裏CLANNAD 5月13日〜渚編END
翌朝。
結局渚の熱は下がらず、学校を欠席することになる。
 朋也「いってくるからな、渚」
寝込んだままの渚に声をかける。
 渚「はい、いってらっしゃいです」
顔だけこちらに向けて、笑顔で送ってくれる。
廊下に戻ると、お粥を載せた盆を持って、オッサンが立っていた。
 秋生「てめぇらは新婚夫婦かっ」
今のやり取りを聞かれていたようだ。
 秋生「ちっ、自分たちだけ楽しみやがって、俺と早苗も新婚生活に戻せ、この野郎」
 朋也「無理です」
 秋生「わかってるよ、馬鹿っ。俺と早苗はアツアツだからいいんだよ、この野郎」
 朋也「なら、言うな」
 秋生「けっ…てめぇと話してたら、渚の朝食が冷めちまう。とっとと行け、この野郎」
 朋也「言われなくても、行くよ」
 秋生「こら待て、両手ふさがってるんだから、おまえが開けねぇと入れないだろ、この野郎」
今のうちに一発殴っておこうかと思う。
 秋生「ちなみに日中は渚と話をするからな、妬くんじゃねぇぞ、この野郎」
 朋也「なんの話だ」
 秋生「家族の話だよ。これだけはてめぇに任せておけねぇからな。しばくぞ、この野郎」
 朋也「ああ、いい。任せるよ」
この家族ならば、できてしまった溝だって、簡単に埋まってしまうのだろう。
そう思いながら、その場を後にした。


翌朝も渚の熱は下がらなかった。
しかし俺にできることは何ひとつなく、学校に行くしかなかった。
昼の間に、かかりつけの医者も来たらしい。

でも熱を下げる手だてはなく、ただ、徳川埋蔵金を探す他ない、ということだった。

糸井重里!?

つか、探し当てたら治るの!?


ずっと、早苗さんの看病が続く。
俺はその合間を見て、渚に会いに行くだけだった。
 渚「今日も休んでしまいました」
 朋也「いいんだよ。よくなるまで、休んでいればいい」
 渚「学校は、楽しかったですか」
 朋也「楽しかねぇよ」
 渚「どうしてですか」
 朋也「おまえがいないからだよ」
 渚「すみません…」
 渚「でも、うれしいです。そう言ってもらえると」
 朋也「俺、ずっと待ってたんだ」
 渚「なにをですか」
 朋也「バスケとかやってさ…」
 朋也「創立者祭に向けて演劇頑張ったりさ…」
 渚「はい」
 朋也「やっと、付き合ってるふたりっぽく、学校で過ごせると思ったんだ」
 朋也「そういう生活を待ってたんだ」
 渚「すみません…」
 朋也「そういうのって、学生生活の醍醐味だと思わないか」
 渚「思います」
 朋也「本当に、そう思うか」
 渚「え? どうしてですか?」
 朋也「だって、おまえ、そういうこと全然意識してくれないからさ」
 渚「そ、そうでしょうか…」
 朋也「おまえ、子供だからなぁ」
 渚「そんなことないです」
 渚「わたし、朋也くんより年上です」
 朋也「いや、歳は関係ないだろ」
 渚「でも、ちゃんとわたしだって、そういうことしたいです」
 渚「学校や、いろんなところで、朋也くんとそういうことしたいです」
 朋也「そういうことって…?」

 渚「一人スクランブル交差点

ぜ、絶対したくねぇっ!!

※「一人スクランブル交差点」とは?
普通の交差点の横断歩道を無理やり斜めに横断し、一人だけスクランブル交差点の気分を味わう遊び
主に急いでいる人がこの遊びを行う。

 朋也「それって、いつもしてるような気がするんだけど」

してるのかよ!!

 渚「あ、そうかもしれないです…じゃあ…」

 渚「牡丹と薔薇ごっこ

財布ステーキですか、渚さん。

 朋也「…よし」

良くないよ!!バットで撲殺されるよ俺!!



