裏CLANNAD 4月18日
………。
朝日が差すように目に痛い。
ああ…なんでこんな早くに起きてしまったんだろう。
まだ、十分始業時間に間に合う。
朋也(別に遅刻したくて、してるわけじゃないしな…)
起きて、着替える。
いびきをかく親父の体を跨いで、居間を抜けた。
風景が違う…。
同校の生徒がわんさと歩いている。
朋也(ま、これが普通なんだけどさ…)
生徒「デコイデコイデコイ」
生徒「デコイーヤ、イシュルト」
挨拶が繰り返される中、じっと立ち尽くしていたが…
………今の挨拶!?
ひとりも俺に声をかける奴はいなかった。
っていうか、『デコイデコイデコイ』とか挨拶されても困る。
ただ、皆、笑顔で俺を追い越していくだけだった。
きっと誰にも俺の姿は見えていないのだ。
だから、このままズボンを脱いで、「工藤200勝!!」と叫びながらヨチヨチ歩きで帰っても呼び止める奴もいない。
そんな奴いてたまるか。
朋也(このまま、ふけちまおう…)
声「どこにいくんですかっ?」
ぱーんっ。
狙撃された。
見える奴がいたらしい。
するとそれは、仲間だ。同じ、透明の世界に住む、住人。
古河「岡崎さん、学校はこっちです」
朋也「そうだな、間違えた」
つか、血出てるんですけど・・・。
昼。いつもの場所でパンを食べていた。
古河「二週間後…ひとりでも、来てくれるでしょうか」
二週間後…
演劇部の説明会の日だった。
つーか、最初の設定では西部警察部だったんだけどな。
朋也(いや、しかし…ビラがガチャ○ンだからなぁ…)←4月17日参照のこと
即答できず、言葉に詰まる。
古河「岡崎さん…?」
朋也「ま、大丈夫だろ…」
朋也「おまえが校舎に放ったガチ○ピン達が今、各掲示板で頑張ってくれてる。信じてやれ」
古河「ですよね。百人もいるんですからっ」
あんなガチャピソが百人(匹?)もいると思うと、今すぐビラを剥がしたい衝動に駆られた。
古河「そういえば、岡崎さん…」
朋也「なに」
古河「説明会って、何をすればいいものなんでしょうか」
朋也「………」
古河「岡崎さん?」
…忘れていた。
こいつがそういうことを、器用にこなせるタイプの人間じゃないことを。
朋也「古河っ」
古河「はい」
朋也「今から練習だ」
朋也「好きに喋ってみろ」
俺は地べたに座って、黒板の前に立つ古河にそう指示する。
古河は、部長としての自覚がある程度はでてきたようで、率先してその場所に立っていた。
少し前なら、俺にその代わりを頼み込んでいたことだろう。
前向きに頑張ろうとしている。
その姿勢は伝わってきた。
朋也(頑張れよ、古河)
心で応援する。
古河「用件を聞こうか…………」
俺依頼人ッ!?
つか、聞くのこっちでしょっ!?
そのまま予鈴が鳴る。
古河「あ…」
古河「岡崎さん、依頼してくれませんでした………」
朋也「するかぁっ!!……なぁ、古河」
古河「はい」
朋也「そんなおまえに、どうして演劇ができるんだ…」
こんな矛盾した存在が部長だと知れたら、説明会に訪れた連中はそそくさと退散を決め込むだろう。
まだ見ぬ入部希望者…彼らの前には、ふたつの壁が立ちはだかっているのだ。
ひとつめは、何故か毛むくじゃらの○チャピン。
ふたつめは、口下手な部長改めデューク東郷。
俺も逃げ出していい?
