東方野球狂 〜Go mad to baseball


第10話


「我が妹ながら………困るわね、ああいった行為は」
心底がっかりした様子で、レミリアは一部始終を見ていた。
「まあ、な。………それに、姉としてはもう一度妹と対戦したかっただろうしな。だろ?」
「………もしそうなったとしても、結果は同じだと思うけどね」
すごい自信だ。
だが、さっきはしっかりと結果を出したしなあ。
と、急にレミリアがこちらを振り向いた。
「ああ、そうそう。私、この打席の後に下がるから、後おねがいね」
「おお、そうか、わかっ………………って、何ぃ!?」
レミリアがあまりにも当たり前のように言うので、俺もつい了承しちまいそうになっちまった。
「おいこら、いきなり何を言い出す」
レミリアはつまらなさそうにバットを軽く振り回すと。
「だって、フランが出ない以上、もうこの試合に興味は無いし。どうせもう大したピッチャーもいないでしょうし」
「興味がない、ってお前………好き嫌いでそんなことが決められると思ってるのか?」
「別にいいじゃない。貴方だってさっき、なるべく全員使いたい、とか言ってたじゃない。好都合でしょ?」
「うぐ………」
そう言えばそうだ。
交代する理由が余りにもアレだが、まあこの辺りで代えるのがベストか。
「………分かったよ。その代わり、ちゃんと結果を残してこい。大口叩いたんだからそれぐらいして貰わなきゃな」
当然、釘は刺しておく。
「結果?ホームランでいいのかしら?」
「………ホームランよりも最高の結果を俺は知らん」
レミリアはその答えに満足したのか、悠然とバッターボックスへ向かう。
「ホームランでいい、か。まったく、頼りになるお嬢様だぜ」
100%皮肉を込めた俺の言い方が多少気に障ったのか、横から十六夜が口を挟んでくる。
「………ですが監督。お嬢様は先ほど、妹様のストレートをホームランにしていますわ。特に問題ないのでは?」
「………それはつまりアレか。フランドールよりも力の劣るピッチャーが出てくるぶん、より打ちやすいだろう………そういうことか?」
「ええ、その通りですわ」
その言葉を受けて、俺はマウンドを見る。
既にフランドールはベンチに引き下がった。
(もっとも、相当に暴れたらしいが………)
そして、代わりにマウンドに上がったのは、ルナサ・プリズムリバーだ。
ぱっと見た感じでは、左のオーバースローの、ごく普通のピッチャーに見える。
つまり、フランドールのようなバカみたいな速さのストレートを投げるようには見えない………ということだ。
「確かに、フランドールよりはストレートは速くないかもしれないな。高校野球レベルでも並の速さだ」
「はい。であれば、お嬢様の力を以てすれば難なく打てるのではないかと」
「そうかもな。………ルナサが、ストレートしか投げないのであれば、な」
俺の言葉には当然、「ルナサがストレート主体のピッチャーではない」という事を告げている。
「ストレートが遅い。にも関わらず、相手の監督はルナサを二番手に据えた。これが何を意味しているか………分かるか?」
「………なるほど。変化球主体のピッチャー、ということですか」
その通りだ。俺はうなずいた。
ストレート主体のピッチャーから変化球主体のピッチャーへと交代するのは、よく使われる作戦だ。
当然、その逆の交代もある。
その利点は何と言っても、球速の違いにある。
基本的に、ストレートの球速は速く、変化球の球速は遅い。
普通に考えれば、遅い球というのはバッターから見て長く球筋を見ることが出来るため、打ちやすい球だ。
………だが、これが速球投手の後となれば話は別だ。
打順が一回りして、こちらの打者もストレートに目が慣れてきている。
そこへ、遅い球を操る投手が出てきたら、どうだ。
今度は逆に、遅い球に慣れることが必要となる。
そしてそれまでは、打つのが容易ではない、ということを意味する。
「………ということだ。ただでさえ、お前たちは打撃練習をしていない。そして、変化球を見ていない。そんな打者がいきなり変化球を打てるとは思えないな」
「では、お嬢様は………」
「ああ、後はルナサの変化球がどれほどのものか、にもよるが………な」

「さあて、歩いて帰れる当たりを打つとしましょうか」
バットを構えて泰然自若としているレミリア。
「君たちの勢い………ここで止めさせて貰うよ」
言って、ルナサがセットポジションから第一球。
「止められるものなら止めて………ッ!?」
迷わずバットを出したレミリアだが、次の瞬間驚きの表情を見せる。
今までレミリアが見た、どの球筋よりも異なる動きをしていたからだ。
ふわりとボールが浮かんだかと思うと、次の瞬間には鋭く縦に角度をつけたボールが襲ってくる………縦に割れるカーブだ。
ブンッ!!
