裏CLANNAD 4月19日 

曇り空。
気分が滅入る。
 朋也(いや、天候のせいじゃないか…)
小走りで誰かが近づいてくる足音。
 古河「岡崎さんっ」
 古河「おはようございます」
そう言って、古河は自然に隣に並んでいた。
 朋也「ああ、おはよ…」
それだけを答えた後、無言になる。
 古河「岡崎さん、ひとつ提案です」
坂の下まで来たとき、古河が口を開いていた。
 朋也「なんだよ」
 古河「今日の放課後は、バスコをしましょう」
 朋也「…………バスコ?
バスコって何?
 ことみ「13世紀のフランスで始まった球技で、十分に熱した鉄球を持って、『キュンキュン!!』と叫びながらどれだけ長く持っていられるか競うスポーツなの」

ことみさん、まだ出番じゃないです。

っていうか、そもそもそんな競技ないし。

 朋也「誰が、んなもんするってんだよ」
 古河「岡崎さんと、わたしのふたりです」
 朋也「はぁ?」
 古河「放課後、グランドで待ってます」
 古河「わたし、鉄球持って、待ってます」

やるのっ!?


 朋也「やりたかったら、ひとりでやってくれ」
 古河「いえ、ふたりがいいです」
 朋也「俺は今日、先に帰るからな」
最後にそう告げて、俺は自分の教室に向かった。
曇り空を窓から見上げる。
古河は、グランドのどこかで鉄球を胸に抱えて『キュンキュン!!』と叫びながら待っているのだろうか。
………怖ェ。


ふたり、床に寝転がって、延々と雑誌を読み続ける。
雨足が強まってきた。音でわかる。
 春原「こりゃ、外の部活は全部休みだね…」
 春原「ラグビー部、戻ってくるかも…」
 春原「頼むから、大人しくしててくれよ」
 朋也「………」
 朋也(まさか…こんな雨の中で、待ってないよな…)
 朋也(こんな雨の中にいたら、大変だもんな…)
 朋也(………)
 朋也「行ってくる」
俺は立ち上がる。
 春原「え? 裸で雨の中走ってくんの?」
 朋也「ああ、そんなところだ」
裸じゃないけどな。
寮の傘を借りて、雨の中をひた走る。

 朋也「はぁ…はぁ…」
 朋也「古河…」
古河はボールを胸に抱いてじっと、待っていた。
 古河「キュンキュン!!キュンキュン!!

まだやってる!?

 朋也「馬鹿か、おまえはっ」
駆け寄る。
 古河「あ、岡崎さん…」
 古河「良かったです…来てくれました」
 朋也「おまえ、どれだけ待ってたんだよ…ずぶ濡れじゃないか…」
 古河「借り物だったのに…ちゃんと拭いて返さないとダメですね」
胸に抱いた鉄球に目を落とす。
 朋也「鉄球は風邪引かねぇだろ。自分の体のほうを心配しろ」
 朋也「ほら、この傘、貸してやるから、とっとと帰れ」
傘を差し出す。
大粒の雨が、頭に降ってきた。
 古河「いえ、バスコしましょう」
絶対しません。  朋也「こんな濡れたコートでどうやってするんだよ…」
濡れてなけりゃやるの!?俺。


小さな傘が、道の端をふらふらと彷徨っていた。
同じように道の端まで寄っていくと、それが小学生ぐらいの子供であることがわかる。
探し物だろうか。
その脇を通り過ぎて、俺は学校を目指した。
………。
閑散としきっていた。
部室や中庭と、探してまわったが…古河の姿はなかった。
とぼとぼと俺は歩いていく。
もう探すあてがなかったから、後は早苗さん頼みだった。
また同じ場所に小さな傘があった。
足を止めて、それをしばらく眺めている。

不意に耳元で『ぴこっ?』と動物の鳴き声がした。

って、ゲーム違うよね!?

