裏CLANNAD 4月15日

また、いた。
 朋也「おまえ、またかよ…」
 朋也「どうして、ひとりじゃ上れないんだ?」
 女の子「えっと…」
 女の子「それは…」
 女の子「その、なんといいますか…」
 朋也「いや、別に無理して話さなくていいけどさ…」
 朋也「俺ら他人だし」
 女の子「あ、はい…」
 朋也「でもさ、学校は真面目に出たほうがいいぞ」
 女の子「遅刻してます」
ぴっ、と俺を指さした。
 朋也「俺はいいんだよ…」
 朋也「俺は…」
目を逸らす。
そもそも何を俺はこんなに真面目ぶって、他人を諭してるのだろう。
そう、こいつの言う通りだ。
同じ不良学生だ。
 朋也「好きにしてくれ」
見捨てて、ひとり坂を登り始める。
ただ…
そんな不良に見えなかったから、話しかけてしまっただけだ。
それだけだ。
 女の子「あっ、待ってください」
声…
さっきの女の。
 女の子「あの…ついていっていいですか」
振り返ると、すぐ後ろにちょこんと立っていた。
 朋也「どうして」
 女の子「それは…」
 女の子「後ろを取られるのが不安だからです
 女の子「そしてあなたの後ろからザックリ殺るからです
 朋也「殺るなっ!!
こんな見ず知らずの男を殺るこいつ。
標的のひとりやふたり、居るだろうに、なんでまた俺なんかを…。
俺は逆光に目を細めながら、坂を見上げる。
どうせ、すぐそこまでだ。
 朋也「好きにしてくれ」
言って、再び歩き出す。
 女の子「待ってください」
 朋也「今度はなんだよ」
彼女は俺を見つめながら…
 女の子「あんパンっ…」
そう言った。
 朋也「………」
俺はなんて答えればいいのだろうか。
 朋也「フランスパン」
 女の子「なんのことだか、よくわからないです」
 朋也「それはこっちのセリフだ」
 朋也「なんだ、あんパンが好きなだけか」
 女の子「いえ、取り立てては」
 女の子「といっても嫌いなわけではないです」
 女の子「どっちかというと好きです」
 女の子「というか、標的を処理した場合の報酬です

少なッ!!

回りくどい奴だった。別になんでもいい。
って、何でもいいのか、俺はッ!?
あんパン1個で抹殺されそうになる俺の価値って…………


学食で昼食をとり終えると、早々にその場を立ち去る。
 朋也(ふぅ…騒がしかった…)
 女生徒「見て、あの子」
 女生徒「ほら、あそこ」
窓際にいた女生徒が窓の外を指さして、隣の連れに話しかけていた。
 女生徒「ひとりで、ライフル磨いてる。なんか、一生懸命で可愛い」
 女生徒「どこのクラスの子だろ。あんまり見ない子だね」
それだけで想像がついた。
同じように窓から中庭を見下ろすと、石段の縁に座り、ひとりスナイパーライフルを磨いている少女の姿。
…………素で銃刀法違反。
あいつだった。
っていうか、ひとりでスナイパーライフルを磨いているのは可愛いのか・・・?


 朋也「よぅ」
俺は近づいていって、声をかけた。
 朋也「どうして、こんなところでひとりでいるんだ」
きゅっきゅっ。
 朋也「ん?」
なるほど…確かにライフルを磨いている。
きゅっきゅっ。
 朋也「なぁ、聞いてるか?」
ちゃきっ!!
………銃口が、俺に向けられていた。
 女の子「ごめんなさいです…今、整備中ですので」
磨くのを止めて、それだけを答えた。
つか、怖ェよ!!


