東方野球狂 〜Go mad to baseball


第2話


「………以上が、野球の基本的なルールの説明だ」
ホワイトボードに書かれたダイヤモンドと、大量の補足事項を指さしながら言う。
野球部なのに野球のルールを知らない。
そんな巫山戯た野球部をさらすわけにはいかないので、
とりあえずは空いている教室に入部希望者を集め、野球の説明から始めることにした。
「どうだ?だいたい分かったか?」
「………」
案の定というか、まあ完璧に理解していそうな顔ではない。
「………まあ、さすがにいきなり覚えるのは大変だろう。そこでだ、簡単なマニュアルを作ってみた」
野球をほとんど知らないような博麗が連れてくる生徒だ、きっと知識レベルは似たり寄ったりだろう。
そう考えて、あらかじめマニュアルを作っておいたのだが………大正解だったようだ。
「とりあえずこの中身を覚えていてくれれば、当面部活動には差し支えないだろう。………今日は以上で終わりにするが、何か質問はあるか?」
「はーい」
と手を挙げたのは。
「………霧雨か。何だ?」
霧雨魔理沙。博麗とよくつるんでいるのを見かける。
性格は………確か、なんでも最短距離で解決するようなやつだったな。
おまけに、変なモノを集めるのが趣味らしい。
まあ、人の趣味は人の趣味だから別に良いのだが………それで人のモノを取るのはやめてほしい。
あまつさえ「ちょっと借りるだけだぜ」などと開き直るからタチが悪い。
「難しいコトを色々言ってたけどさ。要は、相手より点を取れば勝ちなんだよな?」
「………まあ、そうだ」
まあ、ぶっちゃけて言えばそうなる。
逆に相手より点が取れなければ負けだ。それだけ見れば至極単純なスポーツだ。
「それだったら簡単だぜ。私がピッチャーやって、全員三振に取れば勝ちだ」
言い切る霧雨。
「………その根拠のない自信だけは誉められるところだな」
「へへ、おだてても何も出ないぜ」
皮肉で言ったんだが………まぁいいか。
「しかし霧雨、今の台詞から察するに、基本的なルールだけは覚えたみたいだな」
そして、どのポジションをやりたいのか、もな。
「当然ッ!!ピッチャーは当然、私にやらせてくれるよな?な?」
「ちょっと魔理沙、ピッチャーは私に決まってるじゃない」
「何言ってるの二人とも、私以外はあり得ないでしょ」
霧雨の言葉に端を発したか、他の連中も思い思いに言い出した。
やれやれ………これから大変だな、俺。

1週間後。
結局、各々に基本ルールを周知徹底させた上で、希望ポジションを聞くことになった。
どうせ素人同然のチームだから、最初は希望の場所でやらせてみて、そこから素質を見ていくことにしよう。
「………と思っていたんだがな」
希望ポジションが記述された一覧表を机に置き俺は頭を抱えた。
「投手希望が多すぎる………」
なにせ投手希望が8人もいるのだ。
さすがにこんなには必要無いだろう。
ちなみに、これが投手希望者一覧だ。
・博麗 霊夢
・霧雨 魔理沙
・アリス・マーガトロイド
・パチュリー・ノーレッジ
・チルノ
・伊吹 萃香
・風見 幽香
・ミスティア・ローレライ
………しかし、これ見てて思ったんだが、ウチの学校って国際色豊かだな。
しかも全員日本語堪能だし。すげえなココ。
おっと、そんなことを考えている場合じゃない。
「さすがにこれはな………よし、ちょっと絞るか」
そして、俺はキャッチャーグラブを手に席を立った。

「適性テスト?」
俺の言葉に、その場にいた全員がオウム返しに聞き返した。
「ああ。申し訳ないが、全員に投手をさせたところで、実際に試合に出られるのは限られる。だったら、他のポジションに回した方がいいと思ってな」
「それは分かるけど………適性テストって何をすればいいのよ?それにグラウンドに集まれだなんて」
博麗が不満げに口を挟む。
