栞「・・・あっ、祐一さん!」
まぶしく視界を遮る光を手のひらで遮りながら、声のした方向に目を凝らす。
同じように私服に着替えた栞が、心臓の鼓動を静めるように胸に手のひらを宛いながら駆け寄ってくる。
栞「あれ・・・もうそんな時間ですか?」
不思議そうに、きょろきょろと街頭の時計を見渡す。
祐一「いや、まだ約束の時間までだいぶあるぞ」
栞「ですよねっ。だって私、急いで来ましたからっ」
白く弾む息を整えながら、俺の元へ。
祐一「もっとゆっくり来ても良かったのに」
栞「先に来たかったんです。祐一さんよりも」
祐一「残念だったな」
栞「残念です・・・でも、次は負けませんからねっ」
祐一「じゃあ、二人揃ったところで出かけようか」
栞「あっ、祐一さん、ちょっと待ってください」
祐一「ん?どうした、栞?」
栞「私の背後霊さんがまだ来ていません」
祐一「・・・・・は?」
栞「あ、今来ました」
祐一「・・・・・・」
普通に栞の背中を確認したくなるじゃないか・・・・
祐一「それで、どこに行く?」
栞「そうですねぇ・・・・・・」
口元に白い手を当てながら、微かに俯いて思案する。
祐一「やっぱり、まずは腹ごしらえだよな」
栞「スッポンドリンク」
祐一「・・・・栞、腹ごしらえにスッポンドリンクは絶対に違うぞ」
栞「じゃあ、ラーメン大盛り」
祐一「・・・・普通なんだけど、何かが違う気がする・・・」
祐一「さて、問題はどこで食べるかだが・・・・・」
栞「・・・今日は、祐一さんの知っている場所に行きたいです」
祐一「俺の知っている場所なんて、ほとんど限られてるぞ」
栞「そうですか?」
祐一「商店街と、学校と、居候先の家と・・・・」
祐一「あとは、栞に教えてもらった公園」
祐一「この中で行きたいところなんて、あるのか?」
栞「祐一さんの家が良いです」
祐一「俺の家・・・・?」
予想外の答えに戸惑っていると、栞が真剣な表情で頷く。
栞「はい。祐一さんの住んでいる家を見てみたいです」
祐一「普通の家だぞ」
栞「それでもいいです」
栞「・・・お邪魔します」
玄関に上がった栞が、遠慮がちに声を出す。
秋子「・・・あら?」
ちょうどその時、リビングのドアが開き、中から秋子さんが顔を出す。
秋子「お帰りなさい、祐一さん」
祐一「ただいま・・・。ちょっと、お客さん来てるんですけど」
半歩横に移動して、後ろの栞を紹介する。
栞「おじゃましています」
ぺこっと頭を下げて、挨拶をする栞。
そして顔を上げる。
秋子「・・・・・・・」
その顔を、真剣なまなざしで秋子さんが見つめている。
じゅるり
祐一「・・・・・・」
秋子「えっと・・・」
秋子さんが、微かに首を捻る。
栞「あ・・・栞です。美坂栞」
秋子「栞ちゃんね」
栞「はい」
秋子「何も無い家ですけど、ゆくりしていってくださいね」
栞「ありがとうございます」
もう一度、ぺこっとお辞儀をする。
祐一「二階にいます」
秋子さんに断ってから、栞を促す。
秋子「栞ちゃん」
階段を上がろうとする栞を、秋子さんが呼び止める。
秋子「・・・もし、祐一さんに変なことをされそうになったら、これを使ってくださいね」
そう言って、栞にスタンガンを渡す。
秋子さんもひどいことをする。
秋子「祐一さん・・・ちょっと」
祐一「はい?」
振り向く俺を、真剣な表情の秋子さんが見つめ返していた。
祐一「・・・どうしたんですか?秋子さん」
秋子「・・・栞ちゃん、可愛い子ね・・・」
じゅるり
祐一「・・・・・秋子さん」
秋子「なに?」
祐一「・・・奪わないで下さい」
秋子「・・・・・・・チッ」
祐一(狙うつもりだったな・・・・・・)
1月30日 完
あとがき:いよいよ次が栞編ラストです・・・・どうしよう。マジでネタ考えてないですよ(汗)