雪だるまアイスクリーム

「う〜ん………」

ここは、ある小さな街の商店街。この地方は、よく雪が降る。したがって一月下旬なので雪が積もっている。

その商店街のど真ん中で、相沢祐一は一人悩んでいた。

祐一「栞の誕生日プレゼント、何にするかな……」

栞とは、付き合い始めてからもう一年になる。

祐一「あの時は、色々あったな……」

一年前、栞は不治の病に侵されていた。祐一と知り合った頃にはもう余命一ヶ月も無かった。しかし、栞は今では病気も治り、元気に学校に行っている。なぜ治ったかは、今でも分からない。

祐一「これが、奇跡って言うのかな……って、感傷に浸っている場合じゃないな…」

もうすぐ二月一日、栞の誕生日だ。去年は、スケッチブックを贈ったが、あれを十二分に使いこなせているかどうかは甚だ疑問だ。

栞の絵は、たとえて言うならピカソと漫画家を足して二で割ったようなものになる。

と、この前言ったら、

栞「そういう事言う人、嫌いです」

と言われた。

祐一「また画材道具っていうのもひねりがないな……、よし、名雪と北川と香里にでも聞いてみるか」

名雪とは、祐一の従兄弟である。祐一はその名雪の家に居候している身である。

北川は、祐一のクラスメートだ。そして香里は、栞の姉だ。

とりあえず祐一は名雪に聞いてみることにして、家路についた。

祐一「ただいまーっ」

名雪「あ、祐一、お帰り」ちょうど良く名雪が居た。

祐一「おう名雪、丁度良かった、ちょっとお前に聞きたいことがあってな」

名雪「え?なに?」

祐一「二月一日、栞の誕生日だろ。なにかいいプレゼントとか無いか?」

名雪「あ…そうか、もうすぐ栞ちゃんの誕生日なんだね」

相変わらずマイペースというか何というか。

祐一「それで、なにかいいプレゼントとか無いかな?」

名雪「う〜ん………」

しばらく考える名雪。

やがて、

名雪「そうだ」

祐一「何か思いついたか!」

名雪「うん。イチゴサンデーとかは?」

祐一「………それ貰って喜ぶのは名雪だけだろ」

名雪「え…そうかな……」

だいたいなんで誕生日プレゼントに税別八八〇円のイチゴサンデーをやらなきゃいけないんだ。

祐一「そうじゃなくて、なんか形に残るものだよ」

名雪「う〜ん、思いつかないよ……」

祐一「そうか、悪かったな」

名雪「ううん、私こそいいアイデア思いつかなくてごめんね」

そう言って名雪は自分の部屋へと階段を上って行った。

祐一「次は北川か……」

さっそく、電話で聞いてみることにする。

北川「はい北川です」

祐一「よう北川」

北川「なんだ相沢か」

祐一「俺で悪かったな」

北川「てっきり俺に片思いしている娘の告白電話だと思ったぜ」

祐一「お前にはそんなことは無いと思うぞ」

北川「お前って、時々非道いこと言うな。まあいいや。それで何だ?」

祐一「ああ、もうすぐ栞の誕生日だから、なんかいいプレゼントとか無いか?」

北川「ああ、そうか。栞ちゃんへのプレゼントねえ……」

祐一「なるべく形に残るものにしたいんだが」

北川「じゃあ、今から栞ちゃん家に行って来い」

祐一「それでどうするんだ?」

北川「そこで「プレゼントは俺だーっ!」と言うんだっ」

祐一「じゃあな、北川」

ガチャッ。

やっぱり北川は当てにならなかったな。

祐一「しょうがない、香里に聞くか・・・・・・」

プルルルルルル…………

ガチャッ

北川「おい相沢、いきなり電話切るなっ!」

祐一「おやすみ、北川」

ガチャッ

 

香里「栞へのプレゼント?」

次の日、祐一は香里を呼び出して聞いてみた。

祐一「頼む。なにか無いか?」

香里「普通、実の姉には聞かないわよ?」

祐一「いや、全く思いつかないから頼んでるんだ?」

香里「そうねえ・・・・・・・」

少し考える香里。やがて、

香里「そうね、栞は雪が好きだから、雪でもあげたらどうかしら」

と、かなり冗談交じりに言って見た。

しかし、

祐一「・・・・・・・そうか、その手があったか」

香里「え?」

祐一「サンキュー、香里。いいアドバイスだったぜ」

香里「え?え?ちょ、ちょっと相沢君!まさか、本気?」

祐一「俺はいつだって本気だ」

そう言って足早に祐一は帰っていった。

 

そして、栞の誕生日前日。

祐一は、栞の家に来ていた。      

祐一「ようし、いっちょ始めるか!」

しかし、今は冬。しかも真夜中である。

それでも祐一は作業を進めた。途中で見まわりの警官に見つかりそうになったが、それでも必死で頑張った。

そして、日付が変わり、朝日が昇る頃………。

祐一「………出来た」

もう体中ぼろぼろだった。今の時期が自宅学習で良かった。

もうそろそろ七時になる。と、

栞「ゆ、祐一さんっ!?」

振り返って見ると、窓から驚いた表情で栞が顔を覗かせていた。

祐一「……おはよう、栞」

栞「ど、どうしたんですか、こんな時間に?」

もはや喋る気力もほとんどないが、これだけは言っておかないとダメだ。

祐一「誕生日おめでとう、栞」

栞「えっ?……お、覚えててくれたんですねっ?」

祐一「当然だろ………」

栞「そ、それでこんな時間にどうしたんですか?」

祐一「誕生日プレゼントだぞ……栞」

栞「えっ?」

訳もわからずに栞がよく目を凝らして見ると………。

栞「わあ………………」

そこには、巨大な雪だるまがあった。

さすがに全長30メートルとまではいかないが、それでも三メートルぐらいはある。

祐一「どうだ……前に、雪だるまが作りたいって言ってたろ……」

栞「まさか、これを作るためにウチに来ていたんですか?」

祐一「他に思いつかなかったからな・・・・・・・・・」

栞「………祐一さん、嬉しいですっ」

栞「でも・・・・・・」

祐一「でも?」

栞「今度は、私も一緒に作りたいですっ!」

祐一「・・・・・・ああ、そうだ、な・・・・・」

どさっ。

祐一は疲れの余り倒れてしまった。

栞「あっ!ゆ、祐一さん!」

香里「はぁ・・・まったく、ホントにやるとはね・・・・・・」

栞「お、お姉ちゃん!起きてたの?」

香里「あれだけ騒げば、普通起きるわよ。それより、相沢君をそのままにはしておけないでしょ。家の中に運ぶわよ」

栞「う、うんっ」

そんな中で、祐一は満足そうに寝息を立てていた・・・・・・

あとがき:う〜ん、いつかダークなSS書きたいと思っているんですが・・・・・・、どうにもこういうほのぼの系が多いですね。でも、いつかはちゃんとダークなやつ書きたいです。でも基本はほのぼのとかギャグなんで、作者は鬼畜にはなりません(笑)