裏CLANNAD 4月24日 

四時間目の授業が終わる。
 朋也(いくか…)
 春原「おっ…と、岡崎じゃん」
教室を出ると、そこでちょうど春原と鉢合わせになった。
 春原「今から昼?」
 朋也「ついてくんなよ」
 春原「まぁまぁ、鞄置いてくるから待っててよ」
 春原「僕も、学食のネジにするからさ」
まだ学食はネジ工場なのか…………
春原が教室に入っていく。
俺は待つこともなく、歩き出す。

 春原「つれないねぇ、待っててよっつったのに」
結局、春原は俺たちを追って中庭に現れた。
 古河「こんにちは、春原さん」
古河は笑顔で歓迎していた。
 春原「おふたり、昼飯は?」
 古河「ごめんなさいです。今、いただいたところです」
 朋也「おまえが遅いんだよ」
 春原「学食、すんげぇ混んでたからね」
 春原「じゃ、僕も食べるかなぁ」
持っていた紙袋に手を突っ込んで、ボルトを取り出した。
ネジじゃなかったんかい。
 古河「あ、座ってください」
古河が言って立ち上がる。
 古河「詰めますね」
 朋也「ああ…」
俺の了解を取ってから、間を詰めて座り直した。
 春原「悪いね」
春原がその古河の隣に座る。
 春原「いただきまーすっ」
そのボルトにかぶりついたところで…
 春原「あん?」
校舎のほうに目を向けて、動きを止めていた。
視線の先…
ひとりの女生徒。
新たな来客だった。
俺たちを見つけると、寄ってきて、正面で立ち止まる。
 女生徒「あの、私、仁科さんの友達で、杉坂といいます」
俺と春原の無粋な視線にさらされても、努めて冷静に挨拶をした。
 春原「あ、てめぇ」
誰よりも早く、春原が立ち上がる。
 古河「待ってください、春原さん」
古河が、その腕をへし折る。

す、春原の腕が曲がっちゃいけない方向に曲がってるぅぅぅぅ!?

 古河「ここはわたしに任せてください。お願いします」
おまかせします、渚先生。


杉坂という名は、春原から聞かされていた。脅迫状を書いた犯人の名だ。
古河もわかっているのだろう。
 古河「わたし、三年の古河渚です」
 古河「わざわざこんなところまで…どうしましたか」
 杉坂「仁科さんのことを、話したくて伺いました。聞いてくれますか」
 古河「はい、もちろんです。是非、聞かせてください」
 杉坂「このことは…あんまり人に言ってほしくないんです。それも、約束してくれますか」
 古河「はい、約束します。ここだけの話にします」
杉坂という子は、俺にも目を向けた。
 朋也「ああ、大丈夫。誰にも言わねぇ。こいつも言わねぇよ」
約束した。
 杉坂「ありがとうございます」
 杉坂「はじめに脅迫状を書いたことは謝ります。あれは私が勝手にやったことなんです」
 杉坂「そうしないと、合唱部を作ることができなくなると思って…」
 杉坂「すみませんでした」
 古河「いえ、なんとも思ってないです」
春原の拳が膝の上でぎりぎりと震えていた。
 古河「話を続けてください」
 杉坂「…はい」
 杉坂「仁科さん…その、りえちゃんは、すごく才能のある子なんです」
 杉坂「それはドリフトの才能です」
………あれ?音楽じゃなくて?

 杉坂「小さい頃から、ずっとハチロクで豆腐を運んでいたんです

間違いなく道交法違反ですよね。

 杉坂「ライバル達に次々と勝利して…
 杉坂「ものすごく大きな道路で、ものすごくたくさんの人たちの前でもドリフトしてました」
 杉坂「ものすごく、堂々としていて…ものすごく綺麗で…」
 杉坂「ものすごく格好良かったんです」
 杉坂「たくさんの大人の人たちから、将来を期待されてました」
 杉坂「ドリフトキング略してドリキンになる予定でした」
 杉坂「ドリキンになればお金いっぱいもらえてウッハウハだからです
 杉坂「でも、それが決まる直前に…」
顔を伏せる。涙声になる。
 杉坂「りえちゃん…事故にあって…」
聞きたくない。そこからは…。
 杉坂「…ハチロクがエンジンブローしてしまったんです

車かエンジン替えれば済む話ですよね?

俺と…同じだった。

同じなの俺!?

 杉坂「ハチロク…運転できなくなって…
 杉坂「ドリキンにもなれなくて…
 杉坂「それで、この学校に来ました」
最早意味不明ッス。
 杉坂「私と一緒に…」
 杉坂「りえちゃんは、事故の日以来、すごく元気がなくて……」
 杉坂「私がどれだけ元気づけようとしてもダメで…」
 杉坂「私も、悲しかったです」
 古河「………」
 杉坂「でも、そんなある日、ものすごく素敵な出会いがありました」
 杉坂「古文の…幸村先生です」
 杉坂「幸村先生は、ドリフトの素晴らしさをもう一度、りえちゃんに教えてくれたんです」
 杉坂「ハチロクがなくても、ドリフトはできるんだって
 杉坂「そういって幸村先生はドリフトしてくれました…」
 杉坂「ハチロクじゃなくても、運転しているのが戦車でも…それでもとても、心がこもったドリフトでした…

戦車でドリフトできるかぁぁぁ!!