 女の子「病気でずっと休んでいたんです」
 朋也「あんたが?」
 女の子「はい」
 朋也「どれぐらい?」
 女の子「長い間です」
 朋也「ふぅん…それで?」
 女の子「もうこの学校は、わたしが楽しく過ごせる場所じゃなくなってたんです」
 朋也「それでもよくわからないな…」
 朋也「友達とかいたんだろ?」
 女の子「友達と呼んでいいのかわからないですけど、話が出来る人は少しだけいました」
 朋也「別に仲は深くなくていいよ。いたんならな」
 朋也「つまりこういうことだ」
 朋也「長い間休みすぎたから、友達とも話しづらいと。自分がいない間に、結束が固まっているようで」
 朋也「そうだろ?」
 女の子「………」
 朋也「でもあんたの友達ってさ、そんな薄情な奴らなのか?」
 朋也「普通、どれだけ時間が経ってもさ、快く迎えてくれるもんだけどな」
 女の子「迎えてくれないです」
 朋也「そら薄情な奴らだな」
 女の子「…いえ。悪いのは、長いこと休んでいたわたしのほうなんです」
 女の子「だって、彼女たちと過ごした時間はほんの少しで…」
 女の子「今はもう、この学校にはいないんですから」
 朋也「…え?」
 朋也「どうしてさ」
 女の子「みんな海外に高飛びしました」
 女の子「今年の春に」
………………高飛び?
ひょっとしてみんなそういう仕事してんの?
 朋也「あ、部活は。部活は入ってなかったのか」
思い出したように訊く。
 女の子「入ってないです」
 朋也「そっか…」
 女の子「でも、入りたいクラブはあります」
 朋也「よし。それは、なんだ?」
 女の子「西部警察部です」
 朋也「西部警察部ね…………」

どう考えてもない。

 女の子「ありました。一年前には

あったのかよ!!

 朋也「でも西部警察だったらライフルじゃなくてショットガンだよな」
 女の子「大丈夫です。ショットガンにも変形します

するのかよっ!!

 朋也(結局、来ちまった…)
廊下の一番先に、あいつは立っていた。
 朋也「はぁ…なにやってんだよ…」
俺はしばらく遠くから見ていた。
 朋也「………」
それはまるで、朝の再現のようだった。
またもそこで足踏み状態なのだろう。
目の前にある部室。
その中では、西部警察部の連中が賑やかに練習しているかもしれないのだ。
それは、彼女が今朝に味わったであろう、自分のクラスに対する違和感と同じだ。
今更中に入っていけない、気まずさ。
彼女は何を期待して、そのドアを開けることができるだろう。
新入部員だと言っても、三年生だと知れば、部員たちの反応は当惑に変わるだろう。
ひとりでも知り合いがいれば良かったのだろうけど…。
 女の子「………」
同じネガティブなイメージが彼女の脳裏にもよぎっているのだろう。
彼女の口が小さく動いたような気がする。声は聞こえなかった。
 朋也(ハンバーグ…?)
いきなり夕飯の算段だろうか。
なんか、口の動きは合っていた気がする。
でも、それでようやく決意が固まったようだ。
ドアの取っ手に手をやり、そして引く。
がらり。
 女の子「あのっ…」
声が出た。
でも、そこから言葉は続かなかった。
目はまっすぐ部室の中を見据えたまま。そこにどんな辛辣な光景が待っていたのか。
 朋也(くそっ…)
俺は走って、彼女の元に駆けつける。
そして、後ろから教室の中を見た。
………。
乱雑に積まれたブリーフ。
部室であるはずの、教室はブリーフ置き場になっていた。
誰かと交わした他愛もない無駄話の中で、一度だけ話題にのぼったことがあった。
…西部警察部はゴルゴ部になったらしい、と。

だから、どんな部なのかと。

 女の子「別にゴルゴでいいです

いいのっ!?

裏CLANNAD 4月15日 終
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ひとこと:
えへへへへー渚ちん壊しちゃいましたー。
もうね、頭の中に「ライフル」と「ゴルゴ」と「西部警察」って単語が出てきた時点で決定的ですよ。
ちなみにブリーフについてはゴルゴ13第1話『ビッグ・セイフ作戦』を参照してください。
しかし数行いじくるだけで1時間半ぐらいかかるってのは、遅筆にも程がありますなぁ・・・。
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