空しい空振りの音が響き、その後、ボールがレティのミットに収まった。
「ストライク!!」
(今のは………なに………?)
空振りした姿勢のまま、レミリアが固まっていた。
「………おーおー。目を白黒させちゃって。初めて見た、ってカオだな。こりゃこの打席、期待できるなあ、うしし」
「………打ち方を教えてさしあげないのですか?」
たまりかねて、十六夜が尋ねる。
「さっきも言っただろ。すぐ俺が教えるより、自分で悩んで身につけたほうが遥かに価値があるんだよ」
「………」
「たぶん、この打席は三振だろう。でも、それが後で10本のホームランになって返ってくるなら安いもんだ。こんなもんで、俺のレミリアに対する評価はかわりゃしないよ」
その間に、レミリアは一度打席を外していた。
少なからず動揺した心を落ち着けるためだろう。
そして、二、三度素振り。
「お嬢様………」
その素振りの様子をぼんやりと俺は見ていた。
………ブンッ………ブンッ………ブンッ。
「………ん?」
レミリアの素振りに、何か違和感を感じた。だが、まだその正体は掴めない。
そうして、再びバッターボックスにレミリアが立つ。
ルナサは二球目も、縦に割れるカーブを選択。
フランドールが投げていたときとは想像もつかないほどの、ふんわりとしたボールがやってくる。
「………くッ!!」
ブンッ!!
またも、レミリアはカーブを空振りした。
「ストライク、ツー!!」
「あちゃあ………こりゃダメかなあ」
霧雨が、半ば諦めたように呟く。
「おいおい、弱音を吐いちゃいけないんじゃなかったか?」
「う………そりゃそうだけどさァ………でも、レミリアが打てないんじゃ、私たちだって打てるかどうか………?」
レミリアはまた打席を外して、二、三度と素振り。
………ブンッ………ブンッ………ブンッ。
「!!」
思わず立ち上がる。
先ほどの違和感が氷解していく。
レミリアが打席に入る。先ほどよりも、自信有りげに。
「………なんてお嬢様だ」
俺は帽子を被りなおし、どっかりと座った。
「おい霧雨。そして十六夜。………この打席、見逃すな。ひょっとしたら面白いものが見れるぞ」
「「え?」」
俺の言葉に、両者はきょとんとして、顔を見合わせるのであった。

「これで………仕留めるッ」
一、二球目のレミリアの振りを見て打てないと思ったか、ルナサは三球目もカーブを投げてきた。
ぎゅおんっ!!
三度、角度のついたボールがレミリアを襲う。
「うわっ、また同じ球だぜ監督!!」
「よし、このタイミングだっ!!」
俺の声と同時に、レミリアがスイングを開始。
「舐めるなぁッ!!」
キンッ!!
「んっ!?」
打球音に、ルナサが驚きの表情を見せる。
打球音がしたということはつまり、ボールにバットが当たったということだ。
今までカスリもしなかったカーブに、初めてバットが当たったのだ。
「………よし。いいぞレミリア」
「え?どこが良いんだよ。確かに三振はしなかったけど、全然打ててないじゃないか」
「にひひひひ、本当にそう思うか?霧雨」
俺があんまりにもにやにやしたのだろう、霧雨は2、3歩後ずさる。
「ちょっと気持ち悪いぜ、監督」
「ああ、すまんすまん。………でもな、さっきはまったくかすりもしなかった球に、ファールとは言え当てたんだぜ、レミリアは」
「それがどうしたよ。当たっただけだろ」
「違うぞ。「当たった」んじゃない。「当てた」んだ」
「へ?………え?」
俺の言葉と霧雨の言葉、一体何が違うのか。
霧雨は分からずにいた。
「つまり、偶然バットにボールが「当たった」のではなく、お嬢様が実力で「当てた」ということ………ですね」
「頭の回転が速いヤツは好きだぜ。そのとおりだ」
一球目と二球目、ともに空振りした直後、レミリアは二、三度と素振りをした。
それは単なる素振りではない。
ルナサのカーブを打つタイミングを計っていたのだ。
そして、そのタイミングは徐々に合ってきている。
「っく!!」
四球目もルナサはカーブを選択。
キィンッ!!
