あゆ「あ・・・・」
廊下に出たところで、ちょうど名雪の部屋から出てきたあゆと顔を合わせる。
あゆ「・・・祐一君」
祐一「今起きたところか?」
あゆ「・・・うん」
祐一「だったら・・・おはよう、あゆ」
あゆ「あ・・うん・・・おはよう、祐一君」
祐一「大丈夫だって、熱も下がったって言ってたから」
あゆ「・・・・・」
祐一「これも、あゆがずっと看病してくれたおかげだって・・・秋子さん、感謝してたぞ」
あゆ「でも、ボク・・・、途中で寝ちゃったよ・・・・・」
祐一「一人でがんばったんだから、それくらい仕方が無いって」
あゆ「・・・それに・・・ボク、昨日帰るつもりだったのに・・・・」
祐一「・・・腹減ってないか?」
あゆ「・・・え?」
祐一「俺なんか、昨日は味の薄い雑炊しか食べてないからな」
あゆ「・・祐一君、ボクの料理食べたの?」
上目遣いに、あゆが俺の顔をうかがう。
あゆ「・・・・・・」
祐一「・・・うまかったぞ、薄味だったけど」
あゆ「・・・ほんと?」
あゆの表情が、ぱっと明るくなる。
祐一「今までの料理に比べたら、遥かにましだった」
あゆ「・・・よかったぁ」
下を向いて、小さく声を漏らす。
あゆ「副作用があったから心配したよ・・・・・」
祐一「・・・・・・待て、副作用ってなんだ」
あゆ「もう発病しないから大丈夫だよ」
祐一「そう言う問題じゃないだろぉっ!!」
一体何だったんだ、副作用ってのは!?
秋子「おはようございます、祐一さん」
キッチンには、まるで何事も無かったかのように、秋子さんが立っていた。
祐一「・・・・秋子さん、もう大丈夫なんですか?」
秋子「ええ、おかげさまで」
コーヒーを注ぎながら、秋子さんが微笑む。
その表情からは、昨日の姿は想像できなかった。
あゆ「・・・副作用、大丈夫だったみたいだね」
祐一「言うなっ!聞こえたらどうするっ!」
秋子「大丈夫ですよ」
聞こえてるし・・・・・・
秋子「ちゃんとあらかじめ解毒剤持ってますから」
そう言って微笑む。
・・・・いや、解毒剤って何?
あゆ「・・・秋子さん」
服を着替えたあゆが、心配そうに入ってくる。
秋子「本当に、あゆちゃんのおかげね」
あゆ「・・・・・・」
じっと俯いていたあゆが、何かを決心したように顔を上げる。
あゆ「・・・ボク、今日家に帰ろうと思うんだ」
秋子「・・・そう」
秋子さんは、微笑んだだけだった。
秋子「何時頃、帰るの?」
あゆ「暗くなるまでには、帰るよ・・・・・・・」
秋子「あゆちゃん」
秋子さんが、優しくあゆの名前を呼ぶ。
秋子「またいつでも、好きな時に来てね」
あゆ「・・・・うん」
秋子「わたしは、あゆちゃんのお母さんの代わりにはなれないけど・・・・・」
秋子「でも、姑になることは出来ると思ってるから」
祐一(・・・・姑?)
何故?
あゆ「・・・・うん」
あゆも納得してるし・・・・・・
あゆ「到着っ」
たんっ、とその場で跳ねるように振り返る。
祐一「本当にここまででいいのか?」
あゆ「うん。平気だよ」
あゆ「祐一君、このベンチ覚えてる?」
赤く染まる木のベンチ。
駅前の広場に設けられたその場所は、薄く雪が積もっていた。
オレンジの雪・・・・・
赤いベンチ・・・・
そして、少女の笑顔・・・・
あゆ「ボク、ずっと待ってたんだよ」
ベンチの背もたれに軽く手を触れる。
あゆ「祐一君が来てくれるのを、ずっと、ずっと・・・・・・」
あゆ「このベンチに座って・・・・」
そうだ・・・・・・・。
あの冬。
俺とあゆはこの場所で会う約束をしていたんだ・・・・・・
あゆ「遅いよ、祐一君・・・」
あゆがベンチに座って、俺の顔を見上げる。
祐一「悪い、ちょっと遅れた・・・・・・」
あゆ「ちょっとじゃないよ、たくさんだよ」
オレンジ色の光りのなか、ベンチに座るあゆが、にこっと微笑む。
そんな日常は俺が帰る日まで続いた・・・・
あゆ「今日は、送ってくれてありがとう」
ベンチに座っていたあゆが、ぴょこっと立ちあがる。
祐一「言っただろ。昨日のお礼だって」
あゆ「秋子さん、元気になって良かったね」
祐一「でも、あんまり無理するなよ」
祐一「あゆが倒れたら、今度悲しむのは秋子さんなんだから」
あゆ「・・・・・・」
祐一「俺だって、そうだ・・・・・・」
あゆ「・・・祐一君」
駅の窓に反射した光が、向かい合うあゆと俺の姿を赤く照らす。
あゆ「・・・ボク・・・もう、大切な人がいなくなるのは嫌だよ・・・・」
祐一「・・・・・・・」
(中略)
あゆ「祐一君・・・ボクの顔見ないでね・・・・・」
あゆ「きっと、ぼろぼろ、だから・・・・・」
涙混じりの、言葉にならない声。
あゆ「だ・・・から、目を閉じて・・・・・」
祐一「わかった・・・・」
あゆ「ボクも・・・・・」
小さな体を寄せて、精一杯背伸びをする。
あゆ「目を閉じるから・・・・」
あゆの吐息をすぐ近くに感じて・・・・
初めて触れた少女の唇は、柔らかくて、そして温かくて・・・・・
触れ合った部分から体温を奪われる感じがして・・・・
だんだん、俺の血色が悪くなっていて・・・・
って、ちょっと待て・・・
俺、あゆに生命力吸われてるっ!?
あゆ「・・・あ、あの、えっと・・・・」
あゆ「その・・・ごちそうさまっ」
脱兎のごとく、逃げ出すあゆ。
祐一「ま・・・待て・・・・」
寿命が3年ほど縮まった・・・・・
あゆ編 1月24日 完
あとがき:久しぶりに納得の行くものが出来ました・・・。あゆがなんだか分からなくなってます・・・