アナタのたい焼きどんな味?

原題:「〜夏と海とあゆとたい焼きと〜」
みーん、みーん、みぃぃーん。
セミがあちこちで鳴いている。
誰がどう見ても、夏真っ盛りだった。
そんな中、居候させてもらっている水瀬家の前で、相沢祐一は人を待っていた。
「あゆのやつ、遅いな・・・・・」
待ち人は、月宮あゆ。
「8時半にここへ来るって言ってたのはあいつのくせに・・・・」
既に待ち合わせの時間は過ぎている。
「・・・・・・あぢぃ・・・・・・」
この炎天下の中で待つのはキツイ。汗だくになる。
一旦家の中で涼もうかと、祐一が背中を向けた時。
「祐一君ーっ!」
聞き慣れた声。
振りかえってみると、あゆが走ってやってくるのが見えた。
「遅いぞ、あゆ」
「うぐぅ・・・ごめん・・・」
急いで走ってきた所為か呼吸がまだ整っていない。
遅刻とはいえ、それでも遅れまいとした姿勢は立派である。
そう思うと、あゆを責めるのも悪い気がした。
「まあ、俺もあゆとの待ち合わせに遅刻したことがあるから、おあいこだな」
それで今回の事は水に流す事にしよう。
「うん・・・祐一君、ありがと」
あゆが安堵の笑みを浮かべた。
思いのほか笑顔が可愛かったので、祐一はどきりとしたが、こほん、と咳払いを一つして落ち着く。
「それじゃ、海にレッツゴーだ!」
「うんっ!」


今日は、あゆと海に行く日である。
あの後、あゆは無事退院したが、その途端にホームレス状態になってしまった。
そこへ名雪が「家に来たらどうかな?」と言ったところ、秋子さんが例の如く1秒で「了承」と言ってくれたおかげで水瀬家へ居候している。
勿論、それには祐一も大賛成だった。
そして、高校へ通うために7年間分の勉強を必死でやっているというわけだ。
祐一はもちろん、いとこの名雪も一緒に手伝ってくれたおかげで、なんとか中学1年レベルの学力になってきた。
そんなこんなで夏になり、日頃から勉強しているあゆと、受験勉強をやっている祐一の息抜きを兼ねて海に行くことに決定したのである。
名雪も誘ったのだが、あいにくその日は部活(非常に信じがたいが、なんと長距離走でインターハイに出場するらしい)だと言う事で、あゆと二人で海に行くことになったのである。
「ボク、海って初めてなんだ」
あゆが子供のように無邪気に喜ぶ。
・・・・まあ、体つきを見るに、実際に子供のようではあるが。
「・・・・・それはいいが、その手に持っている紙袋はなんだ?」
元々、同じ家に住んでいるのだから、待ち合わせなどしなくても良かった。
だが、あゆが「どうしても買いたい物がある」と言って、出かけていったのである。
だったら祐一も家の中で待っていればいいじゃないか、という突っ込みは勘弁願いたい。
・・・・・・男はそんなもんだ。
で、そのあゆがどうしても買いたいもの、とは。
祐一は、あゆの持っている紙袋を見て、嫌な予感がした。
それは、独特の質を持つ紙袋だ。
「これ?これはね・・・」
ごそごそ・・・
ああ、間違いない。この甘い、アンコの匂い。
祐一が軽い立ちくらみを覚えたのは、暑さのせいだけではないだろう。
そして、例のブツが取り出される。
「たい焼きっ!」
にっこりと、本当ににっこりと笑うあゆ。天使の笑みだ。
はぁっ・・・・と、ため息をつく祐一。
「普通・・・・・・海に行くのにたい焼きなんて買うかぁ?」
「たい焼きは、焼きたてが一番だよっ」
もはや聞いちゃあいない。
だいたい、なんでこの暑いのにたい焼きが売ってるのだろう?


