舞編 1月12日

俺だけ先に学食を抜け出して、ひとりで教室に帰る。

学校から校舎へと戻ったところで俺は足を止めた。

他の生徒達は、そのまま旧校舎へと続く渡り廊下へと姿を消して行く。

俺だけぽつんと一人残されて、突っ立ったままでいた。

顔は、渡り廊下でない方、職員室や談話室で並ぶ廊下に向いていた。

そこには、曇り空を窓越しに眺めて立つ少女。

昼休みの喧騒から離れるように、ひとり佇んでいた。

祐一「よぉ」

俺はその見覚えのある顔に声をかけた。

少女「・・・・・・・・」

一度は俺の方へ目を向けるが、興味無いといった感じで再び窓の外に視線を移した。

祐一「昨日は暗くて気づかなかったけど、3年生だったんだな、あんた」

ケープのリボンの色で見分けがつく。

少女「・・・・・・・・・」

夕べと同じだ。俺の存在には気づいているのだろうけど、まるで眼中にないようだった。

祐一「夕べ、会ったよな。この辺りでさ」

少女「・・・・・・・・」

祐一「何してたのさ、あんな物騒なもの持ってさ」

少女「・・・・・・・・」

祐一「魔物ってなに」

その質問まで自然に持っていこうとしたのだが、結局彼女が答えないままだったので、意味が無くなってしまった。

少女「・・・・・・・・」

そして案の定、その質問に対しても答えは出ない。

祐一「はぁぁ・・・・」

どうすれば、コミニュケーションが成立するのだろうか。

祐一「返事だけでもしてくれよ。『はい』か『いいえ』でいいから」

少女「・・・・・・・・」

祐一「覚えてるよな、俺のこと」

少女「・・・応」

祐一「・・・・・・」

ちょっと待てっ!『応』ってなんだっ!本編ではまんまじゃなかったかぁっ!?

★  ★  ★  ★  ★

女生徒「舞、ごめんーっ」

女生徒「って、あれっ?」

その女生徒は俺の存在に気づいて驚いているようだった。

それはこちらも同じで、目の前の無口な女(舞、と今呼ばれていたようだが)に友達がいたことに内心驚いている。

女生徒「えっと・・・・お友達ですか?舞の」

祐一「彼氏だ。全校公認のな」

舞「・・・・・・・」

女生徒「ふぇー・・・」

祐一「こらこら、否定しないから信じてるじゃないか、このひと」

舞「そうじゃない」

祐一「遅すぎるっ」

女生徒「はー・・・で、どういうお知り合いなんです?」

気を取り直したようにして、女生徒が俺へ目を向ける。

祐一「それは・・・・・」

舞「囮」

祐一「・・・・・・・」

女生徒「ふぇー・・・そうなんですか・・」

祐一「いや、それはちが・・・・・・」

女生徒「囮なら、ちょうど良いですね」

は?

女生徒「囮になってもらいましょう」

舞「・・・・・・」こくり。

祐一「待てぇっ!囮って、何の囮だぁっ!?」

★  ★  ★  ★  ★

四階からさらに階段を登ったところに来ると、その場にビニールシートを敷き始める。

女生徒「はい、どうぞーっ」

その上に、重箱のようなお弁当箱を並べて、両腕を開いて見せた。

ふたりとも、すでに腰を落ち着けている。

俺も靴を脱いで、彼女達と同じように、その一端に腰を下ろした。

顔を見合わせると、まるで遠足のお昼のようで失笑してしまう。

祐一「確かにこの季節、ここだったら、誰も来ないよな」

女生徒「ヘンですか?」

祐一「いや、良いと思うよ。毎日が遠足みたいでさ」

女生徒「あははーっ、ですよね」

女生徒「やっぱりご飯は机で食べるより、こうやって地べたに座って食べたほうが美味しいと思うんですよ」

確かにそう言われてみるとそんな気がしてきた。

もとより、女性二人に囲まれて不味くなるはずも無かったが。

祐一「しかし・・・豪勢な弁当だよな」

おかずの入った弁当箱がみっつ、ご飯だけのものがふたつ。

その統一感から、ひとりの人間が作ったことは明らかだ。

祐一「これは誰が?・・・って、そっちが作るわけないか」

女生徒「ええ、佐祐理ですけど。割り箸ありますから、どうぞ食べてくださいね」

佐祐理、とは彼女の名前なのだろう。

自分のことを名前で呼ぶ奴は好きじゃなかったが、彼女には嫌悪感を抱かせない自然さがあった。

ようはその一人称が合っている、ということなのだろう。

佐祐理「じゃ、これ、こっちに置いておきますね」

色とりどりの弁当箱のひとつが、俺の目の前に置かれる。

祐一「悪いね。遠慮無く戴くことにするよ」

と、俺たちが話し始めてる間に、舞は一人黙々と弁当箱をつつき始めていた。

マイペースというか、なんというか・・・。

祐一「そういや、名前聞いてなかったな、お互い」

佐祐理「あ、ごめんなさい。倉田佐祐理です」

祐一「俺、相沢祐一」

舞「・・・・・・・・・・」

祐一「・・・・・・・」

佐祐理「舞の名前は、知ってるんですよね?」

祐一「いや、知らないから待ってるんだけど」

佐祐理「ほら、舞」

舞「・・・・・」

舞「・・・赤川一平」

祐一「姉さん、事件ですっ!・・・ってちょっと待てっ!お前今の違うだろっ!」

舞「殺村凶子」

祐一「人の名前パクるなっ!」

★  ★  ★  ★  ★

なら、こうすればどうだろう。

佐祐理「・・・・・・・・?」

舞「・・・・・・」

佐祐理「あの、祐一さん」

祐一「ん・・・・・・?」

佐祐理「なにやってるんですか?」

弁当箱の緑の縁を端で摘んで移動させてゆく俺を見て佐祐理さんが不思議に思ったらしい。

というか、当然だ。

弁当箱が俺の周囲に集合してるんだから。

が、しかしこれで舞の箸の届く範囲からすべての弁当箱が離脱したわけだ。

現に、行き先を失った箸を硬直させた舞がこちらをじっと凝視している。

祐一「・・・・・・・・」

舞「・・・・・・・」

祐一「・・・・・・」

舞「・・・・・・・」

舞「・・・・・フルーツパフェ牛乳MIXの胡麻和え」

よっしゃーーーーーーーっ!

祐一「・・・ってちょっと待てっ!そんなものあるかっ!」

舞編 1月12日 完

評:うぐぅ疲れる〜。最近マンネリで困ってるにょ〜。結局戦闘シーンが書けなかったし・・・。