驚いて横を見ると、塀の上に子犬がいた。
降りられないのか、ずぶぬれになって震えていた。
俺は手を伸ばし、それを抱き上げた。
首輪がついている。なるほど、と理解する。
子供のそばまで寄っていくと、その子犬を差し出した。
 朋也「おまえが探してるの、これか」
子供が顔を上げる。すぐその表情が笑みで崩れた。
 子供「よかった! どこにいたの?」
 朋也「あそこ」
おざなりに指さして、俺は退散を決め込む。
 子供「あ、待って」
子供が俺を呼び止めた。礼だろうか。聞くのも面倒だ。無視を決め込もう。
 子供「お姉ちゃん、しらない?」
しかし、その言葉で俺は振り返っていた。
 朋也「誰のことだ」
 子供「お姉ちゃん。こいつ探すの、てつだってくれてるの」
 朋也「それは、おまえの姉貴か?」
 子供「ううん、しらないひと。でも、いっしょに探してくれるって」
 朋也「制服着てたか」
 子供「うーん…たぶん」
 朋也「どっちに行った?」
 子供「うーん…わからない」
 子供「でも、見つけたらね、ここに戻ってくるって」
 朋也「そっか…」
 子供「どうしよう…」
子供は子犬の濡れた頭を撫でながら、不安げな声をあげた。
 朋也「おまえ、帰れ」
 子供「え?」
 朋也「もう遅いし、親も心配してるだろ」
 朋也「これ以上濡れてると風邪引くぞ。その犬もな」
 子供「うーん…でも…」
 朋也「礼は俺から言っておいてやる。だから、帰れ」
 子供「本当に?」
 朋也「ああ」
 子供「ありがとうって。ぜったいに、いってよね」
 朋也「ああ、任せろ」
 子供「じゃあね」
 朋也「ああ、足元に気をつけろよ」
子供はぱたぱたと走っていった。
無邪気なものだった。
 朋也「さて、と…」
いつ諦めて、戻ってくるだろうか。
後は待つしかなかった。
………。
……。
…。
どれだけ時間が経っただろうか。
濡れた手が、かじかんで痛みだす頃。
ぱたぱたと雨の中を傘もささず、走ってくる人影。
 古河「やっと見つかりました。元気です」
 古河「わっ…冷たい」
胸に生き物を抱えて古河は戻ってきた。
 古河「この子で合ってますかっ」
その手には…
 朋也「それ…」
 朋也「間違ってるからさ…」
 古河「え…?」
 古河「あ、岡崎さんっ」
待っていたのが子供でなく、俺だと、ようやく気づいたようだ。
 古河「ここに小さな子供、いなかったですか」
 朋也「居たよ。もう遅かったから先に帰らせた」
 古河「じゃ、これ届けないと。心配してます」
 朋也「犬は見つかったよ。安心して帰った」
 古河「え? じゃあ、この子はなんなんですか?」
 朋也「そりゃ、こっちが聞きたいね」
 古河「でも、この子、ガードレールの下で震えてたんです」
 朋也「いや、だからそれ犬じゃないから…」
 古河「………」
 古河「そ、そうですか…」
前屈みになる。強くけろぴーを抱きしめた。

って、けろぴー!?

 けろぴー「うぐぅ

しかもうぐぅ語だあぁぁぁぁ!!

 古河「…本当に馬鹿です、わたしって」
どうやったら犬とけろぴー間違えるんだ…つか、またしてもゲーム違………

裏CLANNAD 4月19日 終
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ひとこと:
「キュンキュン!!」っていうのは古代カムチャツカ語で「上等だ!!そこに居直れ!!」という意味なんです(マテ)
それはさておき、バスコを人に試してみたくなりました。俺?熱いから絶対やりません(鬼)
それにしても、何気にKanonとAIRネタ使ってますけど………CLANNADしかやってない人の存在を思いっきり忘れてますね俺_| ̄|○
もっと精進します………
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