東方野球狂 〜Go mad to baseball


第4話


「試合?紅白戦?ははは、冗談でしょう」
本気でそう思った。当然だ。ここには21人のメンバーしかいない。
全く出来ないこともないが、せめてもう少し余裕のある人数で試合をしたい。
「私が冗談を言うように見える?」
「………失礼ですが、見えます」
「あら、信用ないわねえ」
肩をすくめる校長。
「でも今度のは冗談ではないわ。だって、相手を連れてきたんだもの」
それは衝撃的な一言だった。
「………いま、なんて言いました?」
「ふふふ、聞こえなかったかしら?」
面白そうに校長が笑う。
「おおかた、チーム内で紅白戦をやると思っていたのでしょうけど、あれだけの少人数で強行するほど私もバカではないわ」
「………しかし、彼女たちは今日が初めての本格的な練習です。いきなり試合だなんて………」
「大丈夫よ。あの娘たちは練習させるより、実戦をやらせたほうが力を発揮するタイプだから」
校長は、はっきりと言い切った。
俺には、そう言い切ることは出来ない。
「………まるで、知っているかのようですね。彼女たちを」
「知ってるわよ、貴方よりは遙かにね」
………なんだ、この自信は。
というか、完全に試合をやる気でいる。
「仮に………お断りしたらどうなります?」
「そんなわけないわよね?実戦経験が欲しい、一番そう思っているのは貴方じゃなくて?」
図星だった。
ったく………どこまでもお見通し、ってか?
「分かりました、分かりましたよ。やればいいんでしょう、紅白戦を」
「ふふ、聞き分けのいい子は嫌いじゃないわよ。それじゃ、相手を呼んでくるわね」
そう言うと、さっさと校長は向こうへ行ってしまった。

「………ということだ」
まさか練習初日でいきなり試合とは、さぞかしこいつらも驚くだろう………と思っていたが。
「よっしゃあ!!腕が鳴るぜ!!」
「望むところよ、返り討ちにしてあげるわ」
「ずっとこんなつまらない練習ばかりかと思っていたのよね………クク、丁度良い運動だわ」
なんだこいつらは。
(驚くどころか、バリバリの戦闘体勢かよ………)
どこまでも俺の常識を覆してくれる。
「ったく………お前達といると退屈しないな、ホント」
自然と、そんな声が漏れるのだった。

「………んで、山向こうの高校からわざわざ連れてきたわけですか、校長」
「そうよ」
「………しかも、学校すぐそばの市民球場を借り切ってまで」
「ええ」
相変わらずとんでもない人だ。
つーか、山向こうって滅茶苦茶遠いじゃないか。
どうやってこんな短期間に………と思ったが、聞いてはいけない気がしたので聞かないでおく。
「向こうの高校も、つい最近素人を集めて野球部を作ったのよ。ウチと同じく………ね」
「へえ。じゃあ丁度良いですね、レベル的にも」
まあ、おそらくは草野球レベルの試合になるかもしれないが、それも経験のうちだろう。
そう俺が考えていると、校長は不敵な笑みを浮かべた。
「………うふふ、単にそれだけで試合をすると思う?」
「え?どういう意味ですか、そりゃ」
「まあ、やれば分かるわよ。きっと腰抜かすわね、貴方」
俺が腰を抜かす様を想像したのだろう、面白そうに笑っている。
「?まあ、いいでしょう。校長の言うとおり、やれば分かるわけですし」
「そうそう」

「さて、それじゃいきなりで申し訳ないが、試合だ」
「待ってました!!」
「元気良いな、霧雨。………で、まずはスターティングメンバーを決めなきゃいけないんだが」
これが一番の困りものだった。
「正直言って、お前らの打撃練習を見てないから、打線の組みようがないんだ」
「まあ、それはしょうがないわね」
「なので、完全に勘だ。不満はあるかもしれんが、とりあえずこれで行くぞ」
俺はオーダーを書いた紙を取り出した。
少しだけ、全員に緊張の色が現れる。
「まず一番………センター・射命丸」
「さすが監督、一番足の速い私を一番とは、分かってますね」
「二番………キャッチャー・八意」
「あら、私が二番なのね。まあ、どこでもいいわ」
「三番………ファースト・藤原」
「ああ」
「四番………ライト・レミリア」
「………フフフ、これも運命ね」
「五番………レフト・八雲」
「お任せください」
「六番………サード・魂魄」
「はい、分かりました」
「七番………ショート・十六夜」
「ええ」
「八番………セカンド・紅」
「は、はいっ!!」
「そして九番………ピッチャー・博麗」
「ん、私?」
指名された博麗がきょとんとした顔でこちらを見る。
「ピッチャー志望の中でお前が一番コントロールが良かったからな。頼んだぞ」
「あ、そ。はいはい、それじゃ軽く投げてくるわ」
いきなりの先発にも動じない博麗。
こういう、いつもと同じマイペースなところは博麗の大きな武器になるな………
俺がそう思っていると、明らかに不満げな声が飛びだした。
「監督」
「………あからさまに文句を言いたそうだな、霧雨」
「あったりまえだぜ!!なんで私の名前が無いんだよ!!」
まあ、霧雨ぐらい負けん気が強いと、当然文句を言うとは思った。
その予防線はちゃんと引いてある。
「そりゃお前、切り札だからだよ」
ぴく。
切り札、という言葉に霧雨の動きが止まる。
「き………切り札?」
「ああ。お前は、いざという時の切り札的な存在なんだよ」
「お、おお」
「だからな。そんな切り札をそうおいそれと出すわけにはいかんのだよ」
「へ、へえ………私が、切り札、ねえ。まあ、当然といえば、当然、だよな、えへへ」
ふふふ、効いてる効いてる。
「分かったか霧雨。お前は切り札、秘密兵器だからな。ベンチの後ろでどっかり座っていればそれで十分だ」
「そ、そーかそーか。………ま、監督がそこまで言うなら引き下がってやるとするぜ、はっはっは」
そう言うと上機嫌で霧雨はベンチに座った。
(あら、魔理沙の使い方が上手いのね)
横からこそっと博麗に耳打ちされる。
(ああまで言わないと納得しないだろアイツは………)
(まあ、それもそうね)

