裏CLANNAD 4月21日 

朝。
目が覚めてからも、俺はベッドの上でうだうだとしていた。
古河の熱は下がっただろうか。
また、俺を通学路で待っているだろうか。
でも土日で起きた出来事は、ふたりの間に深い溝を作ってしまっていた。
俺がそれを感じているのだから、俺以上に人間関係に敏感なあいつが、同じことを思わないはずがなかった。
あいつはその二日で、他人を傷つけるだけの努力をしてしまった。
そして、自分を馬鹿呼ばわりした。
それに対して俺はなんて言った。
 朋也(ほんと、馬鹿だよ、おまえは…)
無神経な奴ならいざ知らず…。
滅法打たれ弱い奴だからな、あいつは。
結局俺は、あいつを傷つけるクラスメイトの連中と変わらなかった。
それをあいつも悟っただろう。
…午後から授業に出よう。
そう決めて、布団に顔を埋め直した。
昼休みの間に着けるよう、俺は家を出た。

思い返せば…
奇妙な一週間だった。
会って間もない女の子と仲良くなり…
そいつは、年上で、ダブッてて…
だんご大家族がいまだに好きな奴で…
それで…
………。
 朋也(ああ、もう、考えるのはよそう…)
 春原「よぅし、今日は僕がおごってやるよ」
 春原「だから、元気出せよなっ」
 朋也「だから、元気だっての」
 春原「おまえ、今、ぼーっとしてたっての」
 朋也「だから、普段からこうだっての」
 春原「見ろっ」
取り出したのは、一万円札。
 春原「学食のメニューだったら、安いもんだ。好きなの選べよ」
券売機に一万円を挿入する。
 朋也「いいのか?」
 春原「カツ丼でも、スペシャルランチでもどうぞ」
 朋也「わたたたたたたたたたたーっ!」
ボタンを上から下まで、連射しまくる。
 春原「うわっ、やめろーっ! ストーーーップ!」
 朋也「おしんこおしんこおしんこーーっ!」
一番不人気のおしんこを連打する。
…一万円、すべてが、食券に。
 春原「………」
春原の手に、溢れんばかりに積まれている。
 春原「僕のこと、嫌い?」
 朋也「いや、こんなギャグを笑って許してくれるんだから、最高に好きだぞ」
 春原「ははっ、だよねっ」
 春原「って、許すかあぁぁーーーーーっっ!!」
 春原「来月分の食費、全部、おしんこかよ、てめえぇぇーっ!」
 朋也「ちゃんと、普通のメニューも入ってるだろ? よく見てみろよ」
 春原「ネジ、ネジ、ネジ、ネジ、ネジ、ネジ、8インチネジ、ネジ…
 春原「ネジ、ネジ、ネジ、ネジ、ネジ、ネジ、ネジ、5インチボルト、ネジ…
 春原「ネジ、ネジ、ネジ、ネジ、ネジ、8インチネジ、ネジ…
………あれ?
なんでネジに………。
俺が券売機を見ると、そこには「ネジ」「8インチネジ」「14インチネジ」「5インチボルト」「5インチナット」「ドライバー」の文字。

いつの間にか食堂がネジ工場にッ!?

どんどん哀れになってくる。
そんな最高におかしい春原の姿を見て、俺は思う。
ああ…これが俺の日常なんだ、と。
ふと、窓の外を見た。
青と緑のコンストラスト。そのまま視界を下げた。
そこに居た。
 朋也(古河…)
 朋也(来てたのか…)
一生懸命に、パンを食べていた。
初めて見た時のように。
 朋也(………)
先週は、その隣に居たのだ、俺は。
今はもう、見下ろす側に居た。
 春原「おい、岡崎、急げよ。昼休み終わっちまうぞ」
春原の声が聞こえた。
 朋也「あ、ああ」
その時、古河がこっちに気づいた。
俺だとわかっているだろうか。
パンを口から離し、膝の上に置いた。
古河は今にも泣き出しそうな顔で、こっちを見ていた。
土曜の出来事を思い出してるのだろうか…。
顔を伏せた。
 朋也(古河…)
立ち去るべきだった。これ以上、見ていたくなかった。
けど、俺は動けないでいた。
春原の呼ぶ声が何度もした。
でも…
じっとしていた。
………。
古河がもう一度顔を上げる。
そして…
片手をあげ…

 古河「最高ですかッ!?


ふ………古ッ!?

恐ろしいまでの古さだった。ってか、知らない人置いてけぼり!?