「おいおい、グラウンドに野球部員が来てやることなんて一つだろ。なんのためにグローブとボールを持ってきたと思ってるんだ」
「それって………」
「たぶん、お前の考えてるとおりだと思うぞ、霧雨」
そう。
こういうときは実際にボールを受けてみるのが良い。
「さ、俺がキャッチャーをやるから、投げたいやつから投げてみろ」
「そういうことならあたいにお任せね!!」
そんな自信満々な台詞と共に登場したのは。
「チルノか。言っておくが、通用しないと俺が思ったら即不合格だからな。大人しく他のポジションに回れよ」
「だいじょーぶ!!あたいはさいきょーだから!!」
なんだその理由は………。
個性的な面子が多い野球部員の中で、一際個性的なのがこのチルノだ。
何かといえば「あたいってば最強ね!」という言葉が出てくるぐらい、「最強」にこだわっているようだ。
………その言葉に、実力がついてくればいいのだが。
ともかく、チルノをマウンドに立たせ、俺はホームベースでミットを構える。
「いいか。俺が構えているところへ投げるんだぞ!!」
「そんなの簡単よ。せーの………いっくわよー!!」
思い切り振りかぶる。
………だが、構えもフォームも滅茶苦茶だ。
そんな状態で投げられた球がナイスボールなはずもなく。
ひゅん、ぽす。
かろうじてミットに届くも、構えたところとは見当違いの場所。
「よーし、もう1球いくわよ!!」
「いや………チルノ、もういい」
チルノ・不合格。
………
「次は………」
「じゃあ私の出番ね〜♪」
陽気な歌声と共にミスティアが前に出た。
「誰かさんとはひと味違うところを見せてあげるわ〜♪」
「分かった。分かったから、歌うのをやめてくれ。お前の歌は上手いんだが、なんか俺の頭が変になりそうなんだ」
ホント、なんでだろうな………。
ミスティアがマウンドで構える。
(へぇ………サマにはなってるな)
と、振りかぶって、体を深く沈めた。
「む………アンダースローか!」
器用に上半身を地面スレスレまで沈め、かなり低い位置からボールを放ってくる。
スパンッ!!
乾いた音を立てて、ミットへボールが吸い込まれた。
「………ストライク、か」
「どお〜♪すごいでしょ〜♪」
ミスティアが得意げにマウンドではしゃいでいる。
球威そのもので言えば正直、物足りないのだが………しかし。
あれぐらいの位置から投げられるのであれば、打者から見れば球が浮き上がってくるように感じるだろう。
そんな変則投法に、クセ球の一つもあれば面白い投手になるな、これは。
「よし!!合格だ!!」
「やったわ〜♪じゃあここで祝いの歌を………」
「いや、それは勘弁してくれ」
………
「ここで本格派の登場と行こうかしらね」
「お、風見か。本格派とはまた、言ってくれるな。よし、投げてみろ」
………
スパァァンッ!!
「………うぉっ!?」
まさに本格派と呼ぶに相応しい、風見のストレートだった。
(これは………ヘタすれば130キロは出てるぞ)
この場にスピードガンを持ってきていないのが惜しいぐらいだった。
「どうかしら?監督さん」
「あ、ああ………問題ない。良い球だったぞ、風見」
しかし…本当にあいつ、素人か?
「素人に決まってるじゃない。野球に関しては、ね」
風見は、まるで俺の心を読んだかのように、そう言い放ったのだった。
………
「じゃあ、次は私の番だね」
「伊吹………前々から言おう言おうと思ってたんだが、その瓢箪」
「ん?これのこと?」
伊吹が、自分の腰に付けている瓢箪を指さした。
「それ………酒じゃないよな?」
「ぶっ!!そ、そんなわけないじゃん!!水だよ、水」
「そ、そうだよな………じゃあ、お前がちょっと酒臭い気がするのも、俺の気のせいだよな」
「そーそー!!気のせいだって!!さ、早くテスト始めようよ!!………ヒック」
「ああ、そうだな………あれ、今なんか聞こえ」
「よーし頑張るぞー!!」
………
「そりゃあっ!!」
ギュオンッ!!
