真琴編 1月25日

祐一「起きろよ、真琴」

俺は真琴の耳元で囁く。

もう昨日のように名雪に見つかりそうになって、肝を冷やすのは勘弁だった。

真琴「あぅ・・・・・」

薄目を開けて、俺の顔を見た。

真琴「・・・おはよぅ」

祐一「おう、おはよう」

ゆっくりとした動きで上体を起こす。

真琴「・・・あれ、ぴろは」

祐一「ぴろ?お前が踏んづけてるんじゃないのか」

真琴「あぅーっ・・・・」

くるんくるんと360度首を回して、自分の近くにぴろがいないか探す。

いや、死ぬって。

 

真琴「はぁーっ、今日も寒いねぇ・・・」

祐一「そうだな・・・」

祐一「でも、もう少しの辛抱だ。もう少しで暖かくなっていくよ」

真琴「よかったぁ。寒いのは・・・もうヤだよ」

祐一「真琴は寒いの苦手か」

真琴「うん、ぬるいほうがいい」

祐一(・・・なんだその、『ぬるい』って表現は)

真琴「春が来て・・・ずっと春だったら良いのに」

祐一「そっか。真琴は春が好きか」

真琴「うん。ずっと春だったら、ずっと光合成出来るのに」

俺はその言葉に、ただ願いを描いた。

春が来れば真琴は光合成を始める

そうすれば、きっとすべてがいい方向へと向き始める。

そんな気がしていた。

・・・・ちょっと待て。何で光合成なんだ?

 

商店街で。

声「・・・・祐一君」

呼び止める声に、視線を戻す。

あゆ「・・・祐一君」

もういちど、赤く染まった少女が、俺の名前を呼ぶ。

祐一「なんだ、あゆか」

あゆ「・・・・」

祐一「久しぶりだな、元気だったか?」

あゆ「祐一君、あのね・・・」

オレンジに染まる羽。

力無く、揺れる・・・・。

あゆ「探し物、見つかったんだよ・・・」

言葉とは裏腹に、寂しげに呟く。

祐一「良かったじゃないか」

あゆ「・・・・うん」

祐一「大切なものだったんだろ?」

あゆ「・・・・うん」

あゆ「大切な・・・・本当に大切な物・・・」

祐一「見つかって良かったな、あゆ」

あゆ「・・・・」

赤い雲の影が、地面の上を流れている。

あゆ「あのね・・・・・」

あゆ「探していたものが見つかったから、ボク、もうこの辺りには来ないと思うんだ・・・」

あゆ「だから、祐一君とも、もうあんまり会えなくなるね・・・・」

祐一「・・・そう、なのか?」

あゆ「ボクは、この街にいる理由が無くなっちゃったから・・・」

と、突然。

パトカー「ウウウウーーーーウウゥゥゥゥウウウウウーーーー!」

あゆ「あっ!」

祐一「どうした、あゆっ!」

あゆ「まづい、警察だよぅ〜」

祐一「・・・・お前、何したんだ」

あゆ「ボク・・・そろそろ行くね・・・・」

夕焼けを背景に・・・・

あゆ「・・・ばいばい、祐一君」

バシュウウウウゥゥゥゥーーーー!

あゆがバーニアをフル稼働させて、あっというまに見えなくなってしまった。

祐一「っていうか、ばいばいじゃねえだろっ!」

それに続いて追うパトカーの大群。

そして俺の足元に転がってきた紙。

祐一「・・・・・・」

手配書だった。

しかも、あゆの。

 

名雪「どうしたの?」

俺の顔はそんなにも変わり果ててしまったのであろうか。

帰ってきた俺の顔を見て、名雪が驚いた声をあげた。

名雪「すごく冷たい・・・・・」

名雪は俺の手を取って、握っていた。

祐一「なんでもない」

名雪「なんでもないわけないよ、これで・・・・」

確かに。なんでもないわけではない。

ふたりで出掛けていて、帰ってきたのは俺一人なのだから。

名雪「姉御は?

そう。まだ名雪は、あいつのことを「姉御」と呼ぶ。

・・・・って、呼ぶかぁっ!

 

真琴の部屋・・・・

そこで、俺はその場には不釣合いなものを俺は見つけた。

瓦だ。

それがいくつも、漫画本に混じって散乱していた。

ほとんどが真中から割られたものだ。

ずっと、あいつは瓦を割る練習をしていたのだ。

祐一「・・・って、なんで瓦やねん!」

割り箸じゃなかったんかい!

 

真琴編 1月25日 完

あとがき:うー、真琴編佳境です。あと何日やるんだろ・・・