一週間が過ぎても、二週間が過ぎても、渚は学校には行けなかった。
ずっと、下がりそうで下がらない微熱が続いていた。
一度無理して登校しようとしたが、立って歩いただけで、熱が上がってしまった。
5月が終わり、夏が近づいてきて…
6月が来て、衣替えをして…
夏休みになっても、渚は部屋の中にいた。
 渚「朋也くん…」
 朋也「なんだ、渚」
 渚「夏休みです」
 朋也「そうだな、夏休みだな」
 渚「わたしに構わないで、遊んできてください」
 朋也「いいんだよ、ここに居させてくれ」
 渚「こんなところに居ても、退屈です」
 朋也「退屈じゃない。こうして話できるだろ」
 渚「そんな夏休みってないです。楽しい思い出もできないです」
 朋也「楽しいんだよ、これで」
 渚「でも、もう話す話題もないです」
 渚「わたしは寝てるだけですから…」
 朋也「いいんだよ、話すことなんてなくても」
 朋也「俺は期待して待ってる。それを思うだけで楽しいんだよ」
 渚「何をですか」
 朋也「おまえと手をつないで歩ける日をだよ」
 渚「………」
 渚「他のひとと…」
 朋也「…ん?」

 渚「他のひととアメリカ横断ウルトラクイズに出てくれても…わたしは構わないです」

いや、もうやってないからネ。しかもあれ一人だし。

 朋也「馬鹿っ、怒るぞ」
 渚「だって、こんなわたしが彼女ではおもしろくないです」
 渚「朋也くんが、かわいそうです…」
 朋也「おまえ、俺を振る気かよ…」
 朋也「俺はおまえのこと好きなのに、おまえは違う人を探せって俺に言うのかよ…」
 渚「言いたくないです…」
 渚「わたしも、朋也くんのこと好きですから…」
 朋也「なら、言うな、馬鹿…」
 渚「はい…」
 朋也「二度と言うなよ…」
 渚「はい…わかりました」
 渚「………」
 渚「朋也くん」
 朋也「ああ、なんだ」
 渚「手、つないでくれますか」
 渚「歩くことはできないですけど…」
 朋也「ああ、いいよ」
渚が、細く白い腕を上げる。
俺はその手のひらを自分の両手で強く握った。

ざくっ

え、なに?「ざくっ」って。

 渚「あ、護身用に掌に仕込んでおいた剣山を外し忘れてました」

ぐあっ、そんなもん付けるなっ!!

 渚「しかもゾウでもイチコロの猛毒入りです」

げふぅーーーっ!!死ぬっ!!死ぬっ!!




残暑の厳しい9月が終わり、秋の気配が近づく頃。
俺はオッサンに呼び出され、古河家の話し合いの場に会すことになる。
 秋生「まぁ、てめぇには言っておいたほうがいいと思ってな」
オッサンはそれだけを言って、頬杖をついてそっぽを向く。
 早苗「朋也さん」
早苗さんが話を引き継いだ。
 早苗「渚は、もう一年、三年生をやることになるかもしれないです」
 朋也「え…」
 朋也「それは…卒業できないって…ことですか…」
 早苗「はい、このままだと」
俺はそこまで頭が回っていなかった。
ただ、本当に回復するのを待ち続けていただけなのだ。
今更自分を馬鹿だと思った。
 朋也「………」

 早苗「先生は中退して、徳川埋蔵金に専念すべきじゃないかと、言ってくれました」

先生も埋蔵金かよ!!

 早苗「学業がすべてじゃないですから」
 早苗「わたしたちも、学歴になんてこだわりません」
 早苗「すべてはあの子の意志に任せたいと思います」
 早苗「だからもし、あの子が卒業できなくても…」
 早苗「そこでどんな選択をしようとも…」
 早苗「朋也さんは、受け入れてあげてくださいね」
 朋也「………」
 朋也「嫌だ…」
 早苗「え…?」
 朋也「嫌だって言ったんです」
 朋也「俺はあいつと卒業したい。それ以外は嫌なんです」
 秋生「わがまま言うな、馬鹿」
 秋生「てめぇなんかより、本人のほうがよっぽど辛ぇんだ」
 早苗「朋也さんの気持ちはよくわかります」
 早苗「朋也さんは、この半年、ずっと渚のそばに居てくれた人です」
 早苗「とても、深い絆が生まれたんだと思います」
 早苗「だから、一緒に卒業できないこと、その辛さはよくわかります」
 秋生「てめぇ、だから、本人のほうが辛ぇって言ってんだろ、馬鹿」
 早苗「いえ、秋生さん。同じくらい辛いんだと思いますよ」

