真琴編 1月26日

眠っていたのだろうか。

それでも、気がついたときには目を開いて、真琴の寝顔を眺めていた。

真琴はぐっすりと寝入っていた。

その額に手を当てる。熱はだいぶ下がっているようだった。

このまま寝続けていれば、良くなるだろう。

立ちあがってみると、やはり寝不足なのが分かる。

自分の体ではないみたいに、足元がおぼつかなかった。

着替えと鞄を持って、そっと部屋を後にした。

 

秋子「熱は、下がった?」

秋子さんは、話を真琴の熱の話題に移した。

祐一「まだ少し熱があるみたいです。だから、保育所のほうに連絡頼みます」

秋子「えっと・・・それは・・・」

俺がそう言うと、秋子さんはいつになく迷った表情を見せた。

そして口先まで出かかった言葉を飲み込んだ。

祐一「秋子さん?」

秋子「分かったわ。連絡入れておくから」

祐一「・・・・・・」

秋子「どうしたの?」

祐一「・・・いえ、お願いします」

そう言って俺は、椅子に座った。

祐一(・・・・そういや、真琴のバイトって、保育所じゃなかった気が・・・

秋子「・・・・・・・・」

ニヤリ

祐一(・・・・・・・待て)

なんですかその笑いは・・・・

 

 

祐一「ただいま」

寄り道をせずに帰ってくるなんて珍しかったから、まだ家の中は昼間の明るさを保持したままだった。

リビングに行くと、秋子さんは買い物に行ったらしく、姿が見えなかった。

くい。

制服のすそを誰かに引っ張られた。

真琴「・・・・・・・・」

振りかえると、そこにパジャマ姿のままの真琴がちょこんと座っていた。

祐一「おっと、びっくりした・・・・おまえ、起きたりして大丈夫なのか?」

真琴「・・・・・・・」

じっと俺の顔を見ていた。何か、考え事をしているように黙ったままだった。

祐一「熱は下がったのか?」

その額に手を当ててみる。

真琴「くるっくー

祐一「・・・・・・はい?」

真琴「・・・・・・・・」

もう一度手を額に当ててみる。

真琴「くるっくー

・・・・ちょっと待て。

 

秋子「祐一さん、居る?」

祐一「はい、いますよ」

秋子「電話よ」

祐一「あ、すぐ行きます」

 

祐一「誰からですか?」

廊下で待っていてくれていた秋子さんに、そう訊く。

秋子「ごめんなさい。声が小さくて、名前が聞き取れなかったの」

秋子「なんだか、プロテイン飲んでそうなやヴぁそうな感じの子

祐一「・・・・女の子なんですね?」

秋子「そう、女の子よ」

心当たりがあった。

っていうか、当てはまる人物は一人しかいねぇ。

 

受話器を取り、保留を解除する。

祐一「もしもし」

・・・・・・。

祐一「もしもし、代わりましたけど」

・・・・・・。

祐一「天野だろ?」

・・・・・・。

声「・・・相沢さん・・・でしょうか」

祐一「ああ。やっぱり天野か」

天野「・・・ええ」

祐一「どうしたんだ?」

天野「・・・・・・」

祐一「今、どこ?」

天野「・・・・・・」

天野「・・・・駅前です」

祐一「・・・わかった。すぐいく。じっとしててくれ」

天野「オクレ兄さん

祐一(・・・・何だ今のは)

 

駅前まで辿り着くと、俺は辺りを見渡す。

天野は分かりやすい場所に居た。

誰も居ない閑散とした路地への入り口。

おこにぽつん、と立っていた。

祐一「よぅ」

天野「・・・・・・」

天野「はい」

俺に気づいて天野はワンテンポ遅れの返事をした。

祐一「こんなところで、どうしたんだ?天野の家、この近くなのか?」

天野「いえ、遠いです」

天野「実家がアメリカで

祐一「嘘をつくな嘘を

天野「アイ カム フロム アメリカ

祐一「・・・・棒読みだし」

 

天野「・・あの子は、どうしてますか?」

不意に天野が口を開いてきた。

祐一「いろいろと変わってしまったよ。天野と話していた頃からな」

天野「なにかありましたか」

祐一「真琴は・・・まるで子供に戻ってゆくように、色々な事を忘れていってる」

天野「高熱を出しましたね」

祐一「ああ、出した」

天野「目からビームを出しましたね

祐一「出すか」

天野「力が失われる時・・・目からビームを出すそうです

祐一「・・・また嘘を」

 

家に帰ると、俺は名雪と秋子さんをリビングに集めた。

そして、全ての事情を話した。

誰の目から見ても、真琴の容態は深刻だったし、現実的に考えればそれを傍観していろというほうが無理な話だったからだ。

でも俺は酷にもそれを傍観してくれというほか無かった。

真琴の中で進行している症状に対して現実的な処方が無かったからだ。

無駄に労力を割いて貴重な時間を失うわけにもいかない。

ただ、見守ってくれ、と懇願した。

皆は俺の話を聞いた後でも、理解したような顔ではなかった。

名雪「・・・あの子が、昔拾った狐?」

そう言葉で聞いてしまうと俺だって信じられない。あまりに、非現実じみている。

でもそれは事実なのだ。

俺は黙ったまま、頷いて見せた。

名雪「・・・裏Kanonの最初のほうでは人造人間じゃなかった?(ぼそぼそ)

祐一「いや、それ言うと全部辻褄合わなくなるから(ぼそぼそ)」

 

1月26日 完

あとがき:これから真琴編はラストスパートです。エピローグまでだーっと行きます。・・・・ただ、ネタ考えてないけど(笑)。いつも行き当たりばったりだからなぁ。