朋也「なぁ、古河」
古河「はい」
朋也「どうして演劇をやりたいんだ」
古河「好きだからです」
朋也「どんなところがだ」
古河「楽しいと思いました。みんなで演技するのって」
古河「わたし、小さい頃から学芸会とか、そういうの、ことごとく欠席しちゃって…」
古河「だから、絶対演劇部に入ろうって…そう思ってたんです」
古河「三年間、演劇がんばろうって…」
古河「でも、一、二年生の頃は、それどころじゃなくて…」
古河「三年生はずっと休んじゃって…」
朋也「わかった。もういい」
つまり…
こいつの演劇への情熱というのは、要は集団生活への憧れなのだ。
みんなが力を合わせて、ひとつのことを達成する。
そうして、今まで叶わなかった夢を実現したい。
それだけなのだ。
古河「ただ、好きなだけです」
ふぅ、と小さく息をついて、古河は胸を手で抑えた。
一気に喋りすぎたのだろう。疲れたようだった。
こんなにも脆弱で、儚くて…
それでも健気に頑張ろうとしている姿。
それを見た人間が、彼女の前を素通りできるだろうか。
俺なら…
できない。
朋也「…合格だ」
だから、そう告げていた。
古河「はい?」
朋也「今の演説をすればいいだけだ」
朋也「短かったけどさ…なんていうか、一番おまえの言いたいことが言えてた気がする」
古河「それは…なぐさめですか?」
朋也「違う。本心だよ」
朋也「俺は、思ったことをずばり言うほうだ」
古河「ですよね…。たまに、ぐさりと来ます」
朋也「ああ。だから、信じろ。自分の言葉を」
朋也「ただ、問題は…」
古河「はい?」
朋也「同じことが、本番でも言えるかどうか、だ」
古河「そう、ですね」
朋也「おまえさ、プレッシャーに弱くない?」
古河「はい、弱いです」
ここで俺の頭に浮かんだ疑問は、堂々巡りになる。
朋也「どうしてそんなおまえに、演劇ができる?」
それからも、古河は説明会の練習に励んだ。
古河「…ひとつのことをみんなでがんばる…」
古河「それは素晴らしいことだと思います」
古河「一緒に、がんばってみませんかっ」
そう締めくくった。
言葉は稚拙だったけど、懸命な語り口は好感が持てた。
朋也「質問っ」
俺は新入生を装って、挙手する。
古河「はい、どうぞ」
朋也「どんな演劇をやるんですか?」
演劇といっても、いろいろある(どんなのがあるかは知らないが)。
入部希望者が一番知りたいところではないだろうか。
古河「どんな演劇、ですか…」
少し考える。
朋也「童話のような子供向けの劇だとか、ミュージカルっぽい大人向けのものだとか、いろいろあるんだろう?」
古河「あるんですかっ」
朋也「帰る」
古河「ああ、待ってくださいっ」
朋也「じゃ、なんでもいいから、答えろ」
古河「はいっ…ええとですねっ…」
古河「内緒です」
朋也「いや、内緒とかやっても意味無いし」
古河「………公安とか来ますけど、話していいですか?」
待てっ!!公安って何!?
古河「他にもFBIとKGBとMI-6が来ます」
KGBはもう無いって!!
朋也「中学の頃は、バスケ部だったんだ」
朋也「レギュラーだったんだけど、三年最後の試合の直前に親父と大喧嘩してさ…」
朋也「怪我して、試合には出れなくなってさ…」
朋也「それっきり、やめちまった」
………。
どうして、こんな身の上話なんてしてるんだろう。
どれだけ、自分が不幸な奴かを古河に教えたかったのだろうか。
また、慰めてほしかったのだろうか。
古河「なら、手助けしたいです」
それは予想しえた言葉だった。
古河「また…学校生活に希望を持てるように」
古河「このわたしのように」
照れたようにして顔を伏せた。
…俺のおかげで、だと言いたいのだろうか。
今だけは、自分の行為が自虐的に思えた。
その古傷には触れてほしくなかったはずなのに。
顔の温度が上がっていくのがわかる。
朋也「そうか」
朋也「そうなるといいな…」
だから空を見上げた。
屋根の向こうに見える銀色に輝く空。
そうして、風が熱を冷ましてくれるのを待った。
…3年前。
俺はバスケ部のキャプテンとして、順風満帆の学生生活を送っていた。
スポーツ推薦により、希望通りの高校に進み、そしてバスケを続けるはずだった。
しかし、その道は唐突に閉ざされた。
親父との喧嘩が原因だった。
発端は、身だしなみがどうとか、靴の並べ方がどうとか…そんなくだらないこと。
取っ組み合うような、喧嘩になって…
壁に右肩をぶつけて…
どれだけ痛みが激しくなっても、意地を張って、そのままにして部屋に閉じこもって…
そして医者に行った時にはもう手遅れで…
UFOキャッチャーのクレーンのような手に改造されていた。
って、嘘ぉっ!?
ぎーがっしょんぎーがっしょん。
なってるぅぅぅぅ!?
裏CLANNAD 4月18日 終
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ひとこと:
こんなのしか書けなくてすいません。
折角アクセス数伸びているのに、お客様がいっぱい来てくれているのにあんまり更新できなくて申し訳ないです。
今週か来週中あたりにQMA(クイズマジックアカデミー)のSSを書こうと画策中です。
壊れたものだけじゃなくて、まともにラブラブなのも書いてみたいですねぇ。
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