 秋生「ちっ、なら一緒に埋蔵金探しちまえ、馬鹿」

探さない探さない。卒業だから。

 早苗「秋生さん、まだ渚は卒業できないと決まったわけではないですよ」
 秋生「ああ、そうだな。わりぃ」
 早苗「朋也さん。まだいいです。でも、ゆっくりでいいですから、考えていってください」
 早苗「そんな日が来るかもしれない、ということを」
 朋也「………」
わかっている。目の前のふたりは、渚にとって最高の両親だ。
そのふたりが、間違ったことを考えるはずがない。
俺ひとりが子供なんだ。
だったら、今は素直に返事をするしかなかった。
 朋也「…はい」


11月になると、突然肌寒くなった。
俺は風邪をこじらせ、それを移すまいと、しばらく渚に会わないようにした。
12月もあっという間に過ぎ去ろうとしていた。
けど、クリスマスだけは…と、忙しく過ぎる時間の中で、俺は足を止めていた。
恋人同士には、特別な日だ。
そして、俺には、その恋人…渚の誕生日でもあった。
とてもとても大切な日だ。
こんな日だけは、どうかゆっくりと、時間が流れてほしい。
渚の部屋で、ささやかなパーティーをした。
俺、渚、早苗さん、オッサンといういつもの面々で。

早苗さんが作ってくれた直径5メートルのケーキは、十九本の全長10メートルのろうそくともみの木が立ち並ぶ、クリスマスケーキとバースデイケーキを兼ねたものだった。

でかっ!!そしてろうそく高っ!!

その火を渚が吹いて消した。

って、どうやって消したんだよっ!?まさかはしご車!?

渚は一口だけ食べて、残りを三人で食べた。
俺は、おもちゃ屋を何件も回って見つけだした、だんご大家族の大きなぬいぐるみを渚にプレゼントした。
喜んだ後、渚は返すものがないと言って、落ち込んだ。

でも、早苗さんがドナドナを歌いだすと、渚も笑顔で歌い出した。

いつしかみんなで、ドナドナを合唱していた。

どなどなど〜な〜、ど〜な〜。にばしゃがゆ〜れ〜る〜・・・

いや、暗い。暗いよこの歌!!



1月、2月も療養に費やした。
体を動かさなければ、平熱を保てる状態にまで落ち着いた。
ふたりで、窓から初雪も見た。
風邪を引かないようにと、その体を後ろから抱きながら。
小さくて弱い存在。
それでも、頑張り続ける存在。
ずっと、守っていきたいと思った。

3月。
まだ冷たい風が吹く日。
卒業式が行われた。
 朋也「なぁ、春原」
 春原「あん?」
 朋也「今から、窓ガラスをふたりで割って回らないか」
 春原「なんだよ、それ」
 朋也「いや、そうすれば、留年するかなって、さ」
 春原「留年じゃなくて、退学な」
 朋也「そっか…だったら意味ねぇな」
 春原「……?」
その日、俺は卒業した。
大切なものを、残したままで。


