東方野球狂 〜Go mad to baseball


第12話


「ふぅ」
ひとつ息を吐いて、すたすたと風見が戻ってきた。
「惜しかったな。ルナサを挑発して、ストレートを投げさせたのは正解だったがな」
俺は風見を励まそうと、作戦通りに行っていたことについて誉めた。
しかし、それに対して風見の反応は俺の予想を覆すものだった。
「何を言っているの?私はカーブを待っていたのよ」
「………なに?」
「打つだけでは物足りない。どうせなら相手の一番得意な球を打ちたかったわ」
話が噛み合わない。
「お、おいおいおい。お前まさか、本気でルナサのカーブが打てると思ってたのか?」
「何を今更。おかげで彼女のストレートに少し振り遅れたわ。まあ、それでも芯に当てたけど」
何を馬鹿なことを………と言いかけて、気づいた。
さっきの風見の打球だ。
最初からストレート狙いであれば、打球は引っ張って打つことになる。
風見は左投げ左打ち。
つまり、引っ張って打った場合は一塁方向へ飛ぶはずだ。
にも関わらず、実際の打球はセカンドへ飛んだ。
………ということはこいつ、本当にカーブを狙っていったのか。
「まあ、今となってはどうでもいい事。………そのぶん、きっちりお返しはするけどね?」

スパァーン!!
「ストライク!!バッターアウト!!」
「は、速いです〜………」
先ほどよりも球速が速くなった気がするのは俺だけだろうか。
5回表の先頭打者、リリーホワイトがくるくると回って倒れたのを見て、そう思わずにはいられなかった。
「さあ、私の球を打てる者はいないの?」
「ここにいます!!」
どこかの三国志で見たような台詞回しが出たと思ったら、次打者の犬走が名乗りを上げた。
「私の目の良さを侮らないでくださいね!!」
「へぇえ………いい度胸じゃない。これは楽しめそうねぇ」
………その口の端をつり上げた悪そうな顔はやめろ。
ともあれ、犬走は自分の目………つまり動体視力か、それにかなりの自信を持っていそうだな。
「プレイ!!」
審判のかけ声と共に風見は振りかぶり………投げた。
スパァンッ!!
「ボール!!」
風見のボールは、インコース高めにボール半個外れていた。
それを微動だにせず、犬走は見送った。
「あら、手が出なかったのかしら?」
「違いますっ!ボールだと分かったので見逃したのです」
おお、言うねえあいつも。
しかし犬走の言葉が本当ならば、かなり選球眼は良いことになる。
「ふうん………じゃあ、これは見逃せるかしらッ!!」
そう言い放つ風見の、第二球。
コースは………ど真ん中ッ!?
「見逃すわけ………ありません!!」
そりゃそうだ。ど真ん中見逃すとかどこのアホだ。
カキィンッ!!
いい音がしたが、勢いはほとんどない。
セカンドの紅がゆっくりと両手を上げた。
「はいはい、これでツーアウト………うっ!?」
余裕を持ってグローブを構えていた紅だったが、突然その体勢を崩し、ボールから目を切った。
「なッ………!!」
これには、さしもの風見も驚いた。
「おい何やってんだよ美鈴!!」
霧雨も、ベンチから慌てた声を出す。
「くっ………眩し………」
また構え直すも、その動作は非常におぼつかない。
俺はピンと来た。
「なるほど………アイツ、太陽を直視しやがったな」
「太陽を………」
「………直視?」
霧雨、そして上白沢が同時に聞いた。
「ああ。今日は雲一つ無い天気だからな………不用意に真上なんか見たら太陽光線で目が眩むわな」
「太陽光線………あっ!!」
「お前達も屋外の球場で試合するときは気をつけろよ。あーあ、あれじゃ取りづらいだろうな」
恐らく、紅の網膜には太陽の痕が焼き付いて離れてないはずだ。
ガツッ!!
そして俺の予想通り、紅のグラブの土手部分にボールがぶつかった。
「ああっ………!!」
ポン………ポン………。
無情にも、地面に転げ落ちる白球。
当然、一塁に間に合うわけもなかった。

