あゆ編 1月24日

あゆ「あ・・・・」

廊下に出たところで、ちょうど名雪の部屋から出てきたあゆと顔を合わせる。

あゆ「・・・祐一君」

祐一「今起きたところか?」

あゆ「・・・うん」

祐一「だったら・・・おはよう、あゆ」

あゆ「あ・・うん・・・おはよう、祐一君」

祐一「大丈夫だって、熱も下がったって言ってたから」

あゆ「・・・・・」

祐一「これも、あゆがずっと看病してくれたおかげだって・・・秋子さん、感謝してたぞ」

あゆ「でも、ボク・・・、途中で寝ちゃったよ・・・・・」

祐一「一人でがんばったんだから、それくらい仕方が無いって」

あゆ「・・・それに・・・ボク、昨日帰るつもりだったのに・・・・」

祐一「・・・腹減ってないか?」

あゆ「・・・え?」

祐一「俺なんか、昨日は味の薄い雑炊しか食べてないからな」

あゆ「・・祐一君、ボクの料理食べたの?」

上目遣いに、あゆが俺の顔をうかがう。

あゆ「・・・・・・」

祐一「・・・うまかったぞ、薄味だったけど」

あゆ「・・・ほんと?」

あゆの表情が、ぱっと明るくなる。

祐一「今までの料理に比べたら、遥かにましだった」

あゆ「・・・よかったぁ」

下を向いて、小さく声を漏らす。

あゆ「副作用があったから心配したよ・・・・・

祐一「・・・・・・待て、副作用ってなんだ」

あゆ「もう発病しないから大丈夫だよ

祐一「そう言う問題じゃないだろぉっ!!」

一体何だったんだ、副作用ってのは!?

 

秋子「おはようございます、祐一さん」

キッチンには、まるで何事も無かったかのように、秋子さんが立っていた。

祐一「・・・・秋子さん、もう大丈夫なんですか?」

秋子「ええ、おかげさまで」

コーヒーを注ぎながら、秋子さんが微笑む。

その表情からは、昨日の姿は想像できなかった。

あゆ「・・・副作用、大丈夫だったみたいだね

祐一「言うなっ!聞こえたらどうするっ!」

秋子「大丈夫ですよ」

聞こえてるし・・・・・・

秋子「ちゃんとあらかじめ解毒剤持ってますから

そう言って微笑む。

・・・・いや、解毒剤って何?

 

あゆ「・・・秋子さん」

服を着替えたあゆが、心配そうに入ってくる。

秋子「本当に、あゆちゃんのおかげね」

あゆ「・・・・・・」

じっと俯いていたあゆが、何かを決心したように顔を上げる。

あゆ「・・・ボク、今日家に帰ろうと思うんだ」

秋子「・・・そう」

秋子さんは、微笑んだだけだった。

秋子「何時頃、帰るの?」

あゆ「暗くなるまでには、帰るよ・・・・・・・」

秋子「あゆちゃん」

秋子さんが、優しくあゆの名前を呼ぶ。

秋子「またいつでも、好きな時に来てね」

あゆ「・・・・うん」

秋子「わたしは、あゆちゃんのお母さんの代わりにはなれないけど・・・・・」

秋子「でも、姑になることは出来ると思ってるから

祐一(・・・・姑?)

何故?

あゆ「・・・・うん」

あゆも納得してるし・・・・・・

 

あゆ「到着っ」

たんっ、とその場で跳ねるように振り返る。

祐一「本当にここまででいいのか?」

あゆ「うん。平気だよ」

あゆ「祐一君、このベンチ覚えてる?」

赤く染まる木のベンチ。

駅前の広場に設けられたその場所は、薄く雪が積もっていた。

オレンジの雪・・・・・

赤いベンチ・・・・

そして、少女の笑顔・・・・

あゆ「ボク、ずっと待ってたんだよ」

ベンチの背もたれに軽く手を触れる。

あゆ「祐一君が来てくれるのを、ずっと、ずっと・・・・・・」

あゆ「このベンチに座って・・・・」

そうだ・・・・・・・。

あの冬。

俺とあゆはこの場所で会う約束をしていたんだ・・・・・・

あゆ「遅いよ、祐一君・・・」

あゆがベンチに座って、俺の顔を見上げる。

祐一「悪い、ちょっと遅れた・・・・・・」

あゆ「ちょっとじゃないよ、たくさんだよ」

オレンジ色の光りのなか、ベンチに座るあゆが、にこっと微笑む。

そんな日常は俺が帰る日まで続いた・・・・

あゆ「今日は、送ってくれてありがとう」

ベンチに座っていたあゆが、ぴょこっと立ちあがる。

祐一「言っただろ。昨日のお礼だって」

あゆ「秋子さん、元気になって良かったね」

祐一「でも、あんまり無理するなよ」

祐一「あゆが倒れたら、今度悲しむのは秋子さんなんだから」

あゆ「・・・・・・」

祐一「俺だって、そうだ・・・・・・」

あゆ「・・・祐一君」

駅の窓に反射した光が、向かい合うあゆと俺の姿を赤く照らす。

あゆ「・・・ボク・・・もう、大切な人がいなくなるのは嫌だよ・・・・」

祐一「・・・・・・・」

(中略)

あゆ「祐一君・・・ボクの顔見ないでね・・・・・」

あゆ「きっと、ぼろぼろ、だから・・・・・」

涙混じりの、言葉にならない声。

あゆ「だ・・・から、目を閉じて・・・・・」

祐一「わかった・・・・」

あゆ「ボクも・・・・・」

小さな体を寄せて、精一杯背伸びをする。

あゆ「目を閉じるから・・・・」

あゆの吐息をすぐ近くに感じて・・・・

初めて触れた少女の唇は、柔らかくて、そして温かくて・・・・・

触れ合った部分から体温を奪われる感じがして・・・・

だんだん、俺の血色が悪くなっていて・・・・

って、ちょっと待て・・・

俺、あゆに生命力吸われてるっ!?

あゆ「・・・あ、あの、えっと・・・・」

あゆ「その・・・ごちそうさまっ

脱兎のごとく、逃げ出すあゆ。

祐一「ま・・・待て・・・・」

寿命が3年ほど縮まった・・・・・

 

あゆ編 1月24日 完

あとがき:久しぶりに納得の行くものが出来ました・・・。あゆがなんだか分からなくなってます・・・