「ファール!!」
「おおっ!!また当てた!!」
「しかもただ当てただけじゃない。さっきよりもバットの芯に近いところで当たっている。こりゃ面白くなってきたぞ」
………しかし、変化球を一球見ただけでここまで即座に対応できるとは………恐ろしいな、このお嬢様は。
「さあ、どんどん来なさい。貴方の自信のある球を、ね」
ついにレミリアは、ルナサを挑発するに至った。
「挑発には乗らないよ。でも、最高の球で勝負することには変わりない」
ルナサも負けていない。だが、若干脂汗をかいているようにも見える。
そして、五球目。
ルナサの選択は………やはり、カーブだ。
だが、今までのカーブよりも、より鋭さを増している。
あのカーブひとつ見ても、即座に名門校のレギュラークラスに割り込める程のものだ。
「そう………これよッ!!」
だが、レミリアが一枚上手だった。
完璧なタイミングでバットがボールへと向かっていく。
カキィィンッ!!
「ぐっ………!?」
ヒュッ!!
ライナー性の当たりがルナサの左頬を掠めていく。
「チッ………ホームランじゃなかったわね!!」
思わず毒づきながらも、走り出すレミリア。
ルナサのカーブが一段と鋭かったぶん、芯を外れたのだ。そうでなければとっくにスタンドインしている。
打球はものすごい勢いであっという間にフェンスまで到達。
「ちっ、打球が強すぎるかッ………!!」
「あ?打球が強すぎるとどうなるんだよ?」
「それはな………おぉっ!!よっしゃー!!回れ回れ!!」
「おい、どうなるんだよ!!」
「すまん、後にしてくれッ!!」
霧雨の疑問に答えようとしたが、それより優先する事態が起きた。
打球がフェンスに当たったため、本来なら外野がフェンスから返ってきたボールを拾う。
この場合は、犬走がフェンスから跳ね返るボールを待った。
しかし、ここでフェンスから跳ね返ったボール………クッションボールと言うのだが、それが犬走が想定した場所とは違う方向へ跳ね返ったのだ。
「そっちじゃないですよぉっ!!」
言いながらボールを追いかける犬走。
それを見たため、俺は八意と藤原にベースを回るように指示を出したのだ。
八意が三塁ベースを蹴り、ホームへ突っ走る。
同じく藤原も三塁へ。
ようやく犬走が追いつき、ホームに向かって大遠投。
だが、これは完全に犬走のミスだった。
何故なら、ホームへ送球したところで、タイミング的に明らかに八意のホーム突入は止められないからだ。
では、どこへ戻すのが正解か。
答えはセカンドだ。
何故なら、ホームへ返してしまうと、バッターランナーであるレミリアがセカンドへ行くチャンスを与えてしまうからだ。
つまり。
「レミリア!!セカンドだっ!!」
俺の声に、一塁で止まりかけたレミリアが再び加速を始める。
八意が余裕を持ってホームを駆け抜ける。これで5−4。
何度かバウンドし、運動エネルギーをほとんど失ったボールをレティが取る。
誰かが言った。
「セカンド!!」
ミスは焦りを呼び、さらにミスを呼ぶ。
言われるまま、送球の体勢がきちんと整っていない状態でレティが慌ててセカンドへ送球する。
そして当然のように、送球は外れていく。
「うッし!!藤原、回れーーっ!!」
「合点承知ィ!!」
ボールは再びセンターへ転がり、犬走の元へ。
「こ………こんのォっ!!」
犬走、二度目の大遠投。
先ほど遠投したときより距離はだいぶ短いため、早い送球がホームへ返ってくる。
藤原も懸命にホームを目指して走っている。
タイミング的には………若干、ボールが返ってくるのが早いか。
だが今更戻るのは無理だ。
そんなことをしたところで、本塁-三塁の間で挟まれてアウト、だ。
「どけえぇっ!!」
怒声を発しながら突っ込む藤原。
しかし、言われて「はい、どうぞ」ではキャッチャー失格である。どくわけがない。
レティ、今度はしっかりと返球をキャッチ。
「ここは通さないわよ〜」
「じゃあ力ずくだな!!」
だんっ!!
