東方野球狂 〜Go mad to baseball


第5話


「プレイボール!!」
試合が始まった。
バッテリーは博麗・八意。
トップバッターは1番・犬走椛。
この試合、特にああしろこうしろと八意には言っていない。
言わなくても、八意はだいたい分かっている気がしたからだ。
まあ、別に分かっていなくてもそれが普通なので、特に何も言うつもりはない。
それに、素人がどういうリードを取るのかはなかなかに興味深い。
「ん………」
何となく外野の方を見た。射命丸がセカンドのすぐ後ろにいるのが見える。
「………って、セカンドの後ろ!?」
俺はベンチを立ち上がった。
前進守備にもほどがある。センターフライが長打コースになるじゃないか。
流石に注意しようと俺がベンチを立ち上がると同時に、ワインドアップから博麗が1球目を投じていた。
スリークォーター気味の投げ方から、ストレートがど真ん中………って、ど真ん中だと!?
「先手必勝です!!」
犬走が迷うことなく初球に手を出した。
キィンッ!!
幸いにも、打球は会心の当たりではない。センターフライだ。
………無論それは、センターが定位置にいれば、の話だが。
「射命丸!!戻れッ!!センター行ったぞ!!」
俺は射命丸に怒声を投げかけるが。
「はいはい、大丈夫ですよっ。全く心配性ですねえ、監督は」
「言ってる暇があれば追いつけッ!!」
「分かってますよ………っと!!」
言うなり、あっという間にダッシュで打球に追いついてしまった。
そして、慣れない手つきながらも、なんとかボールをグラブに収める。
「アウト!!」
「ふふん。いくら目が良いと言ってもまだまだね、椛」
「うぅ〜………次はきっと打ってみせますからね!」
犬走と射命丸は知り合いなのだろうが、お互いに言葉を交わしている。
「ふぅ………なんとかアウトか。………しかし、さすがに快足だな」
しかしあの守備位置は無いだろう………。
それに、初球いきなりど真ん中か………いきなりすごいところに投げるな、おい。
続いて打席には2番・東風谷早苗。
「このような形で勝負するとは思っていませんでしたが………これも信仰のため。覚悟!!」
「そういう台詞は打ってから言って欲しいわね………それッ!!」
博麗の初球は、外角へ落ちるカーブ。
この球は今の博麗にとって、一番信頼できる球と言って良い。
それを八意も分かっているのか、初球にカーブを選択した。
俺もそれで良いと思う。それに、外角ならば手を出されても長打にはなりにくい。
しかし東風谷は、果敢にも初球に手を出した。
キンッ!!
落ちる球に上手く対応できなかったか、カーブを引っかけてショートへのゴロとなる。
「むっ………まずいな」
しかし、思ったより打球に勢いがない。
十六夜がボールへ向かって猛然とダッシュを試みる。
その間にも東風谷は一塁へ向けて全力疾走。
これは余程上手く打球を処理しないと内野安打になる可能性がある。
十六夜が打球に追いついた。
しかしグローブで取っていては間に合わない。
「ならばっ………!!」
それを察した十六夜が、利き手でボールを掴み、振り向きざま一塁方向へスローイング!!
不安定な体勢からの送球だったが、見事に一塁の藤原のミットへストライク送球。
わずかコンマ2秒遅れて、東風谷が一塁を駆け抜ける。
「アウトッ!!」
ここしかない、絶妙のタイミングだった。
「助かったわ、咲夜」
「いいわよ、これぐらい。まあ、三振に取ってくれた方がこっちも楽だけど」
お互いに声をかけるぐらいの余裕も出てきたようだ。
続いては3番・永江衣玖。
「………なぜ私がこんなことをしているのでしょう」
「そんなの私に聞かないでよ………」
永江に対しても、博麗は初球カーブで入る。
「ストライク!」
「えっ?今のストライク?」
「ええ。外角一杯に入っています」
確かに外角ギリギリ、ベースを掠って入っている。
「さすが、コントロールは針の穴を通すものがあるな………」
それ以上に、しっかり見てくれる審判も凄い。
校長がどこから連れてきたのか知らないが、かなりハイレベルな審判だな。
続いて、またも外角ギリギリのストレートを投じてストライク。
一球内角にボール球を投げて間を取り、最後は。
バシィッ!!
「ストライク!!バッターアウト!!」
「うっ………」
またも外角カーブで永江を見逃し三振に打ち取ったのだった。
ベンチに戻ってくる面々を拍手で迎える。
「良かったぞ、博麗、八意。特に八意、永江へのリードは良かった。分かってるじゃないか」
「ああ、やっぱりあれで良かったのね。とりあえず、霊夢があれだけ投げられる間は大丈夫だと思うわ」
おいおい、頼もしいな。
これがキャッチャー始めたばかりの素人とは思えない。
「ただ、最初の犬走の初球ど真ん中はひやひやしたぞ、おい」
「あ、それは私」
言って、手を挙げたのは博麗だった。
「なに?」
「初球はどうしてもど真ん中ストレートを投げてみたかったのよ。まあ、打つとは思わなかったけど」
いや、打つだろ………。
「あのな………。お前はストレートが特別速いわけじゃないんだから、頼むから次からは控えてくれよ」
「はいはい、言われなくてももう投げないわよ」
本当に分かってるのか、こいつ………。
「ああ、あと十六夜。さっきのスローイング、ナイスプレイだった。あの体勢からのスローイングはなかなか出来ないぞ」
「まあ、あれぐらいならよくやってますから。別のモノで」
「?」
よくわからんが、まあ結果を出してるからいいや。
「………さあ、次は打っていくぞ!!」