………それを、俺へ向けてそれを振った。
頑張って、笑顔を作っていた。
………。
…報いてやりたい。
あいつの精一杯の努力を。
まだ俺を必要としてくれるなら。
 朋也「春原、これ、頼むっ」
春原に鞄を投げ渡すと、廊下を走っていた。
俺も懸命だった。
古河は食事を再開していた。
その隣に俺は腰を下ろした。
 朋也「ふぅ…」
食う物がなかったから、待つしかなかった。
 古河「………」
 古河「良かったです…」
 古河「勇気出して…」
いつの間にか、古河がパンから口を離していた。
 古河「がんばって手、振って、良かったです」
 古河「岡崎さん、降りてきてくれました」
たぶん、フラグ立ってなかったら絶対にこなかったと思うけど。
 朋也「ああ、安心しろ。俺は呼んだら来るって、そう言っただろ」
 古河「でも、あんなことがあった後だから…」
 古河「わたし、岡崎さん、傷つけてしまいましたから…」
 朋也「おまえ、泣きそうだったからな」
 朋也「さっき、泣きそうだったろ?」
 古河「はい、泣きそうでした」
 朋也「なら良かったよ。これで泣かないで済むだろ」
 古河「はい、良かったです。不安だったですけど、すごく安心できました」
ぐす、と鼻をすする音がした。
見ると、古河は泣いていた。
涙がぼろぼろと頬を伝って、顎から落ちて、それが手に持ったパンの食い口に吸い込まれていく。
ずっと、気を張っていたのだろう。
寝込んでいる間も、ずっと思い悩んでいたのだろう。
無粋な自分を俺は呪った。
古河の手から、パンを奪うと、涙が染みた部分を千切った。
そして、それを口に放り込んだ。
 古河「あ」
古河はそれをどう見ていただろうか。
俺はただ、古河の涙を飲み干したくなっただけだ。
それは、俺が流させたものだったろうから。
 朋也「おまえは馬鹿だろうけどさ…でもそれでいいと思う」
 古河「そうでしょうか…」
 朋也「俺もそうだからな」
 朋也「同じ場所に居る」
 朋也「世渡りがうまかったり、巧妙に駆け引きする奴らから遠い場所だ」
口の中のパンを噛みしめる。
 朋也「……………ぐぅっ!?
突如頭に遅い来る、物凄い激痛。そして、薄れ行く意識。
 古河「言い忘れましたけど、私の涙、毒入りです
 朋也「な………なぜ………!?」

 古河「それが暗殺者ですから

古河の涙は、なぜか懐かしい味がした。
それは、俺が小さい頃に流した涙と、同じ味だった。
…って、なんでここだけテキスト通り!?


事件は放課後に起きた。
いや、それまでに起きていたのだろうけど、俺たちは自分たちのことで精一杯で、その時間になるまで気づけなかったのだ。
 古河「岡崎さんっ」
ずっと探していたのだろうか。俺の元へ、古河が慌てた様子で駆け寄ってきた。
 朋也「どうした」
 古河「校内のだんご大家族がっ…ぜんぶっ…」
しどろもどろで、何を言いたいのか、よくわからない。
単語から、推測してみる。
だんご大家族が…
校内を…
占拠。
 朋也「だんご大家族が校内を占拠したっ!?」
それは確かに、慌てふためく事態だ。
 古河「そうなんですっ

そこは否定してください。


ここは、正直に教えてやったほうがいいだろう。
 朋也「あのな、古河」
 古河「はい?」
今の事態の悪さを簡単に話して聞かせた。
 古河「そうだったんですか」
 朋也「ああ。そんなに厳しくないと思ってたんだ。悪い」
 古河「いえ、岡崎さんは何も悪くないです」
 古河「責任は、すべて部長のこのわたしにありますから」
 朋也「その部長にもなれないかもしれないんだぞ」
 古河「………」
固まる。
 古河「いえ、大丈夫です。きっと、ちゃんと説明すれば、わかってくれます」
 朋也「だといいけどな…」
 朋也「生徒会室って言ってたから、生徒会が仕切ってるんだな」
 朋也「話のわかる生徒会だといいな」
 古河「生徒の代表として選ばれた人たちですから、いい人たちに決まってます」
 朋也「だな」
これ以上不安がらせないでおこう。
古河と同じように、楽観的に考えればいいんだ。
 朋也「そういや…まだ購買、開いてるかな」
 古河「どうしてですか?」
 朋也「とにかく、ついてこい」
俺は購買で売れ残ったあんパンを買い占める。
 古河「あんパンですか…?」
 朋也「これ、持っていけ」
古河の手の中に押し込める。
 朋也「これで頑張れっ」
 古河「とてつもなく、不安になってきましたっ」
 朋也「いいから、いけっ」
背中を押すと、あんパンがひとつ床に落ちた。
それを拾おうと前屈みになると、別のあんパンが転がり落ちる。
 古河「あの…こんなに持っていけないんですけど」
 朋也「落ちたのは俺が拾っておいてやるから、いけ」
 古河「じゃ、お願いします」
とてとてと歩いていった。
その間も、いくつか落ちた。
 朋也「………」
…心配しすぎだろうか、俺は。
その場で古河の帰りを待つ。
…………
…………
…………
だーんっ!!だだーーーーんっ!!←銃声

その後10分ほどして、古河は戻ってきた。
 古河「後始末してきました
(プレイヤー的に)グッジョブ、古河。

裏CLANNAD 4月21日 終
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ひとこと:
・・・・・・ついに渚が前科もち?(マテ)
大丈夫、後始末が完璧だから証拠は残りません!!(ぇ)
ってか、どんどん渚がゴルゴ化・・・_| ̄|○
最初は西部警察のハズだったよね・・・どこでどうヘンになったんだろ?
ゴルゴでも別に構わないですけどー(ぉ)
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