放課後になると、俺はすぐに教室を後にした。
まだ人の少ない廊下を走り抜けて、昇降口に急ぐ。
靴を履き替えて、外に飛び出す。
1分でも早く、1秒でも早く・・・・
祐一「なんだ・・・今日は俺のほうが早いと思ったのに」
栞「残念でした」
校門に背中をもたれるように立っていた少女が、ぴょこっと姿勢を正す。
祐一「全速力で走ってきたのに、なんで栞のほうが早いんだ」
栞「時間を止め・・・・い、いえ、何でも無いです」
祐一(スタンド!?)
栞「では、今日はどこに行きましょうか?」
祐一「よし、今日は思う存分商店街でデートだ」
栞「嬉しいですー」
栞「・・・でも、昨日も商店街でしたね」
祐一「大丈夫だって、あんなに広いんだから、まだ行ってない場所がたくさんあるはずだ」
栞「そうですね」
今日こそは、栞に渡す誕生日プレゼントを買わないと・・・・
そんな事を考えながら、商店街に向かって歩き出した。
栞「真っ赤です」
嬉しそうに返り血を浴びながら、栞が呟く。
祐一(って、またこのオチかっ!!)
栞「あ。この辺りはまだあまり来た事が無いですね」
この一角は、いかにも女の子向け、といった感じの店が並んでいる。
ひとりだと、まず近寄らない場所だ。
しかし、女の子への誕生日プレゼントを探すのであれば、これほど最適な場所はないのかもしれない。
問題は、何をプレゼントするかだが・・・
女の子への誕生日プレゼントなんて買ったことも無いから、いったい何をあげたら喜んでもらえるのかまったく分からない。
かといって、まさか本人に訊く訳にも行かないし・・・
栞「祐一さん、あのお店に入ってみませんか?」
栞が指差した店は、マムシドリンクやスッポンドリンクが所狭しと並んでいた。
祐一(って待てっ!健康ドリンクしかないじゃないか!)
祐一「・・・この店に入るのか?」
栞「ダメですか?」
祐一「さすがに、男が入るのはちょっと・・・・」
この状況だとテキスト通りでもかなり違和感がある。
栞「そんなことないですよ。祐一さんだったら、違和感有りませんよ」
スッポンドリンクやマムシドリンクと違和感が無いと言われても、嬉しいどころか逆に悔しくなる。
祐一「だったら、俺はここで待ってるから、一人で行ってきたらどうだ?」
栞「そうですね・・・分かりました」
栞「ちょっと行ってきますから、待っててくださいね」
言い残して、店に入っていく。
さて・・・・・
祐一「今のうちに、何か買っておくか・・・」
降って湧いた、プレゼント購入のチャンス。
しかし、一体どんなものを買えば喜んでもらえるのだろうか。
あゆ「祐一君っ」
うーむ・・・と思案していた俺の肩を、誰かがぽんぽんと叩く。
祐一「・・・なんだ、あゆか」
あゆ「なんだはひどいよっ」
不満そうだが、とりあえず無視しておく。
祐一「うーん・・」
あゆ「無視〜無視〜」
構って欲しいのか、目の前でぴょんぴょん飛び跳ねている。
祐一「悪いけど、今はあゆに構っている暇は無い」
あゆ「いいもんいいもん!今度祐一君に道で会ったら、こっそり不発弾付けるもんっ!」
祐一「そんなものこっそりつけられるかっ!」
あゆ「・・・もしくは、祐一君に投下(邪笑)」
祐一「・・・あゆさん、やめてください、お願いします・・・」
あゆ「でも、どうしたの?複雑な顔で考え込んでるけど」
祐一「・・・・・いや、ちょっとな」
こういう場合、まずは相手の特徴を考えて、それに合ったプレゼントを用意するものだと思う。
栞の特徴・・・・・・
健康ドリンク(バニラ味)が主食で、趣味は極小な雪だるまを作ることと地雷踏み。
・・・・プレゼント、考えたくないな・・・
祐一「なぁ、あゆ」
あゆ「うん?」
祐一「誕生日プレゼントに、スッポンドリンクと光学顕微鏡と地雷を貰って喜ぶ女の子がいると思うか?」
あゆ「・・・女の子以外でもいないよ・・・」
祐一「やっぱり、そうだよな・・・・」
つーか、ここだけテキスト通りだし・・・・・
あゆ「・・・プレゼントする相手って、栞ちゃん?」
遠慮がちに、尋ねる。
祐一「ああ」
あゆ「そっか・・・・」
祐一「・・・?」
あゆ「・・・他に、趣味とかないのかなぁ?」
祐一「他の趣味・・・・」
・・・・・。
・・・・・・あ。
祐一「思い出した・・・・・」
祐一「絵を描くことが趣味のはずだ」
ただし、呪われてるが・・・・
あゆ「それだよっ」
確かに絵を描く道具となると、いろいろと思いつきそうだった。
祐一「よし、じゃあ早速買ってくる」
あゆ「うん・・・がんばってね」
祐一「ありがとうな、あゆ」
あゆ「これくらい朝飯前だよ・・・」
栞が戻ってくるまで、そんなに時間は残っていないはずだ。
その前に買っておいた方が良いだろ。
俺はあゆに別れを告げて、それらしい店に入った。
あゆ「・・・・・」
その背中を、あゆが複雑な表情で見つめていた。
ショーケースに映った、どこか悲しそうな姿。
あゆ「・・・・・」
祐一「どうした?」
その様子が気になって、店の入り口で振り返る。
あゆ「何でもないよっ」
振り返ったとき、あゆは笑っていた。
いつもの笑顔で、穏やかに笑っていた。
あゆ「じゃあ、ボクも帰るねっ」
そう言い残して、その場所から走り出す。
夕暮れの長くて赤い影が、あゆの背中を追うように走っていく。
赤く染まった羽が、何故か印象的だった。
祐一「・・・・」
あゆの影を見送って、俺も店の中へ消える。
祐一「コピック一式ください」
どごっ!
あゆ「違うよっ!」
いつのまにか後ろにいたあゆにつっこまれた・・・・違ったのか?
栞編 1月28日 完
あとがき:だんだんとあとがきもめんどくさくなりました(ヲイ)栞編はもうすぐ終わる予定です。