おおぞらへ とべ


「うぅん、うまくいかないよぉ・・・・・・」
ここは、世界のどこかにある魔法学校『マジックアカデミー』
ここに通う生徒たちは、立派な賢者になることを夢見て日々勉強に励んでいる。
今、か細い声を上げた少女、アロエもこの学校の生徒である。
彼女の背丈は、まるで小学生のそれである。
本来、彼女の年齢ではマジックアカデミーに入ることは出来ないのであるが、飛び級でこの学校に入学した、所謂天才少女なのである。
前評判どおり、彼女は入学以来抜群の成績を残してきた。

・・・学科は。
「どうして飛んでくれないの・・・ホウキさぁん・・・」
アロエが今にも泣きそうな声になっている原因は、ホウキ。
このマジックアカデミー、頭に「マジック」と付くだけあって、当然、魔法――――実技試験もある。
アロエは実技も人並み以上に出来るのだが・・・。
何故か、どうしてもホウキで空を飛ぶという基本的なことが出来ずにいた。
「ん〜〜〜〜〜〜〜っ・・・・・・ん〜〜〜〜〜〜っ!!」
顔を真っ赤にしてホウキを握る手に力を込めてみるが、ホウキはピクリとも動こうとはしない。
おまけに、力を込める時に息も一緒に止めてしまった所為で、だんだんと頭がくらくらしてくる。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜・・・・・・ぷはぁっ!!」
やがて限界が訪れ、アロエはその場にへたり込んでしまった。
「うぅん、やっぱりうまくいかないよぉ・・・」
こうした試行と失敗を、かれこれ2時間半は繰り返しただろうか。
流石に諦めて今日はもう帰ろうとするアロエを、後ろから声が呼び止めた。

「おや?そこにいるのはアロエさんじゃないですか」
振り返ると、そこには眼鏡をかけた物腰の柔らかそうな青年―――――カイルがいた。
「あっ・・・カイルのおにいちゃん」
飛び級で入学したこともあり、同じく飛び級で入学した男の子、ラスク以外にアロエには同年代の生徒がほとんどいない。
そんな寂しさを紛らわすためだろうか、彼女は生徒のほとんどを「おにいちゃん」や「おねえちゃん」と呼んでいる。
「どうしました、こんな時間に?そろそろ帰らないと日が暮れてしまいますよ」
カイルの言うとおり、辺りは既に暮れかかっており、まだ幼いアロエが一人で帰るにはいささか心許ないような状況であった。
「うん・・・」
「・・・悩み事ですか?」
アロエの力なく頷いた様子を見て察したのであろう、カイルが口を開く。
「もしよろしければ、相談に乗りますよ」


「なるほど・・・飛行の実技ですか」
「うん・・・何回やってもうまくいかなくて、いっつもフランシス先生におしおきされちゃうの」
「ふーむ・・・ホウキで飛ぶには、コツがいりますからねぇ・・・」
もっとも、コツといってもそれは人によってそれぞれである。
例えば、何も考えずにホウキを握ったら飛べてしまったり、転んだ拍子に頭を打ったらいつの間にか飛べるようになっていたり、コツのつかみ方は千差万別だ。
「コツかぁ・・・ねぇ、カイルのおにいちゃんはどうやって飛べるようになったの?」
アロエの問いに、カイルは苦笑した。
「いやぁ、私の場合はちょっと・・・あんまり参考になりませんよ」
「そんなことないよっ。おにいちゃんがどうやって飛べるようになったか、アロエ知りたいっ!」
ホウキで飛べるかどうかは、アロエにとっては死活問題である(実際、飛べないのは致命的だ)
その真剣な眼差しに、やがてカイルは頷いた。
「・・・わかりました。では、私の場合をお話しましょう」


「ホウキに乗ったよ、おにいちゃん」
真剣な面持ちでホウキに乗るアロエ。
カイルは満足げに頷き、言った。
「では、目を閉じて頭の中で思い浮かべてください・・・・・・・・・自分の飛ぶ姿を」
「自分の・・・・・・飛ぶ姿?」
「えぇ。ホウキで空を飛べたらどうしたいか、などを思い浮かべるのもいいでしょう。なるべく具体的なイメージを持ってください」
カイルの言うとおり、目を閉じてイメージしてみる。
(アロエの・・・飛ぶ姿・・・)

もし、飛べたら。

それはきっと、誕生日プレゼントの箱を開ける時みたいにわくわくするもので。

それはきっと、箱を開けた時の喜びに勝るとも劣らないもので。

それはきっと、楽しくて・・・

楽しくて・・・

嫌なことなんか、きれいさっぱり忘れるぐらい、気持ちいいもので。

初めて飛べた日の夜は、きっと興奮して一晩中眠れなくなるぐらい強烈な思い出として残るようなもので。

だから・・・

だから・・・

「アロエ、飛びたいっ!!」


その、瞬間。
突然、足場が無くなった。
階段で足を踏み外したような感覚がアロエを襲う。
でも、不思議と怖さは無い。
だって、それは・・・。
「と・・・飛んだ・・・」
カイルの言葉が、それを証明していた。
初めてアロエがホウキで飛んだ、決定的な瞬間だった。


「飛べたよっ!!アロエ、飛べたよぉっ!!」
地上に降り立つなり、アロエはカイルに飛びついてきた。
「おめでとうございます、アロエさん。見事な飛行でしたよ」
自分のアドバイスが役立ったことが嬉しいのだろう、カイルも自分のことのように喜んでいた。
「ありがとうっ!!カイルのおにいちゃんのおかげだよっ!!」
ぎゅっと、カイルを抱きしめる。
「あれ?カイルじゃねぇか。何やってんだこんなとこで」
全く別のところから、声。
カイルが声のほうへ顔を向けると、そこには同じ生徒のレオンが立っていた。
「ん・・・?」
レオンの視界に入ったのは、カイルに抱きついているアロエの姿。
レオンは察した。間違った方向へ。
「へぇ〜〜・・・カイルって、そういう趣味があったのか
「えっ!?ちょ、ちょっとレオン」
ヘンに理解してしまったレオンの誤解を解こうとするカインだが、ここでどう説明しても説得力に欠ける気がする。
「まぁ、人それぞれだからな。仲良くやれよ、お二人さん」
はっはっは、と豪快に笑いながら去っていくレオン。
明日以降、しばらくレオンにからかわれるかと思うと、苦笑せずにはいられなかった。
「はは・・・困りましたねぇ」
「??どうしたの、おにいちゃん」
「い、いえ、こっちの話ですよ」
そう言いながらも、それでもいいかな・・・と思ってしまう、カイルおにいちゃんでした。

あとがき:
たまには裏CLANNAD以外のSSも書きたくなったのですよ、深海ねこです。
現在俺がどっぷり浸かってしまっているコナミのアーケードゲーム、『クイズマジックアカデミー』のSSです。
そもそも需要が少ない上にキャラの性格が掴めてないので、かなりヘタレな内容となっております。
ふにゅー、やっぱりもっと精進せねば、ですな。

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