「どうも、幻想郷学園野球部監督の五十嵐です。本日はわざわざご足労いただきありがとうございます」
「監督の八坂だ。なぁに、あれぐらいの距離はわけないさ」
向こうの女性監督がからからと笑う。
あれぐらいの距離………って、相当あるだろ、おい。
「ま、まあ、どっちも素人同士みたいですし、勝ち負けはあまり意識せずにやりましょう」
これは俺の本心だった。
勝とうが負けようが、それはたいした問題じゃない。
過程が大事なのだ、過程が。
………と思っていたが、八坂監督は違うようだ。
「おや、私は負けるのは大っ嫌いだけどねぇ。ま、そっちの考えはともかく、ウチは相手を全力で叩き潰すだけさ」
おいおい、随分攻撃的な監督だな、この人。
「おっと、忘れるところだった。はい、今日のオーダーだ」
八坂監督から受け取ったオーダー表には次のように書かれていた。
1番センター 犬走 椛(右/両)
2番ショート 東風谷 早苗(右/右)
3番サード 永江 衣玖(右/右)
4番ピッチャー フランドール・スカーレット(右/右)
5番ライト 比那名居 天子(左/左)
6番ファースト 小野塚小町(左/左)
7番セカンド 秋 穣子(右/右)
8番キャッチャー レティ・ホワイトロック(右/右)
9番レフト リリーホワイト(右/右)
※カッコ内は(投/打)
「………ふうん」
ま、そもそもオーダーなんてどうでもいい。
どうせ向こうのデータなんて皆無なのだ。試合をやりながら見ていくしかない。
それよりも自分のチームが、ちゃんと試合をやれるのかどうかが非常に不安だ。
そういう意味もあって、俺は後攻を選択した。
まずは最低限守備が出来るかどうかだ。
先ほどの練習ではそこそこやっていたが、試合で発揮できなければ意味が無い。
それを見極め、比較的早いうちから積極的に選手を交代していくことにするか。

「それでは、これより練習試合を行います。両チームとも、正々堂々とプレーしてください」
審判の四季映姫さんがきびきびと言う。
………なんだか、厳格そうな審判だな。
と、ここで少し気になったことを聞いてみる。
「そうだ、審判さん。今日の試合のルールなんですが、コールドはあります?5回で10点とか、7回で7点とか」
「いいえ、今日は練習試合なのでありませんよ」
「選手交代は?人数制限とか無しで、全員出して構わない?」
「ええ、それも許可します」
「なるほど。分かりました、ありがとうございます」
その様子を横で見ていた霧雨がぽつりと呟いた。
「初めて監督らしいことしてるな………」
ほっとけ。っていうかせめてさっきのオーダー発表の時に言ってくれよ。
「それでは、お互いに………礼ッ」
「「おねがいしますっ!!」」
いよいよ、俺の監督しての初試合が始まった。
「さーて、鬼が出るか蛇が出るか………だな」
練習初日にいきなり練習試合。
それに驚くどころかやる気満々の、素人とは思えないレベルの選手達。
全てが全て常識外れのことばかりだが、それでも俺は、年甲斐もなくわくわくしていた。
ああ、やっぱり俺は、野球が好きなんだな………
「どうした監督。ずっとにやにやして。なんか悪いモンでも食ったか?」
そんな俺を見て、霧雨は怪訝な顔をするのだった。

あとがき:
まあ見ての通り、前回までに出てこなかったメンバーで相手チームを組んだんだ。
あ、残念ながら地霊殿のキャラは出せてない。
体験版しかやってないしね。せいぜい緋想天ぐらい。
しかしキャッチャーがレティとか、まんま元祖東方野球だな………

東方野球狂目次にもどる TOPにもどる