裏CLANNADことみ編 4月19日

商店街に来た時には、雨が降り出していた。
灰色の雲で覆われた空。
湿り気を帯びた空気に、街路樹やショーウィンドウの列も薄暗く沈んでいる。
 朋也(傘、持ってくればよかったな)
家を出る時には気づいていたが、戻るのも馬鹿馬鹿しくてそのまま来てしまった。
濡れないうちに、適当な店にでも入ろうと思った時だった。
 朋也「…あれ?」
見たような人物が、向かい側の歩道を歩いていた。
図書室の主、一ノ瀬ことみだった。
学校の外で彼女の姿を見たのは、これが初めてかもしれない。
彼女は俺に気づくことなく、ひとりで書店に入っていった。
後を追うことにした。
自動ドアが開き、耳ざわりのいい音楽に包まれる。
本屋に来たのは久しぶりだった。
どうせ暇だというのもある。
だが、彼女について少しばかり、気になることもあった。
…いくらなんでも、そりゃないとは思うけどな。
そこそこ混み合っている店内を、きょろきょろと探しながら歩く。
見つけた。
難しそうな本ばかりが並ぶ棚の前にいた。
早速立ち読みしている。
相変わらず、読むのが異常に速い。
と、ページをめくる手が止まった。
何事か考える。

火炎放射器を取り出す。

………ある意味予想通りだった。
ここで本編なら強引にでも止めるんだが、止めたら何されるか分からんしなあ………。
というか前回、「裏ことみと和む朋也最強」とか言われてるから少し自重しないと………。
………。
………。

 ことみ「早く止めろよ負け犬

ですよねー。

 ことみ「朋也くん、こんにちは」
ごくごく普通の挨拶。
状況が把握できていないらしい。
 朋也「こんにちは、じゃないだろうが」
 ことみ「???」
店内の壁時計を見る。
首を傾げる。
そして、自信なさげに言った。
 ことみ「…こんばんは?」
 朋也「まだ早い。っていうか、そういう問題じゃなくてだな…」
 朋也「それは何だ、それは」
彼女の火炎放射器を指さし、びしっと問いつめる。
 ことみ「?」
視線を落とし、自分の右手に握られているものを見る。
 ことみ「火炎放射器」
 ことみ「汚物を消毒したり、焚書するための道具
焚書する気満々だったのかよ………

 ことみ「私以外の人間が知識を持つ必要は無いからな

危険思想過ぎる。

 朋也「おまえってさ、他人と話す時いつもそんなしゃべり方なのか?」
 ことみ「他人とは、あんまり話さないから」
やっぱり、身も蓋もなかった。

 ことみ「愚民と関わり合いを持つ必要など無いからな………ククク

帰ってこい、そこの中二病患者。

改めて周囲を見回す。
この辺りは、科学や物理の専門書のコーナーらしい。
雑誌や漫画のコーナーに比べて、明らかに人気がない。
この書店は俺も使うが、こんな棚があったこと自体初めて知った。
 朋也「おまえってさ、いつもこんな本しか読まないのか?」
 ことみ「ううん」
 ことみ「今日買いに来たのは、新しい六法全書
 ことみ「今のは切れ味が悪くなってるから、もっと切れ味鋭い物を選ぶの
殺傷力を選ぶ基準にするな。
結局。
成り行きで、しばらく彼女に付き合うことになった。
見たい場所は決まっているらしく、てきぱきと棚を巡る。
その後ろを、俺がついていく。
 ことみ「今日は、好きなだけ本を買っていい日なの」
 ことみ「好きなだけって言っても、お金があるだけなんだけど」
 朋也「そりゃそうだろうな…」
本当に好きなだけなら、本屋ごと買い占めるに違いない。
 ことみ「一ヶ月に一度なの」
 ことみ「とってもとっても、しあわせな日なの」
 朋也「そうか。そりゃよかったな」
 ことみ「うん…」
結局彼女は、この書店で十冊ほど本を選び出した。

………全部六法全書だった。

 ことみ「これであの春原の残機を0にしてやるの

逃げろ春原。

 ことみ「ちなみにお勧めはこの仕込み六法全書

裏ことみにしか需要ねぇじゃねーか!!そんなの置くな!!

レジで会計を済ませた時には、小一時間経っていた。
自動ドアが開いたとたん、雨が路面を叩く音がした。
本降りになっていた。
薄暗い空から次々と落ちてくる、透明な雫。
通行人は皆、傘をさしている。
 朋也「傘、持ってるか?」
 ことみ「?」
なぜかハテナが返ってくる。
見ると、買ったばかりの本をぎゅうぎゅうと鞄に入れていた。
 ことみ「ご本が濡れてしまったら、とっても悲しいの」
自分より本が大切なようだった。

 ことみ「折角の仕込み六法全書の刃が錆びてしまうじゃねえか、なの

お前その強引な語尾わざとやってるだろ。

 朋也「おまえを、おまえの家まで、俺が送ってやるって言ってんだよ」
彼女と自分を交互に指さしつつ、一言一句丁寧に説明する。
 朋也「もちろん、宅配便も郵便も使わないし、バラバラに切断したりもしないぞ」
 朋也「俺が付き添って歩いてやるという意味だ」
 朋也「しかも俺は傘を持ってないから、必然的に相合い傘だ」
ものすごく恥ずかしいことを言ってる気もするが、もう破れかぶれだった。
 朋也「おまえの家は、俺が歩いて送ってやれるぐらい近いのか?」
 ことみ「あっ…」
やっと理解してくれたらしい。
火がついたみたいに、ほっぺたを赤く染める。
女の子っぽい反応と超現実的会話とのギャップに、めまいすら覚える。
 ことみ「えっとね、私…」
明るく切り出された言葉が、不自然に途切れた。
 ことみ「…私、これから図書館に行くから」
遠回しな、断りの言葉。
 朋也「そうか…」
 朋也「って、これから図書館!?」
 朋也「そんなに本買っても、まだ足りないのか?」
こくりと頷く。

 ことみ「これから試し斬りするの………今宵の全殺丸(ぜんごろしまる)は血に飢えている………

駄目だこの裏ことみ………六法全書にイタい名前付けるとか、中二病の末期症状に来てやがる。

 ことみ「よしお前から殺す☆

なんとなく肩をすくめてから、俺もマッハで逃げ出した

裏CLANNAD ことみ編 4月19日 終
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ひとこと:
中二病的なネーミングセンスの無さに全俺が泣いた。
ていうかダメだ、「全殺丸」はないわ、自分で言ってて紅茶噴くもん。
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