・・・。
名雪「それなら、別のお店考えとくよ」
しかし、我がいとこながら、つくづく変な性格だと思う。
これで、全然性格の違う俺と血が繋がっているのだから、不思議なものだった。
名雪「困ったね。どこにしようか・・・・」
祐一「・・・・ところで、先に時計屋行ったほうがいいんじゃないか?」
名雪「そうだね。時計が止まったままだと不安だからね」
しばらく歩くと、目的の場所はすぐに見つかった。
名雪「ちょっと待っててね。すぐに電池交換して貰うから」
言い残して、名雪が時計屋に入っていく。
祐一「・・・・・・・」
しばらく待っていると、殺気がしたので素早く身を伏せると、俺が立っていたところに手投げナイフが飛んできた。
祐一「名雪か?」
テキスト通りに喋るとかなり違和感のあるセリフだ。
あゆ「こんにちは、祐一君っ」
振りかえると、名雪ではなく、あゆが笑顔で立っていた。
なんて挨拶の仕方だ・・・・・。
祐一「なんだ、あゆか」
あゆ「うぐぅ、なんだはひどいよ〜」
祐一「てっきり、ほ〜ちゃんだと思った」
・・・・って、ほ〜ちゃんって、誰!?
(ほ〜ちゃん、勝手にネタに使ってごめんなさい。)
あゆ「・・・なゆき?」
あゆが、聞きなれない名前に首を130度ほど捻っている。
・・・・・・いや、死ぬって。
あゆ「・・・・・食べ物?」
祐一「食うな」
あゆ「・・・・・飲み物?」
祐一「飲むな」
そういや、あゆは名雪と一度も顔を合わせたことがないのか・・・。
祐一「秋子さん、知ってるだろ?」
あゆ「うん。ボク秋子さん大好きだよ」
祐一「秋子さんの、娘さんの名前だ」
あゆ「そうなんだ・・・・・」
あゆが感心したように頷いている。
祐一「ちなみに、俺のいとこだ」
あゆ「もしかして、一緒に住んでるの?」
祐一「そういうことになるな」
あゆ「そうなんだ・・・・・」
名雪「お待たせ、祐一・・・・?」
店を出てきた名雪が、あゆの姿を見つける。
祐一「こいつが名雪だ」
あゆのために、簡単に紹介する。
あゆ「・・・・・」
じゅるり。
祐一「食うなっ!」
しかも、これって前のネタ使ってるし・・・・。
★ ★ ★ ★ ★
名雪「ええっと、あゆちゃんって呼んでいいのかな?」
自己紹介が終わって、名雪が先に話しかける。
あゆ「うん。あゆちゃんでいいよ」
名雪「私のことも、姉御って呼んでいいよ」
あゆ「・・・・姉御?」
ちょっと待てぇっ!姉御って何だっ!
あゆ「・・・やっぱり、名雪さんって呼ばせてもらうよ」
名雪「残念・・・・・・」
名雪は、姉御と呼んで欲しかったらしい。
・・・・普通呼ばれたいか?
名雪「そうだ」
名雪「もし良かったら、これから遊びに来る?」
あゆ「え?」
思わぬ誘いだったのか、あゆが驚いたように訊き返す。
名雪「お母さんも大歓迎だと思うよ」
あゆ「・・・・」
名雪「どうかな?」
あゆ「でも、日が暮れちゃうよ・・・・」
名雪「それなら、泊まっていったらいいよ」
あゆ「でも・・・・・」
あゆにしては、珍しく遠慮がちだった。
あゆ「・・・ボク、やっぱり今日は遠慮するよ」
申し訳なさそうに俯く。
あゆ「今日は、他の家に強盗に行く予定だから」
祐一「行くなっ!」
あゆ「でも、今度またきっと強盗に行くよ」
祐一「来るなっ!」
名雪「うん。いつでも大歓迎」
ちょっと待て!歓迎して良いのか!?
★ ★ ★ ★ ★
名雪「わたし、これでいいよ」
そう言って、店の棚に置かれていた物を手に取る。
それは、ばら売りされた真っ赤なビー玉だった。
名雪「安いよ。20円」
祐一「ビー玉なんか、何するんだよ・・・・」
名雪「目潰し」
祐一「・・・・・・・」
名雪「祐一に目潰しするの」
・・・・・・買いたくなかった。
1月19日 完
評:ほとんど名雪ばかりです。あゆももうすぐ消えるかと思うとちょっと残念です。あと、ほ〜ちゃんごめんなさい。