裏CLANNAD 4月16日 前半

学食は、今日も相変わらず混雑していた。
 春原「くわーっ、今日もむちゃくちゃ混んでやがんね…」
 朋也(ん…)
学食の入り口に、余所余所しく立つ女生徒が視界に入る。
 朋也(あいつは…)
じっと、喧噪が引くのを待っていた。
 朋也(そりゃあ…あんパンしかなくなる…)
俺は寄っていった。
 朋也「おい、春原」
 春原「あん? パンにするの?」
 朋也「いや、おまえは中でゆっくり食ってこい」
 春原「え?」
券売機で180円の闇鍋の券を買い、それを突きつける。
………意外と安いな、闇鍋。
 春原「えっ、おごり? ラッキー」
 朋也「俺は用ができたから、ほら、先行者部のところで仲良く食ってこい」
 春原「先行者部とは食わないっ」
 春原「つーか、おまえの用って何?」
 朋也「生理通か陣痛だよ。それぐらい察せよ」

って、男にそんなものあるかぁっ!!

 春原「そりゃ、大変だな。お大事に」
テキストどおり喋ったために春原のアホアホ臭に磨きがかかってしまった。
 春原「じゃあね」
 朋也「ああ」
春原がカウンターに出来た列に並ぶ。
 朋也(代金は後で請求してやろう…)
その姿が奥に消えるのを確認してから、俺は女生徒の元に寄っていく。
目の前に立とうとも、彼女は俺に気づかない。
顔見知りに会うことなんて、まったく思ってもみない、というふうに。
 朋也「よぅ」
 古河「えっ…わっ」

ズギュゥゥン!!

驚いて、ライフルをぶっ放していた。
 『あぁっ!!た、大佐ぁぁぁっ!!』
 『し、心臓を一撃で……………』
 『この距離からの狙撃するとは………なんてスナイパーだ』
 古河「あ…岡崎さんっ」
 古河「岡崎さんも、いらしたんですねっ」
お前冷静すぎ。
っていうか、実は狙って撃ったろ?
 朋也「ああ」
俺も冷静すぎ。

 朋也「悪い…たこ焼きパンになってしまった…」
 古河「いえ、ぜんぜん構わないです」
 古河「とても、おいしそうです」
 朋也「そうか?」
 朋也「ま、おまえがそう言ってくれるなら、いいけど…」
 古河「はい。初めて食べますから、とても楽しみです」
 朋也「じゃ、はい。150円」
 古河「はい。少し待ってください」
 古河「150円、ちょうどです」
可愛らしい財布を取り出して、俺の手に小銭を載せた。
 古河「ありがとうございました」
 朋也(あ…)
そこで気づく。
 朋也(自分のぶん、忘れた…)
脱力し、うなだれる。
 朋也(何やってんだ…俺…)
 朋也「………」
 古河「どうしましたか?」
それを受け取っても、立ちつくしている俺を見て、そう訊いた。
 朋也「自分のぶん、まだ買ってねぇ」
 古河「えっ…」
 古河「だったら、これは岡崎さんが食べてください」
 朋也「いや、いいって。人混みが引くの待つから」
 古河「それだと、あんパンしか残らないです」
 古河「代わりにわたしが買ってきます」
 朋也「えぇ?」
 古河「どんなのがいいですか?」
 朋也「ええと…惣菜系のパン」
 古河「コロッケパンとか、焼きそばパンですねっ」
 朋也「ああ」
 古河「それでは、いってきますっ」
俺をその場に残し、古河は列の最後尾についた。
………。
全然、前に突っ込んでいく気配がない。
 古河「すみません…謎ジャムパンになってしまいました…」
俺は思わず苦笑してしまう。

って、待て。

あんパンはどこですか?っていうか、ゲーム違うよね?


 朋也「いや、謎ジャムパンでいいよ」

いいの俺っ!?あっさり死を覚悟しちゃうの!?

 古河「わたしの、たこ焼きパンと…」
 朋也「いいって。俺、それ前に凝って食いまくったから」
 古河「謎ジャムパンは、あまり食べないですか?」
 朋也「ああ、ぜんぜん食わないね」
っていうか、食ったこと無いし。
 朋也「謎ジャムパンかぁ…むちゃくちゃ久しぶりだなぁ」
 古河「なら、久しぶりに食べてみてください」
 古河「おいしいです
ぶっちゃけありえない。


 朋也「なぁ、これからどうする」
 古河「はい? なんのことですか?」
 朋也「いや、演劇部…あんなになっちまっててさ…」
 古河「物置でしたね」
 朋也「廃部なんだ。噂に聞いたことがある。後になって、思い出したんだ」
こんなこと隠していたって仕方がない。そうはっきりと告げた。
 古河「廃部…ということは、もう、この学校には演劇部がないんでしょうか」
 朋也「ああ。ない」
こいつの、この学校での最後の希望も…。
 古河「仕方ないです…」
 古河「誰も悪くないですから」
 朋也「だな…誰も悪くない。運が悪かっただけだ」
 古河「そうですね」
案外、冷静に受け止めたようだった。
 古河「カツサンドっ」
 朋也「………」
 朋也「…買えなくて悪かったな」
 古河「あ、いえ…今のは、その…」
 古河「わがまま言っているわけじゃなく…」
 古河「その、いつか食べられたらいいな、ということでしてっ」
…思い出した。
こいつはそうして、自分を前に押しやっていることに。
ということは、今伝えた現実が、よほど堪えているということになる。
友達もいなくて、憧れていた部活動も廃部ときたら、当然かもしれなかった。
 古河「あ、誰か見てます、こっち」
彼女が校舎の窓を見上げていた。
 朋也「そうだな」
 古河「わたしたち、邪魔じゃないでしょうか」
 朋也「まさか。俺たちはずっと、ここにいたんだぜ?」
 古河「そう…ですよね」
 朋也「手でも、振ってみろよ」
 古河「えっ?」
 朋也「手、振るんだよ。にこやかに」
 朋也「そうしたら、一緒に話したりする、きっかけになるかもしれないじゃないか」
 古河「わたし、ひとりですか?」
 朋也「俺がやってどうするんだよ。向こうは、女だぜ?」
 古河「やってもいいと思いますけど…」
 朋也「そんなのまるでナンパだろ。ひとりでやるんだ。ほら」
手を持ち上げてやる。
 古河「えっと…にこやかにでしたっけ」
 朋也「そう。笑顔でな」
 古河「えっと…えへへ」
笑いながらライフルで狙いを定める。
すっ、と窓の人影が消えた。

賢明な判断だと思う。


 古河「もし、できるなら…」
古河から口を開いていた。
 古河「演劇部をまた、作りたいです」
俺は嬉しく思った。
出会った時の彼女が、そこまで前向きな発言ができただろうか。
 朋也「できるさ。簡単なことだ」
 古河「本当ですか?」
 朋也「ああ。あんたにやる気さえあれば」
 古河「でも、大変なことだと思います」
 古河「だから、できれば…」
 古河「岡崎さん、どんぐり密売部長補佐代理になってください」
なんですかそれ。
っていうか、既に部長ではない。
裏CLANNAD 4月16日(前半) 終
4月15日へ 4月16日(後半)へ
ひとこと:
4月16日って意外と長いのね。
ってことで4月16日は前半・後半と分かれます。
なんつーか、昔のネタばっかりな感じがしますが、リハビリなのでオーケーと思いっきり妥協してみます。
出来れば毎日更新したいですけど、相変わらずの遅筆ですのでどうなることやら・・・。
弱気になっても仕方ないので、頑張りますですよ。
裏CLANNAD-TOPへ SS一覧へ トップへ