当日。
良く晴れた。快晴だ。風も無い。
高校野球日和である。
決勝の相手は、祐一たちと同じ無名高だった。勝ちあがり方も似ていた。
祐一「・・・・・・暑い」
北川「夏だからな・・・・・・」
祐一「どうして、球場にはクーラーがないんだろうな」
北川「汗かく意味無いだろ」
祐一「・・・・・・それもそうだ」
緊張しないわけが無い。日常会話でそれを和らげようとしていた。
やがて、審判の声が響き渡る
「プレーボールッ!」
接戦だった。
連戦の疲れが溜まっている。誰もがそうだった。
ただ、気力だけの勝負だった。
9回表。二死二塁。祐一に打順が来た。
得点は2−1で負けている。ヒットならば同点になる。
ここまで祐一は全打席敬敬遠(※1)されていた。ここでも敬遠されるのだろうか。
それだけは嫌だった。
祐一(名雪と約束したからな…………)
「絶対勝ってね」
脳裏に、名雪の言葉が響く。
マウンドに内野陣が集まっている。敬遠するかどうかという相談だろう。
何やら言い合いをしていた。投手が怒りながらわめいていた。
やがて、監督の指示が出、内野が散らばって行く。
勝負する気だ。
最後のチャンスだった。
第一球。バットが届くかどうか微妙なところにボールが行った。
審判「ストライーーック!」
球審の手が挙がる。
祐一「・・・・ッ!」
バットが出ない。ひどく緊張していた。
準々決勝の投手よりは打ち易かった。決勝戦独特の雰囲気に飲み込まれていた。
焦る。
第二球が投じられた。
バシィッ!
審判「ストライーーック、ツー!」
祐一(くそっ・・・・・)
苛立ちばかりが募る。
その時だった。
ふと観客席を見たとき。
従兄弟の少女がいた。
名雪は笑っていた。
「ふぁいとっ、だよ」
そう言っている気がした。
苛立ちが収まっていく。落ち着きを取り戻す。
第三球。投手の手からボールが弾き出された。
一瞬、投手の顔が歪んだように見えた。
ど真ん中のストレート。
カキィッ!
バットに響く衝撃。
1瞬の間。
沸く歓声。
内野を抜けた。ヒットになる。
それ以外考えられずに走った。
一塁を回ったところで止まる。
祐一(二塁走者は?)
咄嗟に本塁を見る。
二塁走者が走ってくる。
同点だ。
そう思った。
目の前を何かが横切った。
打ち返したボールだった。
意思があるかのように、真っ直ぐにキャッチャーミットに収まった。
二塁走者とキャッチャーが衝突する。
ゆっくりと時間が進む。
審判の手が動く。
審判「・・・・・アウトォ!!」
その日の夕食はパセリ・・・・・・では無かった。
いつもより少し豪華だった。
ただ、一つだけ皿いっぱいのパセリがあったが。
祐一は黙ってパセリを食べた。
夕食後。
とん、とん。
祐一「・・・・・・・・名雪か?」
名雪「うん。入っていい?」
祐一「ああ」
がちゃり。
名雪が入ってくる。
名雪「えっと・・・・・その・・・」
祐一「・・・・・・・ごめん」
名雪「え?」
祐一「約束・・・守れなかったな」
名雪「・・・・・」
名雪「・・・・・・うそつき」
祐一「・・・・そうだな。俺はうそつきだな」
名雪「・・・・・・でも、嬉しかった」
祐一「え?」
名雪「・・・・祐一、最後に私のこと、見てくれた」
祐一「・・・・・・・」
名雪「だから、許してあげる」
祐一「名雪・・・・・・」
名雪「それと・・・・・・えっと・・・」
名雪「これは・・・・わたしから・・・祐一へのごほうび」
唐突に名雪の顔が近づいてくる。
祐一「・・・っ!」
一瞬、唇と唇が重なり合う。
そっと、顔を離す。
名雪「敢闘賞、だよ」
祐一「・・・・・・・・・」
名雪「おやすみ」
そう言って、名雪は祐一の部屋のドアをゆっくりと閉めた・・・・・・
完
あとがき:時期はずれだよ(笑)。毎回毎回終わり方へたくそですねオレ。詰めをいつも誤るんですよねぇ・・・はぁ。それにしてもキスシーン・・・・・・オレはキスなんかしたことねぇのに(笑)。それにしてもKanonと高校野球を結びつけるのは無理ありすぎですね(笑)
※敬遠:バッターの長打などを警戒し、わざとボール球を投げ打者との勝負を避けること。