祐一「起きろよ、真琴」
俺は真琴の耳元で囁く。
もう昨日のように名雪に見つかりそうになって、肝を冷やすのは勘弁だった。
真琴「あぅ・・・・・」
薄目を開けて、俺の顔を見た。
真琴「・・・おはよぅ」
祐一「おう、おはよう」
ゆっくりとした動きで上体を起こす。
真琴「・・・あれ、ぴろは」
祐一「ぴろ?お前が踏んづけてるんじゃないのか」
真琴「あぅーっ・・・・」
くるんくるんと360度首を回して、自分の近くにぴろがいないか探す。
いや、死ぬって。
真琴「はぁーっ、今日も寒いねぇ・・・」
祐一「そうだな・・・」
祐一「でも、もう少しの辛抱だ。もう少しで暖かくなっていくよ」
真琴「よかったぁ。寒いのは・・・もうヤだよ」
祐一「真琴は寒いの苦手か」
真琴「うん、ぬるいほうがいい」
祐一(・・・なんだその、『ぬるい』って表現は)
真琴「春が来て・・・ずっと春だったら良いのに」
祐一「そっか。真琴は春が好きか」
真琴「うん。ずっと春だったら、ずっと光合成出来るのに」
俺はその言葉に、ただ願いを描いた。
春が来れば真琴は光合成を始める。
そうすれば、きっとすべてがいい方向へと向き始める。
そんな気がしていた。
・・・・ちょっと待て。何で光合成なんだ?
商店街で。
声「・・・・祐一君」
呼び止める声に、視線を戻す。
あゆ「・・・祐一君」
もういちど、赤く染まった少女が、俺の名前を呼ぶ。
祐一「なんだ、あゆか」
あゆ「・・・・」
祐一「久しぶりだな、元気だったか?」
あゆ「祐一君、あのね・・・」
オレンジに染まる羽。
力無く、揺れる・・・・。
あゆ「探し物、見つかったんだよ・・・」
言葉とは裏腹に、寂しげに呟く。
祐一「良かったじゃないか」
あゆ「・・・・うん」
祐一「大切なものだったんだろ?」
あゆ「・・・・うん」
あゆ「大切な・・・・本当に大切な物・・・」
祐一「見つかって良かったな、あゆ」
あゆ「・・・・」
赤い雲の影が、地面の上を流れている。
あゆ「あのね・・・・・」
あゆ「探していたものが見つかったから、ボク、もうこの辺りには来ないと思うんだ・・・」
あゆ「だから、祐一君とも、もうあんまり会えなくなるね・・・・」
祐一「・・・そう、なのか?」
あゆ「ボクは、この街にいる理由が無くなっちゃったから・・・」
と、突然。
パトカー「ウウウウーーーーウウゥゥゥゥウウウウウーーーー!」
あゆ「あっ!」
祐一「どうした、あゆっ!」
あゆ「まづい、警察だよぅ〜」
祐一「・・・・お前、何したんだ」
あゆ「ボク・・・そろそろ行くね・・・・」
夕焼けを背景に・・・・
あゆ「・・・ばいばい、祐一君」
バシュウウウウゥゥゥゥーーーー!
あゆがバーニアをフル稼働させて、あっというまに見えなくなってしまった。
祐一「っていうか、ばいばいじゃねえだろっ!」
それに続いて追うパトカーの大群。
そして俺の足元に転がってきた紙。
祐一「・・・・・・」
手配書だった。
しかも、あゆの。
名雪「どうしたの?」
俺の顔はそんなにも変わり果ててしまったのであろうか。
帰ってきた俺の顔を見て、名雪が驚いた声をあげた。
名雪「すごく冷たい・・・・・」
名雪は俺の手を取って、握っていた。
祐一「なんでもない」
名雪「なんでもないわけないよ、これで・・・・」
確かに。なんでもないわけではない。
ふたりで出掛けていて、帰ってきたのは俺一人なのだから。
名雪「姉御は?」
そう。まだ名雪は、あいつのことを「姉御」と呼ぶ。
・・・・って、呼ぶかぁっ!
真琴の部屋・・・・
そこで、俺はその場には不釣合いなものを俺は見つけた。
瓦だ。
それがいくつも、漫画本に混じって散乱していた。
ほとんどが真中から割られたものだ。
ずっと、あいつは瓦を割る練習をしていたのだ。
祐一「・・・って、なんで瓦やねん!」
割り箸じゃなかったんかい!
真琴編 1月25日 完
あとがき:うー、真琴編佳境です。あと何日やるんだろ・・・