舞編 1月29日

俺はいつも通りに夕方に帰宅すると、佐祐理さんからの連絡を待っていた。

本を読んだり、ぼーっとTVを見たりして、適当に暇を潰していた。

それでも電話は無い。

何か用事でも出来たのかと思い、先に夕食を済ませることにした。

晩御飯を食べてからも連絡は無かった。

中止にでもなったのだろうか。

そんなはずはない。

中止なら、佐祐理さんからその旨を伝える電話があるはずだ。

落ち着かずに、自室に戻ったり、リビングに降りたりと、家をうろうろする。

いつものように夜の校舎へ出かける仕度をしてから電話の前に立つ。

・・・・・・。

電話は鳴らない。

舞を放っておくわけにはいかなかったし、かといって佐祐理さんの約束を破って家にいないわけにもいかない。

・・・・いや、待てよ。

佐祐理さん自身は舞と最終的に落ち合うのだから・・・・。

俺は時計を見る。

いつもの・・・あの時間だ。

祐一「・・・・・・・・」

嫌な予感がした。

それは、本当に不吉な予感だ。

佐祐理さんの連絡先は分からない。

となると、一刻を争う。俺は衝動的に家を飛び出していた。

走り出してしまってから、俺は後悔する。

違うな・・・・。

佐祐理さんなら、舞と落ち合う前に、必ず俺に連絡を取るはずだ。

プレゼントを渡すような、そんな状況で抜け駆けのように佐祐理さん一人、舞と会ったりしない筈だ。

もしかしたら、俺は唯一危険を回避できる方法を自らの手で消してしまったのではないか。

俺は近くの公衆電話へ駆け寄ると、駆け込んで、硬貨を突っ込むと自宅のダイヤルを叩いた。

声「はい、桜ヶ丘中学」

祐一「違うだろっ!」

祐一「俺だよ、祐一」

名雪「どうしたの、慌てて」

祐一「俺に電話無かったか」

名雪「うん、あった」

名雪「行き違いだったね。祐一が出てったあと、すぐかかってきたよ」

内容を聞くのが怖い。連絡を待つ、であってくれ、とただ願う。

名雪「倉田さんって女の人。今から学校に向かうので来てくださいって」

俺は自分の愚かさを突き付けられることになる。

知ってたんだ、佐祐理さんは・・・・・・

夜の校舎に舞がいることを・・・・・・・

名雪「これって、もしかして告白?」

揶揄するような名雪の声を遮って、俺は受話器を置いた。

何度俺は佐祐理さんや舞を疑ったら気がすむのだろう。

馬鹿過ぎる。馬鹿で馬鹿で馬鹿だった。

作者「ばーか」

祐一「・・・・・・」

作者「ばーか、ばーか」

祐一「テメェに言われたくねぇ・・・・」

 

祐一「舞・・・・・・」

舞は立っていた。それもいつも通りだ。

何事もまだ、起こってない。

舞「・・・・・・・」

祐一「舞っ・・・・・・」

舞の顔はまだ見えない。

背中を向け、廊下の突き当たりの壁に向かっていたからだ。

祐一「おい、舞、聞こえてんだろ・・・・・?」

俺はその背中に呼びかける。

舞「・・・・・・・」

祐一「なぁ、舞・・・・・・・・」

舞「・・・・・・」

不意に舞の体がぐらりと揺れた。

そして、そのまま壁にもたれかかった。

その舞の向こう、一直線に突き当たりの壁が見渡せた。

祐一「・・・・・・」

大きなアリクイのぬいぐるみが転がっていた。

・・・血の水たまりに濡れて。

舞「・・・・・・・」

祐一「おい・・・舞・・・」

舞「・・・・・・」

舞の体は、完全に壁からずり落ち、床に丸くなって横たわった。

・・・・・・。

・・・・。

・・。

 

俺達はお互い何も喋らず、佐祐理さんの運び込まれた病院に向かった。

待合室で、黙ったまま医者の処置を待つ。

夜遅いこともあり、電灯は一部しか点灯しておらず、寒々しい雰囲気が更に気を滅入らせた。

やがて診察室から、白衣の男が出てくる。

医師の説明は簡単だった。

舞萌え病。しばらくは入院生活だということだ

・・・ちょっと待てっ!『舞萌え病』ってなんだよっ!

・・・・何となく想像できるのが怖いんだが。

 

 

教室の中には、

窓際の机に腰掛ける舞の姿があった。

月明かりを受けて、青白く光っているようにも見えた。

夜の舞はいつでも幻想的と言う言葉が似合う。

舞「祐一・・・・・」

祐一「どうした」

舞「そばに来て欲しい・・・」

祐一「・・・・・・・」

俺は机の間を抜け、舞の居る窓際に立った。

舞「隣に座って欲しい・・・・・」

祐一「狭いぞ」

舞「いい・・・・」

ひとつの机にふたつの腰を並べる。

祐一「どうした、舞」

舞「・・・・・」

舞「私のせいで・・・・また佐祐理は傷ついた・・・」

祐一「そう一概に自分を責めるな」

祐一「おまえのせいじゃない。色んな不運が重なったんだよ」

祐一「俺だって・・・軽率な行動で、防ぐ機会を逃してしまった」

舞「・・・・・・」

舞「・・・そして自分だけが・・・」

舞「・・・・こうしてのうのうと傷つかずにいる」

舞は俺の言葉なんて聞いていないのかもしれない。

祐一「・・・・って、何だこれはぁっ!?」

舞は耳栓をしていた。

祐一「お前・・・初めから聞く気ねぇだろ」

舞「・・・はちみつくまさん」

 

1月29日 完

あとがき:

ぬぅ・・・・舞編もラスト近し。一気に終わらせたいところだが、今は管理者の体力が持たんッ!以上!