藤原の猛烈なタックルがレティにぶち当たる。
「っていうか俺、タックルなんてラフプレー教えてないぞ!?」
守備妨害とか考えないのかなあ、こいつら………
ぐらり。
レティの身体がぐらつく。
「おおっ!?」
………だが、そこまでだった。
藤原の運動エネルギーが全て吸収され、タックルががっちりと止まる。
「ぐっ………!?」
「通さない、って言ったでしょ?」
ゆっくりと藤原にタッチするレティ。
「アウトっ!!」
『ああ〜………』
歓声が、ため息に変わる瞬間。
藤原、敢えなく本塁憤死。
しかしその間に、レミリアがしっかりと三塁ベースまで踏んでいた。
まだ、チャンスは潰えていない。
「くそっ………もうちょっとだったんだけどなあ」
戻ってくるなり、悔しさをあらわにする藤原。
「ははは、まああれだけ完璧にブロックされちゃしょうがない。でも良いタックルだったぞ」
「え、ほ、本当?」
「ああ。結果はともかく、その闘争心はもっと前面に出して良いと思うぜ」
「そ、そっか………へへ、わかった。」
確認するように、一度頷く。
まあ、反則ぎりぎりだったけど、とりあえずここは誉めておくか。
誉めて伸ばす。うん、いいなこれ。
続く打者は、5番・八雲藍。
「ここは打たねば………紫様に何と言われるか」
「また厄介な相手だね………でも、ここで断ち切るよ」
先ほどはフランドールの前に敢えなく三振した八雲藍。
この打席ではどうかな………?
「あ、そーだ監督」
「うん?なんだ霧雨」
「さっきの「打球が強すぎて云々」を教えてくれよ」
思い出したように霧雨が訊いてくる。
実際に、今思い出したのだろうが。
「………なんだっけ、それ。もう忘れたな」
「よし、今すぐ思い出させてやるぜ、コイツで」
おいそこ、拳を振り回すな。
「冗談だ。まったく、すぐ暴力に訴えるのは先生感心しないぞ」
「おいおい、冗談は顔だけにしてくれよ」
ほっとけ、親から貰った顔に文句言うな。
「ふぅ。………まあそんなに難しいコトじゃないんだが、打球が強すぎるとさ、フェンスに当たった時に勢いよく戻ってくるだろ?」
「………うん、確かにそーだな」
「だから、あんまり深追いしなくてもボールの方から勝手に戻ってきてくれる。守る側としては、そのぶん次の行動に移りやすいよな」
「ふんふん」
「だから逆に、俺たちは次の塁を目指せる確率が低くなる、ってこと。単純だろ?」
「あ、そうか」
得心がいった、という表情でぽん、と手を叩く。
「ま、結果的には跳ね返った角度がおかしくなってこっちは儲けた訳だけど」
「でも妹紅はアウトになっちゃったけどね。………ねえ、妹紅は三塁に止めておけば良かったんじゃないの?」
蓬莱山が茶をすすりながら、ジト目でこちらを見る。
「なんだ、蓬莱山もようやく野球に興味がわいてきたか」
「まあ、少しわね。それより、今の質問」
「藤原を突っ込ませたのは愚策………か」
まあ、確かにそういう論もある。
結果的にはアウトになった訳だから、もし藤原を三塁に止めておけば一死二塁、三塁となっていたわけで、大きなチャンスは続いていた。
「くくくくく………。蓬莱山、それを俗になんて言うか知ってるか?結果論、だ」
「結果論?」
オウム返しに訊かれる。
「ああそうだ。一つのプレイが終わってから、あれが良かった、あれをしておけば………とか思うのはいくらでもあるさ。でもそれは、『終わってからしか考えられない』んだよ」
「………」
「例えば、ストレートを投げた。それを打たれたとする。………だったら、そいつは変化球を投げれば打たれなかったのか?」
「………それは、分からないわね。変化球を投げても、相手はうまく合わせて打たれたかもしれないし」
「そう。それと同じことだ。さっきの藤原のアウトだって、センターの犬走が送球をミスってたら、キャッチャーのレティがボールを取り損なったら、藤原のタックルを防ぎきれなかったら………分岐点はいくつもあった」
今回は全てにミスが無かったから、藤原はアウトになった。
それでも、ギリギリのアウトだ。どれか一つでもミスしていれば余裕でセーフだった。
「だから、俺は今の判断が間違っていたとは思っていない。無論、責任は全て俺が取るがね」
「ふぅ………ん。なるほどね、勉強になるわ」
そう言って、納得したようにお茶をすする。
(………しかし、結構いいところ突いてくるな。外見とは裏腹に、頭の回転はなかなか早そうだ)
一方、打席の八雲は、ルナサのカーブに手を焼き、2ストライク1ボールと追い込まれていた。
「ぐぬぬ、面妖な………正々堂々と向かってこないのですかっ」
「………一応、ルール通りに正々堂々とやってるんだけどね」
………八雲の言い分はどうあれ、打てないのは当然だ。普通、素人が変化球を初見で打てるわけがない。
………だからこそ、逆にレミリアの化物っぷりが目立つんだけどな。
そして、四球目。
やはりというか、決め球にカーブを持ってくるルナサ。
(やっぱカーブか………まあ、これぐらいの投手なら、何とかなるか)
俺が、そんなコトを考えていると。
カキィンッ!!