1回裏、記念すべき初の幻想郷学園の攻撃となる。
そのトップバッターを務めるのは、快足バッター・射命丸。
「いいか射命丸。打ち上げちゃダメだ。必ず転がせ。転がせばお前の足が十分に活きるんだ。とにかくバットを叩きつけろ、な?」
「監督………それもう3回も聞きましたよ」
「いやいや、こういうのは繰り返し言わなきゃ身につかないんだって。分かったら行ってこい」
大丈夫ですよ〜、と言い残して射命丸が左打席に立つ。
マウンドには4番でもある、フランドール・スカーレットが上がっている。
「………ん?スカーレット………どこかで聞いたような」
俺はレミリアのほうを見やる。
「そうよ。フラン………フランドール・スカーレットは私の妹」
俺の考えが分かっていたのだろう、レミリアはこちらを見ようともせず言った。
「ほぅ………」
なんで姉妹で同じ高校じゃないのか………。
聞こうかとも思ったが、ひょっとしたら深い理由があるかもしれないのでやめておく。
「まあ、それはいい。………で、妹さんも野球をやってるのか」
「そうみたいね。知らなかったけど」
「知らなかった?なんだ、野球やってるの見たことないのか」
「たぶん、私と同じで、最近始めたんでしょう」
………それでいきなりエースで4番かよ。
「………とりあえず分かったよ。ま、最近始めたばっかりなら、たいしたピッチャーでもないだろ」
俺は何の気無しに呟いたつもりだったが。
「監督。今の言葉、取り消した方がいいわよ?」
レミリアが鋭い目でこちらを睨み付けていた。
「お、やっぱ気になるか、妹さんのことを悪く言われるのは」
「そりゃあねえ。それに、スカーレット家の者としては、無様なところを見せて欲しくないもの」
『家』と来たか。
「まあ、それは置いておくとして。………次にフランが投げた後、貴方が同じ台詞を言えるかどうか見物ね」
「………なに?」
クククッ、と笑うレミリアに対し、どういうことだ?と聞く前に、フランドールがワインドアップ動作に入る。
と。
「なっ!?」
思わず俺の声が裏返った。
フランドールの投げ方を見たからだ。
そう、片足を上げたまま体を捻り、お尻を相手に向ける投げ方………。
間違いない、トルネード投法だ。
日本人メジャーリーガーとしての第一人者、野茂英雄投手の投げ方だ。
体を捻り、そこで溜めた力を乗せて投げる為、ストレートの威力は格段に上がる。
しかし素人にトルネードが出来るのか。
よほど足腰が強くないと、姿勢を維持するのも困難だ。
だが、フランドールはしっかりと立っていた。
そして、捻った体を元に戻しながら、体全体を使いストレートを投げ込む!!
「いっくよー!!」
ビュンッ!!
「え?」
ズバアァァンッ!!
射命丸が一言発する間に、とんでもない速さのストレートがミットに突き刺さっていた。
「す………ストライク!!」
一瞬遅れて、審判がストライクの宣告。
「んな………!!」
俺は開いた口が塞がらなかった。
「どう?これでもさっきの言葉が言えるかしら」
「おまえ………知ってたのか?妹さんがあんな速いストレートを投げることを」
「知ってはいないわ。でも、あれぐらいはやってくれないとね」
お前、あの投球を見て「あれぐらい」って………
「ストライク!!バッターアウト!!」
そうこうしているうちに、射命丸があっさりと三振をしてとぼとぼと戻ってきた。