「貴方ねえ………自分が何をしたか分かってるのかしら?」
「す、すすすすみませんっ!!ほんとーにすみませんっ!!」
こめかみに青筋を立てている風見と、平謝りしている紅。
「普通、こういうときは「ドンマイ」の一言で済ますんだがなあ………」
「あいつにそんな殊勝な心がけを期待する方が無理ってもんだぜ」
そうなのか………。
それでも、ああいう態度はあまり見た目も良くない。
それに心なしか、四季映姫審判がぎろりとこちらを睨み付けているように見える。
………しゃーない、行くか。
「タイム!!」
俺は腰を上げ、四季映姫審判に向かって手を挙げた。
四季映姫審判はこめかみを押さえつつ。
「丁度良い。こちらからタイムをかけようと思っていたところです………あのような行為を黙って見ていられませんので」
だよなあ。普通あんなことしないよな。
「すいません、本当に。で………私が直接マウンドに行っても構いませんか?」
「本来ならいけませんが………まあ、練習試合ですし、いいでしょう。早く止めてあげてください」
「助かります」
本来、監督は試合中にマウンドまで行くことは出来ない。
伝令役として控え選手に伝言を頼むことしか出来ないのだ。
だが、今日は練習試合。そう目くじらを立てる必要もないと言うことだろう。
ずかずかとマウンドへ歩いてくる俺を、風見と紅が見つけた。
「………なに?」
「あ!!監督………」
片や「良いところなのに邪魔するな」。
片や「ナイスタイミングです」。
両者の目が、そう物語っていた。
「………まあ落ち着け。ったく、いい恥さらしだなおい」
大袈裟に、やれやれという表情を見せてみる。
「ええ、そうね。………この中国女の所為でね」
「す、すみません監督うう!!」
どうやら、紅は自分が恥を晒していると本当に思っているらしい。
………呆れた。
「馬鹿、お前じゃない。………風見、お前だよ」
「………あら、どういう意味?」
「………どうもこうも。1つのミスでいつまでもぐだぐだ言ってるのが恥さらしだ、っつってんだ。いい加減気づけ」
その瞬間、俺の目の前で、風見の表情がみるみるうちに変わっていくのが分かった。
「へぇ………ミスをしたことについてはお咎めをしないと言うのね?」
「そんなことは言っていない。だが風見、それを言うならお前もミスを犯していることになるぞ」
そう。風見はミスをしていた。
「ミス………?何のことを言っているのかしら」
「………分からんみたいだから教えてやる。「ど真ん中を投げたこと」だ」
ぴくり。風見の眉が動いた。
「何故ど真ん中に投げた。………いや、この際ど真ん中に投げたこと自体はどうでもいい。何故、お前は「八意のサインを無視」した」
「………ッ!!」
はっと、俺を見る。
………俺が気づかないとでも思ってたのか。
「八意はどこに構えていた。答えろ、風見」
「………何よ、打ち取れば、文句は無」
「どこに構えていた」
風見の言葉を遮るように、俺は言った。
「………内角」
「そうだ、内角だ。………ということはだ、一度内角を攻め、犬走の腰が引けたところで外角で勝負、ということだ。そうだな、八意」
俺と風見がやりとりをしている間に八意が来ていた。
「ええ、そのつもりだったわ」
「………だから、何だって言うのよ」
まだ何を言いたいのか分からないらしい。風見が苦々しい顔をする。
「………お前は、一人で野球をしているのか?」
「………は?」
「野球ってのはな、一人じゃできねーんだよ。九人いないとどうしようもねーんだ。そんなこともわかんねーのか?」
「ちょっと、何言って………」
「八意のサインを無視して、案の定犬走に打たれて、それで自分のことは棚に上げてチームメイト批判か?
 そんな自分勝手な奴はチームに必要無ェんだよ。
 だからな、風見………これ以上ガタガタ抜かすなら、マウンドを降りて貰う」
「!?」
完全に、風見の表情が崩れた。
「………ちょっと、それ本気!?」
「本気も本気だ。いくら球が速かろうが、いくら打とうが、そんな基本的な心構えが出来ていない奴をグラウンドに置いておくほど、俺はお人好しじゃない」
チームの和を乱すような奴は要らない。それが、どんなに戦力になろうとも。
「………分かったか。分かったんならさっさと次の打者を抑えろ。そして二度と馬鹿な考えはするな」
後で八意に聞いたんだが、このときの俺の目は相当に鋭く、風見を見つめていたらしい。
「わ………分かったわよ。抑えればいいんでしょう………ッ!!」
そう言い放つのが精一杯。
俺の目には、風見はそう映った。