結局、たい焼きをぱくつきながら、二人並んで歩く。
「・・・ところで、勉強のほうはどうだ?」
「うぐぅ・・・連立方程式が難しいよ・・・・」
やや涙目になる。この辺で少し壁にぶつかっているようだ。
だがあゆ。その後には大半の中学生が悩んだ図形が待っているぞ。
それでも、約半年でここまでブランクを埋めてきたのだから、あゆの底力は凄いと思う。
ところで、分数の計算ってどうやるんだっけ?
前言撤回する。
「お前なあ・・・前のとこ忘れてちゃ意味無いだろ」
「だって、早く勉強して祐一君と一緒の学校行きたいもん」
「答えになってないぞ。第一、俺は今年卒業だぞ?」
「だからぁ・・・大学は絶対一緒に行くんだよっ♪」
とんでもない事を、さらりと言い放つ。
確かに、大検制度を利用すれば高校卒業と同程度の資格を得る事が出来る。
そうすれば、近いうちに祐一と同じ大学へ行く事は可能ではあるが。
「でも、大学まで一緒のところを選ぶ必要なんてないのに」
「・・・・・いつまでも祐一君と一緒に居たいからねっ♪」
爆弾発言。
祐一は顔がぼっと熱くなるのを感じた。
「お、お前、昼間からよくそんな恥ずかしい台詞を・・・・」
「え?まだ朝だよ?」
「朝でも一緒だっ」
「あ・・・もしかして、祐一君、照れてる?」
「なっ・・・・い、いやそんなことはないっ!」
「わ、顔赤いよ」
「日焼けだ」
「うぐぅ・・・まだ朝だよ」
まだ朝だったが、祐一の顔はすでに熱くなっていた。
「ふぃ〜、やっと着いたか」
そう言うと、祐一は持ってきた道具を降ろした。
祐一達の住んでいるところは北国だが、海に沿っているので海岸はある。
「まずは・・・・・っと」
持ってきた道具はパラソルとシートと秋子さんが作ってくれたお弁当。特にパラソルは海の定番だ。
パラソルを強く砂場に刺し、その下にシートと弁当箱を置く。
「祐一君っ、早く早くっ」
あゆが盛んに祐一を急かす。
「分かった分かった。とりあえず、水着に着替えて来い」
「うんっ♪」
そう言うとあゆは更衣室の方へ走っていった。
「しっかし、見事なまでに誰もいないな・・・・・・・・」
見渡す限り誰もいない。半ば貸し切りのようなものである。
「さて、俺も着替えるか・・・・・・」
誰も見ていないのを良いことにその場で服を脱ぎ始める。
およそ20秒で着替えが終了した。
こういう時、男は楽である。
脱いだ服をたたんでしばらく待つと、着替え終えたあゆがやってきた。


スク水ッ!?

「あゆ・・・・・・おまえ、その水着」
「あ、これ?秋子さんが作ってくれたんだけど・・・・・・に、似合わない、かな?」

いえ似合いますともッ!!(拳を握り締めながら)

(しかし秋子さん・・・あゆの水着にスク水を選ぶセンスといい、あの人は本当に恐ろしいぜ)
「どうしたの、祐一君?早く行こっ」
「え?あ、ああ、そ、そうだな」
「・・・・なんでどもってるの?」
「よし泳ぐぞ」
走り出す祐一。恥ずかしいのでとりあえず走る。
「うぐぅ、無視しないでよ〜」
走っていってそのまま二人とも海に・・・・・・。
入るはずだった。
たったったった・・・・・・きゅっ!! あゆが、足でブレーキをかけ、波打ち際で突然止まった。
祐一は止まれずにそのまま海に入ってしまった。
「・・・・・・?どうした、あゆ?」
そこから、右足を出す。続いて左足。恐る恐る海に向かって歩き出す。
そこへ波が。
「っ!」
少し大きい波がちょっと来ただけで、あゆはびくっとして後ずさってしまう。
「・・・・・・・・」
また、少しすつ海の中に入ろうとするあゆ。
海に来て、こんな珍奇な行動をする人間の共通項といえば・・・・・・。
「・・・・・あゆ、お前まさか」
「わっ!」
また波が来て、逃げ惑うあゆ。
「・・・・うぐぅ・・」
「・・・・はぁ」


ぷーーーっ!
祐一は、こんなこともあろうかと持ってきておいた浮き輪を膨らまし始めた。
「まさか・・・なんて思ったけど、ホントに必要になるとはな・・・」
「ごめんね、祐一君・・・・・・」
祐一の隣で、あゆがしゅんとうなだれている。
「いや、気にするな。・・・・・しかし、かなづちのくせに海行きたいなんて言うか普通?」
もともと、言い出したのはあゆだった。
「うぐぅ・・・・だって、海って行った事無かったんだもん・・・・・・」
「ま、いいけどさ・・・・・・」
祐一としては、あゆの水着姿を見ることが出来ただけでも満足だった。
(あゆあゆの スク水姿 ストライク By 祐一)
その証拠に、心の中で俳句まで生み出していた。
・・・・・・やがて、浮き輪が完全に膨らんだ。
「よし、出来た。これで泳げなくとも、海には入れるな」
「わあっ♪」
「・・・・・・でも、せっかく来たんだから、かなづちを直すまで泳ぐか」
「うん・・・・・頑張る」


