裏CLANNAD 4月16日 後半

演劇部の部室前。
 朋也(ああ、また来ちまったよ…)
俺はそんなにも責任を感じているのだろうか。
学生の義務さえ、放棄してしまっているのに。
小さな足音が聞こえてきて、俺は振り返る。
古河が姿勢を低くして、俺に狙いを定めていた。
 古河「岡崎さんっ」
嬉しそうに、そう俺の名を呼んで、発射。

ぱんっ!!ぱんぱんぱんぱんっ!!
 朋也「おわぁっ!!」
紙一重で避ける。
 古河「びっくりしました…」
 古河「誰か居るって狙ったら、岡崎さんでした」
狙うな。
 朋也「ああ、俺で悪かったな」
 古河「違います、違う人を期待してたわけじゃないです」
 古河「岡崎さんでよかったです」
俺狙われてる?
 古河「知ってる人が待ってくれてるなんて、思わなかったですから…」
 古河「すごくうれしくて…乱射してしまいましたっ」
命に関わるので止めてください。頼むから。


ふたりで、もう下校生徒もまばらな坂を下る。
少しだけ帰りたくなかった。
いや…
かなり、か。
 朋也「腹減ったな」
 古河「はい、空きました」
 朋也「飯、食いたいな」
 古河「食べたいです」
 朋也「どっかで、食ってくか」
そう誘ってみた。
 古河「外食ですか?」
 朋也「そう。不良っぽいだろ」
 古河「でも、わたしは家に帰って地雷作るお手伝いしないとダメなんです」
・・・夕食は?
 朋也「そんなのいいだろ」
 古河「お母さんだけに任せておけないですから」
そう言って笑う。全然苦に思っていないようだ。
その様子からも、彼女の家庭が暖かなものであることが窺えた。

窺えるの?

 古河「岡崎さんは、家で地雷、作らないんですか?」
何処の家でも作りません。


 朋也「ここか」
公園のすぐ正面。一軒のパン屋があった。
『古河パン』と看板にある。
 朋也(すっげー地味な店…)
ガラス戸は半分閉じられていたが、中からは煌々とした明かりが漏れている。
まだ営業中のようだった。
にしても、入りづらい佇まいである。常連客以外が、訪れることがあるのだろうか?
俺がパンを求める客であったなら、遠くても別のパン屋を探すだろう。
でも今は、古河に招待されて来たのだから、ここに入るしかない。
戸の敷居を跨いで、中に踏み入る。
 朋也「………」
誰もいなかった。
 朋也「ちーっす」
声をかける。
 朋也「………」
それでも、返事はなかった。
 朋也(結局、留守なのかよ…)
 朋也(だとしたら、取られ放題だぞ…)
俺は棚に並べられたパンに目を向ける。
 朋也(かなり残ってるな。どうするんだろ、これ…)
こんなに遅い時間だというのに、トレイには大量のパンが並べられていた。
見た目はうまそうだ。
 朋也「よし、味見してやるか」
その中のひとつを手に取る。
だが、口に運ぶ途中で、違和感に気づき、手を止める。
 朋也(何か入ってるぞ、これ…)
 声「こんばんはっ」
いきなり背後で声。
驚いて振り返ると、ひとりの女性がすぐ近くに立っていた。
エプロンをしているところを見ると、きっと店員なのだろう。
古河の母親なのだろうか。にしては、若く見えた。
 古河・母「それ、今週の新商品なんです。食べてみてください」
 朋也「代金は?」
 古河・母「結構ですよ。余り物ですから」
 朋也「そりゃ、ラッキー」
 古河・母「それ、コンセプトは『ニヤリ』です」
なごませてください。
 朋也「………」
よくわからなかったが、食べてみることにする。

ぼんっ!!

………地雷入りだった。

 古河・母「…………(ニヤリ)
「ニヤリ」ってするのは俺じゃないのね………。


 古河「こんなに遅くなっちゃいましたけど…良かったですか」
 朋也「………」
 古河「岡崎さん?」
 朋也「…なんか不思議だった」
 古河「え? なにがです?」
 朋也「こんな家族もいるんだなって。すんげぇ仲いいよな」
 古河「そうですか?」
本人は至って普通だと思っているようだった。
しばらくその中に居た俺は、居心地の悪さと同時に、何かもどかしい恥ずかしさを覚えていた。
あの感覚はなんだったのだろうか。
いきなり場違いな場所に放り込まれて…子供扱いをされて…
俺は一体何を感じていたのだろうか。
古河の家族と過ごしていた今さっきまでの時間。
それが別の世界の出来事のように思われるような、あまりに違いすぎる空気。
気分が重くなる。
ただ、静かに眠りたい。
 朋也(それだけなのにな…)
居間。
その片隅で親父は背を丸めて、座り込んでいた。
同時に激しい憤りに苛まされる。
 朋也「なぁ、親父。寝るなら、横になったほうがいい」
やり場のない怒りを抑えて、そう静かに言った。
 親父「………」
返事はない。
眠っているのか、それともただ聞く耳を持たないだけか…。
その違いは俺にもよくわからなくなっていた。
 朋也「なぁ、父さん」
呼び方を変えてみた。
 親父「………」
ゆっくりと頭を上げて、薄く目を開けた。
そして、俺のほうを見る。
その視界に俺の顔はどう映っているのだろうか…。
ちゃんと息子としての顔で…
 親父「これは…これは…」
 親父「また朋也くんに迷惑をかけてしまったかな…」
目の前の景色が、一瞬真っ赤になった。
 朋也「………」
そして俺はいつものように、その場を後にする。
背中からは、すがるような声が自分の名を呼び続けていた。
…くん付けで。
こんなところに来て、俺はどうしようというのだろう…
どうしたくて、ここまで歩いてきたのだろう…
懐かしい感じがした。
ずっと昔、知った優しさ。
そんなもの…俺は知らないはずなのに。
それでも、懐かしいと感じていた。
今さっきまで、すぐそばでそれを見ていた。
子供扱いされて…俺は子供に戻って…
それをもどかしいばかりに、感じていたんだ。
………。
「もし、よろしければ…」
すぐ後ろで声がした。
俺は振り返る。
そこには…ひとりの少女がいた。
気高くも、無垢な。
 古河「あなたを…」
言葉を紡ぐ。
 古河「あなたを、お連れしましょうか」
ゆっくりと目を閉じ…
俺に銃口を向けていた。
………どこに連れて行くつもりですか、渚さん。

裏CLANNAD 4月16日(後半) 終
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ひとこと:
ごめんなさいごめんなさい。なんかもうネタ思いつかないし。
なんか、簡単に諦める悪い癖が出てきてしまいました。
もっと何時間でも何十時間でも考えないといけないのに、すぐにやめちゃうのが一番ダメなんでしょうね…。
なんか愚痴ばっかり言ってますね俺。元気出してがんばりまふ…
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