東方野球狂 〜Go mad to baseball


第13話


「さあ、今度はこっちの反撃だ!!遠慮無く打ってこい!!」

そう言って、先頭打者の射命丸を送り出す。
………まさか、その結果が三者連続三振になって返ってくるとは思ってなかったが。
「あやややや、すごい曲がり方していましたねえ。あれでは打てませんよ」
「ええい、弱音を吐くな。………まあ、とんでもないキレをしていたけどな、ルナサのカーブ」
そう、先ほどまでのイニングでもルナサのカーブに手を焼いていたのに、このイニングは更に鋭さを増していた。
おかげで全員、空振り三振だ。
「まるで全力で投げていたみたいだなぁ。気合が全然違ったし」
「まるでじゃなくて、全力だったんだ。もうこれ以上投げる必要が無い、って分かっていたからな」
え?どういうこと?
そんな視線が、体中に注がれた気がする。
………少し考えれば分かるだろうに。
「ああ、つまりルナサに代打を出すということね」
あ、理解しているのが一人いた。
「その通りだ、八意。この回は永江・ルナサ・比那名居と打順が回る。既にルナサは2回2/3イニング投げているし、そろそろ代え時だろう。それが分かっていたから、あれだけ全力で投げられたんだ」
つまり、ここはどちらのチームにとっても勝負所なのだ。
相手の代打にヒットでも打たれたら「やっぱりルナサを代えて良かった」となり、相手チームの士気が上がってしまう。
しかし逆に凡打に抑えれば、「もう少しルナサで行けば良かったかな………」となり、相手チームの士気を下げることが出来る。
だから、ここを抑えるかどうかで今後の試合展開に大きな影響を与えるのだ。
「というわけで、頼むぞ風見。ここは何としても0点に抑えてくれ」
「ふふ、頼まれたわ。誰が出てくるか知らないけど、ねじ伏せてやるから」
すっかり完全復活した風見が、意気揚々とマウンドへ歩いていく。
「はっ!!」
スパーンッ!!
「ストライク!!バッターアウト!!」
「何と………空気を読み間違えましたか」
先頭打者の永江、見逃しの三振。
まずは1アウトだ。
………そして、問題の4番。
「代打!!」
予想通り、八坂監督が出てきた。
さあ、どんな打者が出てくるのか。
「ルナサに代わって………」
誰だ………誰だ、誰だ!?


「………代打・私!!」


ぶーーーーーーーーーーーーーっ!!
俺は飲んでいた茶を思い切り噴いた。
「わっ!!監督何してんだよ!!」
「げほっ!!げっほ!!………な、なんだって!?」
監督が代打!?
選手兼任だったのか!?
そもそも選手だったのかよ!!
妙に貫禄ありすぎだろ!!ホントに高校生なのか!?
………様々な突っ込み所が瞬間的に浮かんできたが、それよりもこの現実を直視しなければならない。
「さあ………どっからでもかかっておいでよ」
右打席に入り、両腕を思い切り伸ばし、堂々とした構えを取る八坂。いわゆる、神主打法と言うやつだ。
中日ドラゴンズ監督(2009年現在)の落合博満氏や元埼玉西武ライオンズの江藤智氏が、この打法を扱っている。
まだ一振りもしていないのだが、立ち居振る舞いをひとつ見ても、その風格たるや一流スラッガー並である。
しかし、その威圧感にも風見は動じていない。この辺の度胸はたいしたもんだと思う。
「ふん、誰が出てこようと………抑え込んでやるわよ」
風見、振りかぶって初球を投げる。
コースは………ど真ん中!?
な、何考えてんだあいつら!!
一瞬そう思ったが、すぐに思い直す。
八坂は、今日初めて打席に立った。そして、風見のストレートを「打席で」初めて見る。
ベンチから見るのと、実際にバッターボックスに立って見るのとでは、球の速さというのは全く違う物だ。
すると、いきなり初球からガツンと打たれる可能性は………高くはない。
そこまで考えてのど真ん中であれば、ひとまず納得はする。
しかし………しかし、この八坂という打者のオーラ………並の打者ではない、と俺の勘が告げている。
果たして、易々と見逃すのか………!?
「貰ったぁぁぁッ!!」
げえっ!!やっぱり見逃す気はなかった!!
八坂、初球からど真ん中をフルスイング!!
ガキィィィンッ!!
………とんでもない打球音がした。八坂のパワーが、音だけで伝わってくる。
そして打球は、あっという間に場外へ消えた。