「嘘ッ………!?」
「当たったッ!!」
そう、文字通り、「当たった」。
八雲が破れかぶれで振ったバットに、たまたま当たったのだ。
だが、まぐれで当たったにしては打球は良いところへ飛んでいる。
三遊間―――サードとショートの間へ、ライナーの打球が飛んでいる。
これは抜けるか………!?
バシィッ!!
俺が思った瞬間、一番俺が聞きたくない音が響いた。
グローブに、ボールが入る音。
見れば、サードの永江が飛んでいた。
飛んでいた、という表現は正しくないが、俺の目にはスローモーションに映っていたので飛んでいたように見えた。
まあつまり、永江が横っ飛びにダイビングしてボールを掴んだのだ。
ズザァッ!!
「アウトォッ!!スリーアウトチェンジ!!」
ダイビングの後、ゆっくりと起き上がり、ぱんぱんとユニフォームに付いた土を払う永江。
「ふぅ………なかなかどうして。この野球というやつは、空気が変わりやすいスポーツですね」
………こいつめ、涼しい顔してなかなか言うじゃないか。
しかし、永江の言うとおり、野球というスポーツは、簡単に空気………「流れ」というやつが変わってしまうものだ。
それも、一つのプレー、一つの動きで、だ。
「………あと1点が入らず、か」
おまけに、最後が永江のファインプレーで終わっている。
これはちょっと嫌な感じだな………なんとか流れを引き戻さないと。
そう思っていると、三塁に残塁となったレミリアが、ヘルメットを脱ぎつつ歩いてきた。
「それじゃ監督。私はこの辺で休ませて貰うわよ」
「ああ、おつかれさん。………まさか、初見の変化球に対応出来るとは思わなかったぞ」
正直な感想だった。
レミリアはニヤリと笑い。
「当然よ………と、言いたいところだけど」
レミリアの表情が急に真面目になっていく。
「正直ね、相手を舐めていたわ。大した力も無いだろう、と。………でも、力が無いなら無いなりの戦い方があるのね」
………俺はこれまで、レミリアのことをただの自信家だと思っていた。
まあ実際、それに見合う実力があるのだが。
しかし、こうして相手の実力を認める部分も持ち合わせているとは、知らなかったな………。
「そうだな。………でも、それに気づいただけでも大したモンだが」
「あら………私を誰だと思ってるの?レミリア・スカーレットよ」
「ああ、分かってるよ。………次も、頼りにしてるぜ」
そして、俺は右手を掲げる。
レミリアはその意図を察し、左手を挙げ――――――
「負けたら、承知しないわよ?」
パンッ!!
ハイタッチをして、レミリアはベンチへと下がっていった。

あとがき:
なにこのカリスマ。
本当は二番手Pのルナサを前面に押し出す予定だったんだけど、気づいたらお嬢様が打ってた。不思議。
後は、あんまりスポットの当たっていなかったレティとかキャーイクサーン衣玖とかの出番も出してみたよ。
しかし野球素人にとって初見での変化球の打てなさは異常。
嘘だと思うなら、変化球のあるバッティングセンターに行くと良いよ。カーブとか結構キツイ。
そして今回で両軍の主砲クラスが退場。次からは誰にスポットがあたるのかね。

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