裏CLANNAD 智代編 5月11日
創立者祭の朝。
俺はひとりで起きて、支度をして、家を出た。
朋也「春原、起きろー」
春原「………」
春原「ねみぃ…」
朋也「お前、今日の主役じゃないか。張り切ってボコられてこいよ!!」
春原「余計行く気が失せるわッ!!」
目の前に異様な足が立ち止まっていた。俺は言葉を止めてしまう。
…茶色でふにゃふにゃなズボン。その下には同じ色をしたぬいぐるみのような丸い靴。
朋也「…あん?」
顔を上げる。そこに立っていたのは…
ド○ラだった。
ドア○「………」
って、なんで○アラがここに!?
春原「なに、この着ぐるみ」
朋也「売り子か?」
春原「悪いけど、僕たち、金ねぇから」
春原「同情するなら金をくれ」
春原の言葉に、急に○アラが気持ち悪い踊りを踊った。高速で。
春原「マジかよ、つれねぇなぁ…」
春原「じゃあさ、特別に割引してくれよ。腹減ったしな」
(気持ち悪い踊りを踊り続けている)
春原「ケチな○アラだなぁ」
春原「じゃあ、女の子紹介して」
(気持ち悪い踊りを踊り続けている)
春原「じゃあ、用ナシだ。あっち行ってよ」
(気持ち悪い踊りを踊り続けている)
春原「え? 用があるって?」
(気持ち悪い踊りを踊り続けている)
春原「なんだよ」
(気持ち悪い踊りを踊り続けている)
春原「回りくどいな。それ取ったらいいだろ」
(気持ち悪い踊りを踊り続けている)
っていうか、何故会話が成立しているのか気になる。
春原「なんだ、取れないのか?」
春原「取れないわけないだろう」
春原「じゃあ、僕が取ってやるよっ」
春原がド○ラの大きな頭に手をかける。
春原の体が宙を舞っていた。
…智代だった。
朋也「おまえ、そんな格好して何やってんの」
(気持ち悪い踊りを踊り続けている)
それはもういいから。
クマ「…可愛いだろう」
くぐもった声が聞こえた。
(あ、クマに戻った)
朋也「ああ、可愛いな」
朋也「うん、よくわかったから、もういいだろ?」
クマ「………」
朋也「…取らないのか?」
朋也「十分、おまえのお茶目さを俺は満喫したぞ」
クマ「…付けていたい」
朋也「どうして」
クマ「…気に入ったんだ」
朋也「マジ?」
クマ「いいだろ、可愛いんだから…」
朋也「でも、それ暑いんじゃねぇ?」
クマ「いや…大丈夫だ」
春原「あのさ…彼氏に素顔も見せないなんて、ヘンじゃない?」
春原「でっかい吹き出物でもできて、恥ずかしいとか?」
クマ「…そんなことはない」
春原「じゃ、見せろよ」
クマ「…嫌だ」
春原「隙アリッ!」
その頭を奪取しようと飛びかかる春原。
智代はその瞬間、いつの間にか持っていた釘付きホームランバットで春原をぶっ叩いた。
カキィィィイーーーーン!!
春原が校区外まで飛んでいった。
智代「………しまった!!今日のイベントで使う春原を飛ばしてしまった!!」
その割に殺る気満々でしたよね智代さん。
結局、春原は校区外の川に犬神家よろしく逆さまで頭から突っ込んでいるところを保護されていた。
ようやく混雑する校舎を抜け出た。
クマ「………」
くいくいと智代が俺の服の裾を引っ張っていた。
朋也「どうした」
ぴっ、と真横の模擬店を指さした。
アイスを売っていた。
朋也「アイス、食べるのか?」
こくん、と頷いた。
朋也「ふたりで食べるか?」
こくん。
クマ「………」
朋也「俺が買うの?」
こくん。
朋也「おまえな…俺がクマと自分のためにアイスを買うなんて、かなり嫌な状況だぞ…」
クマ「………」
朋也「ああ、わかったよ。そんな楽しそうな目で見つめるな」
朋也「おい、アイスふたつくれ」
店番に向かって言う。
店員「メッコ○ル、ドク○ーペッパー、ペプシア○スキューカンバーとあるけど、どれにします?」
どれも不味くて有名な飲み物ばっかりじゃねえか!!