………ただし、「レフトポールの左側」の場外だが。

「ファール!!」

「あ、危なかったぜ………」
「全くだ。八坂め、あまりにも良い球過ぎたんで、打ち気に逸ったな。まあ、それが幸いしたが」
つまり、風見のストレートを待てずに、通常より早すぎるタイミングでスイングしてしまったというわけだ。
これはこれで助かるのだが、それはつまり、風見の球に振り遅れることがない、ということを示す。
………つまり、風見の武器が通用しない。
「………やってくれるじゃない、神様」
ふてぶてしい笑いを返すのが、風見には精一杯だった。
………むう。これは抑えるのが厄介だな。やはり投手交代すべきかな。
しかし、抑えられる投手がいるか………?
「タイム!!」
そう思っていると、八意がタイムをかけているのが見えた。
そして、マウンドへ向かって風見と相談を始めている。
………ひょっとして八意の奴、何か作戦を考えついたのか?
そんな俺の視線に気づくと、八意は片目を閉じて、アイコンタクトしてみせた。
どうやら「任せろ」ということらしい。
………これは面白い。ならば、ここはあいつらを信じよう。
ちなみに、さっきまでは話している内容がまる聞こえだったが、
さっき教えたとおり今はグローブで口を押さえて話しているため、何を話しているかまではうかがい知れない。
「………ッ!!………!!」
だが、風見がキレているところを見ると、何か八意が無茶な要求をしているように思える。
………もしくは、風見のプライドに関わるような要求だろうか。
どちらにしろ、易々と八意の要求を呑むような状況では無さそうだ。
だったら、無理にでも承諾させなきゃな。
「ミスティア!!」
わざと風見に聞こえるように、大声でミスティアを呼ぶ。
「どうしたの監督〜♪何か用かしら〜♪」
ぱたぱたとリズミカルに走ってくる。
「………お前っていつでも歌ってんのな。まあいいや、投球練習を始めろ」
「ということは〜♪次の投手は私なのね〜♪」
「そうだぜ〜♪いつ投げるかは風見のでき次第だけどな〜♪」
「監督〜………私のアイデンティティを取らないで〜………」
なんだよ、釣られて歌っちゃたんだからしょうがないだろ。
そうしてミスティアに投球練習を命じたところで、改めて風見を見る。
「………!!」
俺の目論見通り、風見はこの一部始終を見ていた。そして「キレ」ていた。
俺を指さして何か言っているが、言葉になっていない。
よしよし、これで俺の「八意の言うとおり投げろ、さもなきゃマウンドから降ろすぞ」というメッセージが理解できたかな。
そして、俺の意図をしっかり理解した八意が再度説得、最終的には風見も首を縦に振らざるを得ないのだった。
「こそこそと相談してたみたいだけど………無駄にならなきゃいいがねェ」
戻ってきた八意に、八坂が挑発とも言える言葉を吐く。
「無駄になるかどうか………じっくり見てらっしゃいな」
キャッチャーマスク越しに、不適に笑い返す八意。
「プレイ!!」
1ストライクから試合が再開する。
果たして、八意の考えた作戦は何なのだろうか………。
「くっ!!」
風見が、覚悟を決めた表情で二球目を投げる。
その球に、何も工夫は見られない。
「見られないっつーか、またど真ん中ァ!?」
これじゃさっきと同じ球じゃねーか!!今度こそ八坂に一発持ってかれるぞ!!
ガキィィンッ!!
またもジャストミートした八坂の打球は………レフトポールの外側へ消えていった。
「ファール!!」
「ああもう、惜しいねえ。………まさか二球続けて同じ球が来るとは思ってなかったけど」
「………」
カウントとしては2ストライク。形の上では追い詰めたことになる。
しかし、その二球とも簡単に打たれている。同じ2ストライクでも中身がまるで違うのだ。
それが分かっているから、八坂も余裕なのだ。
そして、八意は黙ったまま、風見にボールを返す。
「………分からん。あの二人が、何を考えているのか」
「そうねえ。永琳のことだから何か思いついたことは間違いないでしょうけど」
上白沢、蓬莱山の二人も、八意の考えを図りかねている。
確かにそうだ。
一見、同じ球を二球続けて投げただけなのだから。
………同じ球?
八坂ほどの打者が、同じ球を、同じファールにした、だと?