「・・・・・・・・・」ざぶざぶ。
「まっ、待ってよ祐一君〜」ばしゃばしゃ・・・・・
「・・・・・・・・・」ざぶざぶ。
「うぐぅ〜・・・・・・・・」ざぁー・・・・・・
「・・・・・・・・・」ざぶざぶ
「待ってってば〜」ばしゃばしゃ・・・・・・
「・・・・・・・・・」
「うぐぅ〜・・・・・・・・!」ざぁー・・・・・・
「・・・・・・はぁ〜」
思わず祐一は、ため息をついた。
浮き輪をしたあゆだが、バタ足すらままならない状況だ。
おまけに、今日は少し波が強いのか、波が押し寄せてくると、たちまち浜辺まで押し戻されてしまう。
その繰り返しだった。
「いいかげんこっちに来いよ」
「ボクだってそっちに行きたいよ〜」半分泣きながらあゆが答える。
「しょうがない・・・・・・」ざぶざぶ
祐一はあゆを浮き輪ごと沖の方へ持ってきた。
「うぐぅ〜・・・・足がつかないよ・・・」
「・・・お前はどっちがいいんだ」
「だって〜〜〜」
そんなやり取りをしながら、祐一はふと、甘やかしすぎも良くないのかもな、と思った。
例えば、このままこっそり浜まで戻ってはどうだろうか。
極限状態に置かれた人間は、時に思いも寄らぬ力を発揮したりする。
追い込まれれば、普通のおじさんでも熊を投げ飛ばすコトだって可能なのだ(実話)
あゆが必死になって泳ぎだし、かなづちが治ってくれるかもしれない。
自分に都合の良いことばかりを思いついた祐一は、さっそく実行に移す。
まず、海中に潜る。
「・・・・あれっ?祐一君?」
あゆは必死になって探すが、海中には顔がつけられない。
祐一はそのまま潜水をして、少し離れたところで顔を出した。
それをあゆが見つけて、
「ゆ、祐一君〜!うぐぅ、怖いよ〜、置いてかないでよ〜」
かなり涙声になっている。
多少心が痛んだが、これもあゆのかなづちを治すためだ。
しかし、この時祐一は重大なことに気づいた。
沖から、かなりの大きさの波が迫っていることに。
「待ってよ、祐一君〜」
あゆが手足をばたつかせながらゆっくりと泳ぐ。
あゆの方は、この重大さに全く気づいている様子が無い。
あれでは間違いなく・・・波にさらわれる!!
「くそっ!」
祐一は迷うことなくあゆの元へ泳いでいった。
「あっ、祐一君。やっと戻ってきてくれた・・・」
「あゆ、浜まで戻るぞっ!」
あゆの手を引き寄せ、浜へと泳ぎだす。
「え?でも、ボクもう少しで泳げそうな予感がするんだよ」
「いいから来いっ!遭難するぞっ!」
「え・・・・・・・?」
あゆが振り向くと、後ろで波があゆを見下ろしていた。
うぐぅーーーーーーーーーーっ!
「おい、こらっ、暴れるなっ!」
祐一はあゆを抱えたまま必死で泳いだ。
「ぐお・・・・・・・・・・」
浜まであと100メートルはある。間に合うかどうかは微妙だった。
「あっ、祐一君、ボク、泳げるよっ」
もちろんそれは、祐一があゆを抱えてるからなのだが。
「だぁーーーーーーーーっ!」

ザッパァァァァァァンッ!


「・・・・・・・祐一君」
「・・・・・・・・・・・・・」
「祐一君てばぁ・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
「うぐぅ・・・・祐一君が、死んじゃったよぉ・・・」
「・・・人を勝手に殺すな」
「わっ!・・・祐一君が生き返った・・・・」
「だから、死んでないって」
あの後、すんでのところで波を回避した祐一は、浜まで来るとそのまま力尽きてしまったのだ。
気づくと、波打ち際で寝ていた。
「でも、面白かったね♪」
「・・・・・俺は、二度と経験したくないぞ」
「でも、嬉しかったよ」あゆが微笑む。
「祐一君が・・・助けに来てくれたから」
「・・・・・・・・・・・・・・」
ぼっ。
祐一は、朝に続いて顔が熱くなった。
「ま、まぁ・・・・・あゆが隣にいないと、人生がつまらないからな」
今度は、あゆが赤くなる番だった。
「・・・・祐一君、恥ずかしいよ・・・・・」
「朝のお返しだ・・・・・・・」
「うん・・・・祐一君、いじわるだもんね・・・・」
その言葉を最後に、あゆは俯いてしまった。
祐一は、恥ずかしいことだらけで頭がパニックだった。


そのころ、水瀬家では。
「おかあさん、祐一達、いまごろうまくやってるかな」
なぜか家にいる名雪が訊く。
「ふふ、そうねえ」
秋子が笑って、頬に手をやる。
実は、名雪は今日は部活が休みだったのだ。
それを祐一が知るのは、翌日のことになる。
つまりこれは、最初から二人きりになるように仕組まれていたわけで・・・・・・
だが、祐一たちはそんな事を露とも知らず、二人してたい焼きをほお張るのだった。

「アナタのたい焼きどんな味?」 完

あとがき:
リメイクでございます。
ここ最近流行のリメイクです。
でもその辺のリメイクと違って、新作ヅラしないのが深海ちんです(ぉ)
リメイクついでにタイトルを変更してみたり、ちょいちょいと状況説明の補足などを行いました。
しかし、今回のリメイクの最大の目玉は何と言っても、あゆのスクール水着姿ですッ!!
このスク水あゆを描いて下さった瑠璃樺彌燐さんに最大級の感謝をしたいと思います〜。
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