ってうかそれがアイスになるところが想像出来ない。
智代「○ッコールをもらおうか」
勇者現る。
俺は視線を賑わう人混みに移した。
その先に、小さな子供がひとりでいた。
行き過ぎる生徒の足にぶつかり、何度も転けそうになっていた。
朋也「おい」
智代「ああ」
智代も同じ場所を見ていた。
智代「行ってくる」
朋也「さすが、生徒会長だな」
智代「うん…まったく仕方がない子供だなっ」
こいつは、子供が好きなんだろう。
まるで俺がつけ足した口実に救われたとばかりに胸を張ってみせていた。
朋也「俺も行くよ」
智代「いや、アイスが溶ける。ここで待っていてくれ」
朋也「そうか?」
智代「うん。すぐ戻ってくる」
俺はその言葉を信じて、待つことにする。
智代が長い髪を翻して、颯爽と駆けていった。
しゃがみ込んで、子供と話をしていた。
通り過ぎる生徒に足蹴にされないよう、両腕で庇いながら。
子供に笑顔が戻った。
あんな年端もいかぬ子供にも、智代がそばに居てくれる心強さはわかるようだった。
少なくとも、校内のどんな場所よりも、安全な場所だと保証できる。
子供が智代に抱きついた。智代はそのまま子供の尻を抱いて、持ち上げた。
人波を掻き分けて、歩きだした。
きっと親を探すのだろう。
けど、その歩みは数歩で終わることになる。
智代が立ち尽くす。
視線の先…数人の男子生徒が同じように人混みを掻き分け、智代に近づいてくる。
それで、俺はなんとなく想像がついた。
足元に転がるクマの着ぐるみ。
それをここまで着てきたわけ。
智代は、子供の元へ駆けつけるときも、これを着ていくべきだったのだ。
だったら、捕まらなかったかもしれない。
…智代を探す生徒会の連中に。
それからのやり取りは、声は聞こえなかったけど、想像がついた。
この子供だけは、自分の力で親元まで連れていくと、智代は言い放ったのだろう。
なら、それだけは、と生徒会の連中も見届けることにする。
最後に智代はこっちを振り返った。
汗で髪が額に張りついたままの顔で、笑ってみせた。
朋也「………」
どうしてあんなふうに笑えるのだろうか…。
俺にはよくわからなかった。
あんなにも、自分の近くにいる人間に迷惑をかけて。
俺なんかのために、他人の期待を裏切って。
手の中では…
アイスが溶け続けていた。
裏CLANNAD 智代編 5月11日 終
------------------------------<ここからおまけだよ>------------------------------
生徒「会長、それが終わったら春原をホームランバットで飛ばしてどこまで飛ぶか選手権の時間です」
智代「お、もうそんな時間か」
それで探してたのかよ!!
智代「ククク、腕が鳴るぞ………」
なにその悪役っぽい台詞。
朋也「だいいち、お前校区外まで飛ばすから参加できないんじゃなかったのか」
智代「うん。でもいい案を思いついたんだ」
絶対ロクな案じゃない。
そして。
ぱぱぱぱぱぱぱーん、ぱぱぱぱー、ぱぱぱぱぱぱぱーん(ファンファーレ)
智代「フハハハハハハ!!ようこそ『春原をホームランバットで飛ばしてどこまで飛ぶか選手権』へ!!」
お前誰だよ。
智代「まずは会長である私がデモンストレーションをやってみせるとしよう」
智代が言うと、生徒会役員が素早く準備を始める。
智代の手には先ほどと同じ釘バット。
そして視線に先には、体中を縛られて身動きの出来ない春原が。
春原「岡崎………俺もう残機が6しかないんだけど」
春原、GA☆N☆BA☆RE☆
智代「春原………往生せいやあああああッ!!」
………往生ならいくらでもしてると思うんだがなあ。
それはともかく気合一閃、バットをたたき込む。
どぐぁんっ!!
妙な爆発音を残して、春原は飛んでいった。
渚「あれは釘バットの先端に火薬を仕込んでいますね。打撃の衝撃で爆発し、その瞬発力で春原さんの飛距離を伸ばすとは………」
………渚、お前いつ俺の隣にいたんだ。
朋也「でも智代、今の勢いだと確実に校区外まで飛んでったけど、どうやって春原を回収するんだ?」
俺の問いに智代はニヤリと笑う。
智代「ククク………まあ見てろ」
いや怖いよ。
そうしてしばらく待っていると、やがて春原が飛んでいった方向から、何かが飛んできた。
………春原だった。
そのまま春原は頭から地面に突き刺さる。
残機は4になっていた。
智代はいつの間にか持っていたトランシーバーに話しかけた。
智代「もしもし。計画通り戻ってきたぞ………寸分違わずな。さすが藤林さんだ。どうぞ」
杏「はいどうも。こっちも春原をボコれて楽しかったわよ。どーぞ」
ちょっと待て。
朋也「ちょ、智代………どういうこと?」
智代「ああ。藤林さんにあらかじめ校区外に出張って貰って、ちょうど藤林さんがいる地点へ飛ばしたんだ。ナイスアイディアだろ?」
どっちも人間離れしすぎ。
大会は結局、智代のデモンストレーションが一番の飛距離で終わった。
そして春原の残機はあと2になっていた。
朋也「このまま春原の残機を0にしたい人はいつも通りWEB拍手で!!」
春原(残機2)「やめろおおおおおお!!」
裏CLANNAD 智代編 5月11日 おまけ 終
智代編 5月10日へ 智代編 5月13日へ
ひとこと:
なんか久しぶりに本編やったら、朋也と春原の絡みが面白いでやんの。
大声出して笑っちゃったよ俺。裏もこれぐらい笑わせられたらいいな。
でも智代編ってあと2日ほどで終わりなんだね。
最後が滅茶苦茶長くてどうしようかと思ってるけど、とりあえずいい形で終わらせたいね。
ていうか、今回おまけが長すぎて自分で書いていて噴いた。
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