 渚「卒業おめでとうございます」
表で、渚が待っていた。
初めてデートした時のお気に入りの服を着て。
 朋也「馬鹿、こんな風が冷たい日に出るんじゃねぇよ」
 渚「本当は、校門まで行きたかったです」
 朋也「体力つけてからにしてくれ」
 渚「見たかったんです、どうしても」
 渚「朋也くんの…最後の学生服姿」
 朋也「………」
 朋也「そっか…」
 朋也「そうだよな…」
 朋也「なぁ、渚…」
 渚「はい」
 朋也「俺、卒業しちまった」
 朋也「二度と、あの学校には戻れなくなったんだ」
 朋也「二度と、叶えられなくなったんだ」
 朋也「手をつないでさ…校内を歩くこと」
 朋也「他にもさ、いっぱいやりたいことあったんだ」
 朋也「春だけじゃなくて、夏も、秋も、冬もさ…」
 朋也「どんな時もさ、おまえとふたりで過ごしたかったんだ」
 朋也「おまえとの思い出、たくさん作りたかったんだ」
 朋也「学校なんて、大嫌いだったけどさ…」
 朋也「おまえとなら、いつまでだって過ごしていたいと思ったんだ」
 朋也「そんなこと思うなんてさ…思わなかった」
 朋也「ずっと腐ったような学生生活を続けてきて…」
 朋也「それでも、おまえと過ごした一ヶ月だけはさ…」
 朋也「…楽しかったんだ」
なぜだか、視界が揺らいで…仕方がなかった。
俺は顔を伏せた。
 朋也「幸せだったんだ…」
 朋也「ずっと過ごしていたい…」
 朋也「おまえと、あの大嫌いな学校でずっと過ごしていたい…」
堪えきれず、涙が頬を伝い始めた。
 朋也「な、渚…」
 朋也「俺は…そうしたかったんだ…」
 朋也「そう…」
涙声になって…聞き取れないような声で…俺は喋り続けた。
 朋也「なのに…」
 朋也「俺はもう…」
もう…
 朋也「………」
…言葉が出なかった。
代わりに涙が、とめどなくあふれ出た。
ぽたぽたと地面に落ち続けていた。
子供のように、俺は泣き続けた。
 渚「朋也くん」
 朋也「………」
 渚「朋也くん」
 朋也「なんだよ…」
 渚「手をつないでもいいですか」
 朋也「なんでだよ…」
 渚「歩きたいです」
 渚「朋也くんと、手をつないで歩きたいです」
 朋也「やめとけよ…また熱…ぶり返すぞ…」
 渚「大丈夫です。ちょっとだけです」
 渚「いいですか」
 朋也「………」
 朋也「…好きにしろよ」
 渚「はい。好きにします」
俺の手より冷たい手。
それが俺の手をぐっと握った。
 渚「歩きましょう、朋也くん」
俺の泣き濡れた顔を笑いもせずに…穏やかな顔で、そう渚は言った。
俺たちは歩いた。
春の光の中を。
ゆっくりと、ゆっくりと。
ずっと手をつないで。
渚の小さな手が、愛おしくて…仕方がなかった。
渚が、好きで好きで、仕方がなかった。
俺は…
立ち止まってしまった。
 朋也「俺もやっぱり…留年するべきだったんだ…」
 渚「違います、朋也くん」
 渚「そんなことで足を止めたらダメです」
 渚「がんばれるなら、がんばるべきなんです」
 渚「進めるなら、前に進むべきなんです」
 渚「朋也くんは、進んでください」
 朋也「………」
 朋也「…渚は、強くなったな」
 渚「はい」
 渚「だから、わたしは…」
 渚「もう一年がんばります」
 朋也「そうか…」
 朋也「そう決めたのか、渚は」
 渚「はい。決めました」
俺のいない学校で渚は大丈夫だろうか。
さらなるハンデを背負って。
また、あの坂の下で、立ち止まってしまわないだろうか。
俺がその背を押してやらなくて大丈夫だろうか。
登っていけるだろうか。
歩いていけるだろうか。
………。
でも、ずっと頑張り続けて…
そして、最後にはやり遂げたこいつだったから…
きっと、登っていける…
その先へ、歩いていける。
 朋也「渚」
俺はその細い肩を抱きしめた。
 朋也「俺、ずっと待ってるから…」
そして、
 朋也「頑張れ…」
励ました。
 渚「はい、がんばります」
今度は立ち止まることなく…歩きたかった。
どこまでも、どこまでも。
ずっと続く、坂道でも…
ふたりで。


 渚「で、埋蔵金はいつ掘りに行きますか

結局行くのっ!?

裏CLANNAD 渚編 END
5月11日へ
ひとこと:
終わったーーーーーッ!!
とりあえず最低限の目標の渚編は終了しましたぁぁぁっ!!

・・・・・・ふぅ。
ということで、裏CLANNADは本日限りで終了です。ご愛読、ありがとうございましたっ(ぇ

・・・って言ったら、きっと智代ファンとか杏ファンとかことみファンとか風子ファンとか春原ファンとかに殺されそうな気がしますネ!!
ということで、一応他のキャラのものも書く予定です。
ただ、裏AIRすら書き上げられなかった俺に出来るのかは不安ですけど_| ̄|○
とりあえず、次は智代編あたりを考えておりますです。
いえ、別に誰からはじめてもいいんですけど、俺順位により智代です(ぉ
恐らく、連載開始は2005年からになると思いますので、それまではゆっくり紅白やゆく年くる年や箱根駅伝でも見ててください。ではっ。
あ、いつものごとく感想・指摘・批判・意見などなんでも受け付けております。なんでもいいのでお返事くださいませ。ではっ。
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