「火に油を注いできただけじゃねーか?」
「まあそう言うなよ。「鉄は熱いうちに打て」だ。最初のうちから腐った性根は叩き直しておかないと、後々に響くんだよ」
俺の言葉に、博麗が思いっきり不審がる。
「幽香がそう簡単に心を入れ替えるとは思えないけど………」
「ははは、そうかもな。………でも、やらないよりマシだ」
マウンドでは、その風見がキレながら二番・東風谷に投げていた。
「グゥッ………!!」
パァンッ!!
「ボール!!」
なるほど、怒りで球威は増したようだな。
その代わり、コントロールが最悪になったが。
今も、高すぎる位置に飛んでいき、八意が間一髪腕を伸ばしてキャッチしていた。
これでカウントは0ストライク3ボール。
あと1球ボールになったらフォアボールだ。つまり一死一、二塁。
そして打順はクリーンアップへと繋がっていく。
まあ、今は4番にはルナサが入っているが………代打が出るだろうか。
「こぉ………のっ!!」
キレたままの風見・第四球。
今度はストライクゾーンに向かっている。向かっているが………
「よりにもよってど真ん中!?」
これを東風谷が見逃すはずがなかった。
「はあっ!!」
カキィンッ!!
風見のストレートに若干振り遅れながらも、芯で捕らえた打球がセンター方向へ向かっていく。
まずいな………
抜ければ一死一、二塁。そしてクリーンアップへ回ってしまう。
追撃ムードを出したい今、余計な追加点は避けたいところ。
………しかしそんな俺の思惑は、紅が見事にぶち壊した。
ばしぃっ!!
「や………やったあ!!」
紅がダイビングキャッチで、ライナーで抜けようかという当たりをつかみ取った。
「美鈴!!ファースト!!」
「あ、は、はいっ!!」
十六夜の声に、起き上がりざま一塁へ転送。
慌てて犬走が頭から滑り込む。
が、送球が一瞬早かった。
「アウトッ!!」
先ほどのダブルプレーのお返しが、ここに決まった。
「ぃよっしゃあ!!これでさっきのミスはチャラだぜ、美鈴!!」
………チャラどころかお釣りが来るけどな。
単に三者凡退に抑えるよりも、こういった抑え方のほうがより選手も乗り気になる。
「なかなか良い反応だったわよ、美鈴」
「あ、あはは………元はと言えば私のミスが原因でしたから。グローブに入ってくれて良かったです」
照れ笑いを浮かべる紅。
そこに一人、つかつかと近づいていく。
「………ちょっと」
「………あ、幽香………さん」
風見だった。
「………な、なん、でしょう、か………」
先ほどのミスを思い出したか、だらだらと嫌な汗をかき始めている。
そんな様子を、じっと風見は見ていたが。
「………助かったわ」
たった一言。
そして、くるりと踵を返す。
「え………え?えええ?」
予想外の言葉だったのだろう、紅はまだ、かけられた言葉の意味が理解できないようだった。
「なに挙動不審になってるのよ、美鈴。誉められるなんて滅多にない機会じゃない。もっと喜びなさい」
「で、でも咲夜さん、あ、あ、あまりに突然の事だったものでびっくりしちゃって………」
………誉められ慣れていない奴をたまに誉めた時のうろたえようって、なかなか面白い物があるな。
それはさておき、ベンチに戻ってきた風見に声を掛ける。
「それでいいんだ、風見。お前が誰かを助けることもあるし、誰かがお前を助けることもある。無理に抑えようとするな。後ろには8人が守ってるんだから」
「………ふん、交代がゴメンだっただけよ」
さっき俺が言ったこと、根に持ってるな………まあいい。
「そっか。じゃあ良い知らせだ、次の回も投げて貰うぞ」
「あら、さっきは交代するって言ってた癖に、調子がいいのね」
「………ただし、独りよがりな投球はするなよ」
俺の注文に、風見はニヤリと笑い。
「その言葉、次の回には吐けなくしてやるわ………!!」
おお、あっという間にいつもの風見に戻ったな。
まあ、これが風見の持ち味だ。
やることをやってくれれば問題ない。
「さあ、今度はこっちの反撃だ!!遠慮無く打ってこい!!」

あとがき:
Q:美鈴ばっかり目立ってる気がするのですが気のせいですか?
A:俺の東方キャラソート結果を見ろ。話はそれからだ。
ということで美鈴ばっかりスポット当たってるけどしょうがないよね!!ね!!
あと自身満々なキャラを虐めるの楽しいなあ。ドSか俺。
でもそろそろベンチ入りのキャラを出したりとか考えないとなあ。
てゐとかアリスとかパチュリーとかが空気過ぎるだろ………。
あととっくの昔に星蓮船出てるけど、まだプレイしていないのでキャラをこの先出すかどうかは未定。
ちなみに地霊殿はプレイ済なのでこの先の地方予選とかでばんばん出す予定だよ。
とりあえず個人的にさとりはキャッチャー確定で。うわあ、楽しそうだなあ。

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