そんな馬鹿な。
八坂ほど力のある打者なら、自分のスイングが早すぎたことを修正し、同じ球が来たらタイミングを遅らせてスイングすることぐらい出来るはずだ。
それが同じ方向へのファールになったということは………八坂がスイングを修正できていなかったか………もしくは………。
「………そうか、そういうことか」
人知れず、俺は呟いていた。
「あ、なんだよ監督。その顔は、永琳達がやろうとしていることが分かった、って顔だな」
顔に出ていたらしい、霧雨に気づかれた。
「ああ、はっきりとな。なるほど、これなら一番、八坂に対して効果があるだろう、そして風見も嫌な顔をするわけだ」
「………しかしその内容、これまでの監督の行動から察するに、私たちには教えてくれないのだろうな」
「ははは、さすがに今まで見ていただけあって、上白沢は察しが良いな。まあ、ちょっと考えてみてくれ。ヒントぐらいはやるよ」
その言葉に、霧雨の顔が色めき立つ。
「ヒントか!!是非とも欲しいぜ。くれるものは何でも貰う、ってのがウチの家訓だからな」
………お前、くれないものでも無理矢理「借りて」ないか?
「………そりゃいい心がけだな。………そうだな、ヒントは、風見の投手としてのポリシーだな」
「ポリシー?」
そう。
風見はあの通り、自分自身の球に絶大な自信を持っている。
ということは当然、自分の自信のある球………ストレートで勝負したいはずだ。
しかし、八意は恐らく違う球を要求した。だからこそ反抗してみせたのだろう。
「………分かったぞ。永琳は、幽香に変化球を要求したんだな?」
最初に発言したのは、上白沢だった。
が、これは正解ではない。
「惜しいな。風見はまだ変化球を知らない。まあ、ストレートだけでも一級品だがな」
「それじゃ………」
「そうだ。つまりストレートでも、変化球でもない球を八意は要求したことになる」
「あら、そんな球なんてあるの?」
ある。………まあ、厳密には違うかもしれないが。
そして、マウンドでは。
カキィンッ!!
「ファール!!」
「………おかしいねえ。いくら打ってもファールになるなんて。タイミングは合わせてるハズなんだけどねェ………」
既に5球、風見は八坂に投げていた。そして、全てファールになっていた。
ほとんど同じ、レフトポールの外側へのファールだ。
「仕掛けるならそろそろだな………」
俺の想像が正しければ、そろそろ仕掛けないと、八坂が気づいてしまう恐れがある。
だから、次の球が勝負球のはずだ。
そして、八意からサインが出される。
同時に、ニヤリと笑う風見。
「待っていたわ………この球を」
そして、思い切り振りかぶる。
ここまでは、今までと全く同じだ。
「………そろそろ、決めさせて貰うわ、山の神様」
「なん、だって?」
「私たちは、何も考えずにずっと同じ球を投げさせていた訳じゃない、ってことよ」
キャッチャーマスクの奥で、勝利を確信した笑みを浮かべる八意。
「この球………あなたに打てるかしら?」
風見が、投げた。
「ふん、どうせストレートだろう!!こんな球ぐらい………………ッ!?」
ギュオンッ!!
風見のストレートが、唸りを上げて向かってくる。
「なっ!?今までよりも………格段に速い!?」
そして、コースはややアウトコース。
八坂は完全にタイミングを崩されていた。
しかも、ボールが遅くてタイミングが崩されたのだったらまだ修正のしようもあるが、球が「速すぎて」ついて行けなかったのである。
ブンッ、バシィッ!!
空振り音の一瞬の後の、ストレートがミットに突き刺さる音。
「ストライィィク!!バッターアウト!!」
四季映姫審判の気合が入った一声が、この勝負の結末を告げた。

あとがき:
まさかの代打オンバシラ。
最初は監督のままで行く予定だったけど、なんだか出したくなって出してみた。反省はしていない。
それにしても13回目でようやく6回表か。
9回まであと何話かかるんだろう………。
あと、ようやく星蓮船プレイしたよ!!(Easyのみ)
まさか初見クリアできるとは思わなかった。
いつもどおり、感想・意見・いろいろあればよろしくー。

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