裏CLANNADことみ編 4月24日
四時間目の授業がはじまった。
怠惰なだけだった俺が、なぜか活発になる時間帯だ。
きっとことみは図書室に移動しているだろう。
なのに俺は、教師の背中を恨めしく睨みながら、時間を潰すはめになった。
全く隙がない。
というか、明らかに俺のことをマークしている。
やはりここのところのサボリの連チャンがまずかったらしい。
と、ここで、教師がいきなりトランシーバーを取り出した。
教師「(ザーッ)こちらA地点、異常なし。そちらは異常ないか、どうぞ(ザーッ)」
?「(ザーッ)B地点、岡崎の動きに異常なし。逃げ出す気配はありません。どうぞ(ザーッ)」
?「(ザーッ)C地点も異常なし。なお、ノートは全く写しておりません。どうぞ(ザーッ)」
気づくと、俺の真横と真後ろに、段ボールが二つ。
試しに、段ボールを蹴りつけてみる。
?「うわあああっ!!」
教師「ど、どうしたス○ーク!!応答しろスネー○、○ネエェェェク!!」
色々と突っ込みどころだらけだよ!!
HRも終わり、鞄を提げた生徒たちが教室から散っていく。
眠気の取れない頭のまま、その様子をぼんやりと見ていた。
今頃、ことみはどうしているだろう?
図書室には…
放課後の開室中だからまだ行かないだろう。
きちんと待ち合わせをしたわけではないから、いつもの場所にはいないかもしれない。
それより、ことみにまだ、俺のことを待つ気はあるのだろうか?
ことみの姿を思い返してみる。
友達を紹介するなんてのは、結局俺のひとりよがりでしかない。
俺が考えるよりずっと、ことみの負担になっていたのかもしれない。
あれだけ人見知りが激しくて、人付き合いも苦手な奴なのだ。
もしかしたら、もう俺とは会わないと決めているかもしれない。
ことみ「朋也くん、こんにちは」
朋也「………」
ことみ「こんにちは」
朋也「………」
ことみ「………ええと」
ことみ「ぐっどあふたぬーん?」
朋也「そうじゃなくてだな」
ことみ「??」
朋也「人見知りが激しくて人付き合いも苦手という設定の人間が、なぜ他人の教室に平然と入ってくるよ?」
ことみ「いいぜ。Key公式が決めたことみの設定こそが真実だと言うのならば、まずはそのふざけた幻想をぶち殺す」
久々の中二病台詞な上に余所のパクリかよ。
ことみ「オマージュって言えよこの愚民が」
朋也「…とにかく、場所を変えるぞ」
ことみ「?」
朋也「いいから来いって」
ことみ「あっ…」
手首を掴んだとたんに、ほっぺたがぼっと赤く染まる。
ついでに、ことみの身体がメキメキと異形の物へと変化していく。
っておい、どういう展開だよ!!
ことみ「『異性に触れられると見るも醜い怪物へ変身してしまう設定』という設定を新たに追加した。これで確実に裏CLANNAD真のヒロインへと近づいたの」
本来のヒロイン要素からは確実に遠ざかっているけどな。
声「あの…」
朋也「ん?」
振り向くと、藤林が立っていた。
声「岡崎くん…あの…これ…」
おずおずと差し出してきたのは、俺の鞄だった。
ことみを教室から出すことだけ考えていたせいで、すっかり忘れていた。
朋也「…わざわざ届けてくれなくても、自分で取りに戻ったけどな」
もしくはそのまま置いて帰ったか、どっちにしろ大したものは入ってない。
椋「でも…あの…やっぱり…放っておくのは、よくないと思いましたから」
朋也「まあ、ありがとな」
藤林の手から、薄っぺらな鞄を受け取る。
朋也「でさ、いきなりで話が見えないかもしれないけど、ちょっと紹介な」
例によって俺の背中に隠れていたことみを、藤林の前に押し出した。
朋也「こいつさ、一ノ瀬ことみって言って、俺の知り合いなんだけど…」
藤林は何も言わず、ことみをきょとんと見つめている。
ことみも藤林のことを不思議そうに見ている。
違う種類の小動物同士が、木の上で偶然出会った時のようだ。