「いやぁ、まさかあれほど速い球とは思いませんでしたねー」
「そりゃ俺もだ。まるっきり予想外だぞ」
「ええもう。あんまりにも速いんで、思わずカメラに収めちゃいましたよ」
そう言って胸元のカメラを大事そうに抱える。
「………射命丸、一つ聞いて良いか」
「はい、なんでしょう?」
「試合中にカメラで、フランドールの投球を撮影していたのか?」
「ええ、それが何か?」
悪意の欠片も見られない顔で、しれっと言い放たれた。
「それで、バットはどうした?」
「やだなあ、カメラ持ってたらバットなんて持てませんよ。そんなの常識でしょう」
ああ、そうだと思った。
「………」
「どうしました監督、頭抱えて」
俺は黙って射命丸のカメラを取りあげる。
「お前、今日の試合ヒット打つまでカメラ禁止」
「え゛ーーーーっ!?そんな、私の命よりも大切なカメラになんてことを!!」
「えーい五月蠅いッ!!そんなに喚くくらい好きだったらヒット1本打ってみろ!!そしたら返してやるよ!!」
次は2番・八意。
「さて、あいつはどういうバッティングをしてくれるかな………」
一回りするまでは、具体的な指示は出さないことにする。
(どうせフランドールの快速球を1打席で打てるとも思えないしな………)
「うふふふふふ、貴方にこの球が打てるかしら?」
「そうね、打てるかしらね」
特に八意に気負った様子はない。
しかしフランドールのストレートの威力は凄まじく。
バシィッ!!
「ストライク!!バッターアウト!!」
「………ふぅ」
敢えなく、八意も三球三振。
しかし、その顔に落胆の色はない。
「なんだ、悔しくないのか?」
そう思って俺は聞いた。
だが。
「別に悔しくはないわね。………きっと、次で打てるし」
「な、なんだと?」
ど素人があんな球、打てるわけがないだろ。
そんな台詞が口から出ようとして、なんとか思いとどまった。
何故なら、本当に打てそうな気がしたからだ。
そんなオーラを八意は放っていた。
そして、3番・藤原は。
「ストライク!!バッターアウト!!」
なんとか当てようとするも、バットに掠ることもなく三振。
「くそっ………速いな」
藤原の言うとおり、フランドールの速球は速い。
間違いなく130キロ後半は出ているだろう。
その辺の1,2回戦レベルの高校と対戦させれば、恐らく余裕で完封できる力はある。
「………しかし、解せないな」
そんな投手が突然、近くの高校に現れる。
ウチの高校でも急に野球部が出来る。
そして、素人同然のハズなのに常人以上の力を発揮する生徒達。
「………やっぱり、解せない」
納得できないことは山ほどある。
が、それはとりあえず置いておこう。今は試合に集中するときだ。
そして2回の表・相手の攻撃は4番・フランドールからだ。
「さぁて………打っちゃうよ〜」

あとがき:
一番の突っ込み所、130キロ後半の球を投げる幼女。
しかし自分で書いておいてなんだが、フランすごえ。トルネードとかどんだけ。
まあフランはストレート以外の球種なんて持ってないんだけどね。でも抑えちゃう。
で、今のところは敵味方含むレギュラーメンバー全員の顔出しと、
それに適当に絡ませるぐらいしかできないね。
それが終われば色々とかき混ぜていきたいかも。

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