栞編 1月12日

今日の1時間目は、日頃の行いが行を奏してマラソンだった。

あとの2時間目、3時間目は昏倒するようにして過ぎていった。

そして、4時間目の日本史もあと半分に差し掛かったころ・・・・

北川「おい、相沢・・・・・・」

後ろの席の北川が、小声で話し掛けてくる。

北川「あの子・・・またいるぞ」

祐一「あの子って?」

同じ位の小声で話す。

そして、返してからその意味に気がついた。

窓の下。

雪に覆われた冷たい場所の中心。

祐一「・・・・・・・」

いつからその場所にいたかは分からない。

北川「女の子だろ?何やってんだろうな」

たったひとつの足跡が辿り着くその先に、雪のように白い肌の少女が立っていた。

小柄な体に、ストールを羽織っている。

ついでに今日は看護婦さんの服装だった。

間違い無く美坂栞だった。ていうか、思いっきり目立つだろ!

祐一(・・・はぁ)

思わずため息が出る。

もしかしたらとは思っていたが・・・・・

祐一(・・・・・・・)

祐一(まぁいいか・・・・・)

勿論よくはないのだが、今は授業中なのでどうすることも出来ない。

それに、無下に追い返すことが忍びないのも事実だった。

しばらくして、4時間目の終了を告げるチャイムが鳴り響いた。

担任が出ていって、一気に教室内が昼休みムードに染まる。

名雪「祐一、今日も学食?」

祐一「いや、俺は外」

名雪「え?」

祐一「じゃあな、名雪」

名雪「え? え?」

 

この時期の校舎裏は、当然のように学内の喧騒からは隔離された場所だった。

祐一「・・・よぉ」

栞「こんにちは」

台詞だけ聞いてると何でもないやりとりだったが、場所が場所だけに不思議な情景だった。

祐一「寒くないか?」

栞「もちろん寒いですよ」

ストールを羽織ってはいるが、短いスカートが特に寒そうだった。

栞「でも、暑いよりは良いですよ」

祐一「そうか?俺はどっちでも嫌だけど」

栞「暑いと、溶けちゃいますから」

祐一「・・・・・・・・・」

っておいっ!溶けるってなんだっ!

っていうか、笑えないギャグ・・・・・。

★  ★  ★  ★  ★

祐一「しかし、いつまで風邪を引いてるつもりだ?」

栞「わたしに訊かれても困ります」

祐一「医者はなんて言ってるんだ?」

栞「目からビームを出す困った患者だって言ってます」

祐一「いや、そうじゃなくて・・・・って、おいっ!目からビームって、まさか例の・・・・」

栞「祐一さん、それ以上言っちゃダメですっ!」

ビーーーーーーーッ!

チュドオオオオオンッ!

祐一「・・・・・・・・」

俺の顔を、怪光線が横切った。

後ろで爆発音・・・・・。

・・・・・・・・・。

これ以上は追求するのをあきらめよう・・・・・。

★  ★  ★  ★  ★

祐一「分かった、俺が何か買ってきてやる」

栞「学食ですか?」

祐一「そうだな」

学食の購買部にでも行けば、サンドイッチでもカレーパンでもマムシドリンクでもなんでも売っているだろう。

・・・・俺、なんか違うこと言わなかったか?

祐一「なんでも好きなもの買って来てやるぞ」

栞「ホントになんでもいいんですか?」

祐一「ただし、ここまで持ってこられるものだぞ?」

栞「分かりました・・・・・・」

一呼吸置いて、栞が呟く。

栞「マムシドリンクがいいです」

祐一「・・・・・は?」

栞「私は、マムシドリンクがいいです」

祐一「マムシドリンクって・・・・・もしかしてあの冷たいマムシドリンクか?」

マムシドリンクに「あの冷たい」なんて修飾語が付くとは到底思えなかった。

栞「温かいマムシドリンクってあるんですか?」

祐一「いや、あるにはあるが・・・・・」

もはや、飲み物ではあるまい。

栞編 1月12日 完

評:今回はイケてます。多分ですが。いや、何気に強調して見たんですが・・・・もうすぐ模試だし(関係ない)。