「うぉぉぉっ!?」
伊吹の手から放たれたボールは、とんでもない速さで向かってくる。
(何だって!?この速さは風見以上じゃないか!!)
ガッシャアアアンッ!!
そしてそのまま、伊吹のボールは突き刺さった………俺の後ろの、フェンスの最上部に。
「………伊吹」
「だ、大丈夫大丈夫!!次はちゃんと投げるから!!」
しかし、その後1球として、俺が構えたところはおろか、取れる位置にボールが来ることは無かった。
球威自体は恐らく、全部員中トップクラスだろう。しかしコントロールが悪すぎた。
これではその威力を発揮する前に、押し出しでコールド負けしてしまうだろう。
「その球威は惜しいんだがな………外野手なら、その肩を活かせる可能性は広がるだろ」
「ちぇっ………」
………
「パチュリー………お前のやる気は嬉しいんだが、体は大丈夫なのか?」
「ええ、少しくらいなら………それに、ピッチャーならあんまり動かなくて良さそうだし」
言いながら、けほけほ、と咳き込むパチュリー。
うーん………正直、ピッチャーよりもまだ、スコアラーでもさせた方がいいかもしれんな。勉強は出来る子だし。
「………と思っていたんだが、前言撤回しよう」
俺は、ミットにしっかりと収まったボールとパチュリーを見比べながら呟いた。
「………なんだ今のえげつないカーブとシンカーは」
「変化とかそういうのは、得意なの」
「………むぅ。………とりあえず合格だ。だが流石に体に負担がかかるだろうから、ワンポイントリリーフという形になるが、問題ないか?」
「ええ、それでいいわ。………どのみち長く投げる気はないし」
………
博麗、アリスの二人も合格した。
両者とも、とても1週間前には素人だったとは思えないほどの投手の適性を見せてくれた。
特に博麗はコントロールがまさに百発百中、アリスは多彩な変化球を操るところが決め手となった。
「………しかし、本当にお前ら、野球経験無いのか?」
「どうして?」
「………えげつない変化球や針の穴を通すコントロール、おまけに130キロに届かんばかりのストレート。とても偶然とは思えないぞ」
俺の疑問に、博麗は笑って。
「秘密よ」
「………む」
そんな笑顔で言われたら、それ以上聞けないじゃないか………
………
「さて、最後はお前だな、霧雨」
「真打ちは大トリと相場が決まってるんだぜ」
自信たっぷりに霧雨が言う。
「よし、来い!!」
「言われなくても行くぜ!!」
霧雨がダイナミックに振りかぶる。
そして、全体重を乗せて………投げた!!
あとがき:
1話目からしばらくは導入編。今回はピッチャー決め。
割と本家東方野球に影響を受けてるのは仕様。
まあ萃香に投手とかやらせたかったんだけど、今回は見送り。
あと、実は誰を出すかあんまり決めてないのが問題だったり。
っていうのも、東方Projectは全作品Extraをクリアしていないんだ。
ましてや東方風神録と東方紅魔郷はクリアもできてない。
なので、キャラの名前は知っていても、性格が良くつかめない。
だから台詞回しに支障を出しそうで、結果として思い切って出せないでいる。
ちなみにPC98版はそもそもやってないので出すのは無理。
その辺は次回、次々回ぐらいに結論は出したいところ。
とりあえず、なにか要望とかあればWEB拍手をくれればほどほどにがんばってみるよ。
あと批判でもなんでも構わないから、WEB拍手を送ってくれるともっとがんばるよ!!
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