きっと両者とも、『似てるけど、なんか変』とか思っているんだろう。
朋也「ほらことみ、挨拶しろ」
俺の声で我に返ったことみが、ぺこりと頭を下げる。
ことみ「我の名は、災厄をもたらす者・『リトルメルトダウンことみ』」
お前時期的にそのネタアウトすぎ。
とその時、藤林が先に動いた。
制服のポケットから、トランプを取り出した。
ぎこちない手つきで札をくる。
椋「あ…」
バラララ…。
お約束通り、床にぶちまけた。
椋「あ…う〜…」
慌てて拾い集める。
どうにか扇形にトランプを広げ、ことみの前にかざした。
椋「ど、どうぞ…三枚選んで下さい…」
ことみ「………」
ことみ「……………」
ことみ「………いじめる?」
朋也「いや、泣きそうな顔で俺を見つめられても…」
椋「明日の運勢占いです…好きなカードを三枚選んで下さい」
ことみ「………」
ひょい…ひょい……ひょい。
おっかなびっくり、とにかく三枚札を抜く。
ことみが選んだ札を眺めると、藤林はしばし考え、おもむろに言った。
椋「一ノ瀬さん…貴方が王様です。命令をしてください」
いつ王様ゲームになったよ。
ことみ「じゃあ『2番が1番の生き別れの妹で、そうとは知らず1番の命を2番が付け狙う暗殺者』という設定の小芝居をひとつ」
お前も便乗すんな。
椋「死んでくださいっ!!」
藤林がトランプを鋭く投げつけてくる。
お前が2番かよ!!あと殺す気満々すぎだろ!!
椋「あ、あの…それじゃ…失礼します」
ことみ「椋ちゃん、さよなら」
椋「はい…さよならです」
ぺこっとお辞儀をして、廊下を遠ざかっていく。
ことみ「ふう…」
緊張していたのだろう、ことみが息を吐き出した。
朋也「…まあ、おまえにしては上出来だったな」
一応ちゃんと挨拶できたし、進歩の跡も見られる。
あの藤林に比べれば、ことみの方がまだしっかりしているような気はする。
朋也「それじゃ、次行くか」
鞄を提げて歩き出す。
と、ことみが珍しく手ぶらなのに気づいた。
朋也「そういえば、おまえ鞄は?」
ことみ「あっ…」
ことみ「きっとどこかに置きっぱなしなの」
ことみ「とっても大事なご本が、たくさん入っているの。あらゆる人の中二時代の奇癖を集めるだけ集めた「THE・中二病」も入ってるの」
見つからない方がいいだろ、これ。
結局今日も、友達紹介はうまくいったとは言えなかった。
楽勝だと思っていた藤林の前でさえ、あの調子だったのだ。
ことみの言葉を、もう一度思い出す。
『せっかく朋也くんが、私のためにってがんばってくれていることなのに…』
本当にこれは、ことみのためなのだろうか?
俺はことみに気を使わせているだけじゃないのか…?
そんな不安が、また頭をもたげてくる。
ことみは何も喋らずに、ただ俺の横にぴったりと寄り添っている。
朋也「なあ、ことみ…」
ことみ「…?」
朋也「こうやっていろんな奴紹介するのってさ…」
朋也「もしかしたら、迷惑か?」
小首を傾げるようにして、ことみが俺のことを見た。
ことみ「ええと…」
ことみ「私ね、ずっとひとりだったから…」
ことみ「お友達がいてくれたらって考えたこと、あまりないから」
朋也「そっか…」
ことみ「でもね…この頃はね、ちょっぴり思うの」
ことみ「私のアルティメットさを見せつける愚民はいてもいいな、と」
うん、やっぱりダメだこいつ。
裏CLANNAD ことみ編 4月24日 終
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ひとこと:
ネタの神が少し降りてきたので珍しく数ヶ月での更新。
これでも全然遅いよね、ごめんなさい。
メルトダウンは正直どうかな、と思ったけど、勢いで突っ切ってみた。
クレーム来たらこのネタ部分だけ消すよ。
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