ってか幸村も何者だぁぁぁ!!


 杉坂「そのドリフトに心を打たれて…」
 杉坂「りえちゃんもドリフトしだしたんです、戦車で
 杉坂「その姿は、昔の命知らずなりえちゃんでした」

 杉坂「そしてりえちゃんは、たくさんの人に、戦車の素晴らしさを伝えたいと思いました」
 杉坂「だから、この学校にない、戦車部を作ることにしたんです」

ドリフトは!?ねぇ、ドリフトは!?

 杉坂「幸村先生と一緒に」
 杉坂「私も一緒です」
目の端に溜まった涙を拭って…笑顔で言った。
そして…
 杉坂「お願いします。りえちゃんの邪魔をしないでください」
頭を下げた。深々と。
 古河「………」
古河は…じっと固まってしまっていた。
 春原「古河、言うことをきくなっ!」
春原が叫んでいた。
 春原「そんなハンデで、人の同情を誘うような奴なんて卑怯者だ!」
 春原「そんなハンデでっ…ひいきされたいなんて考えが甘すぎるんだよっ!」
と、その時。

キュラキュラキュラキュラキュラキュラ……………

こ、この音は………!!

俺は咄嗟に古河を抱きかかえて横っ飛びをする。
直後。

キュラキュラキュラ………めきょっ!!………キュラキュラキュラ………

春原が轢かれていた。
 杉坂「りえちゃんの邪魔をしないでください
その時の杉坂の目は『邪魔したら戦車で轢き殺す』と語っていたという……(民明書房刊:日本の戦車時代の夜明けより)


合唱部の未来を老教師に託し、職員室を後にした。
もう部室によることもなく…俺たちは、鞄を持って中庭にいた。
後は、帰るだけだった。
 朋也「なんか手はないかな…」
 朋也「きっとまだあるはずだ…」

 古河「もういいんです、岡崎さん」
 古河「約束しましたから、杉坂さんと。だから、もう演劇部は作らないです」
 朋也「そんな約束してないだろ。合唱部の邪魔をしない、という約束をしただけだ」
 古河「岡崎さん」
 朋也「なんだよ」
 古河「………」
 古河「とても楽しかったです」
 朋也「なにが」
 古河「一緒にがんばれて、です」
 古河「目的は達成されなかったですけど、もっと大切な色々なものを手に入れました」
 古河「岡崎さんと、とても仲良しになれました」
 古河「春原さんとも仲良くなれました」
 古河「こんなわたしでも、です」
 古河「こんな不器用で泣き虫な…わたしでも、です」
 朋也「そうだな…」
 朋也「でもな、古河」
 朋也「おまえは、ずっと強くなってるよ」
 朋也「あの坂の下で、悩んでた頃よりさ」
 朋也「不器用でも泣き虫でもさ…」
 朋也「ここまで、頑張ってきた」
 朋也「自分のことのように、他人の心配までしてさ…頑張ってきた」
 古河「本当でしょうか」
 朋也「ああ、少なくとも俺はそう感じたよ」
 古河「だったら、うれしいです」
 古河「わたしは…体は弱いですが…」
 古河「くじけないように、強い子になろうと生きてきたんですから…」
唐突に、古河の目の端から涙がこぼれる。
 古河「うれしいです…」
 古河「よかったです…」
そして…
顔を伏せて、両手で目を押さえて、泣き始めた。
俺は古河の頭に手を置く。
 古河「また…ですか?」
 朋也「………」
体が自然に動いて、俺は古河の体を後ろから抱きしめていた。
 古河「そんなことしないでほしいです…」
 古河「そうされると…安心して泣いてしまいます」
 朋也「もう、泣いてるじゃないか」
 古河「そうですけど、もっと泣いてしまいます…」
 朋也「いいんだよ。悲しいことがあったんだから、泣けばいい」
 古河「………」
古河はしばらく泣き続けた。
俺はずっとこうしたかった。そんな気がしていた。
こいつのことが愛おしくなると、無意識に頭に手を載せていた。
けど、本当はこうしてもっと近くで、慰めてやりたかった。
俺を支えてくれた小さな存在を…
支えてやりたかった。
安心させてやりたかった。
 朋也「なぁ、古河」
 古河「はい…」
 朋也「明日、朝起きたらさ…」
 朋也「俺たちが恋人同士になっていたら面白いと思わないか」
 朋也「俺がおまえの彼氏で、おまえが俺の彼女だ」
 朋也「きっと楽しい学校生活になる」
 朋也「そう思わないか」
 古河「思わないです」
 古河「きっと、なにをやっても失敗するわたしに、腹が立ちます、岡崎さん」
 朋也「そんなことない」
 古河「どうしてですか」
 朋也「…俺は古河が好きだから」
俺はそう告白していた。
 朋也「だから、絶対にそんなことない」
 古河「本当でしょうか…自信ないです…」
 朋也「きっと楽しい。いや、俺が楽しくする」
 古河「そんな…」
 古河「岡崎さんだけ…がんばらないでください」
 古河「わたしにも…がんばらせてください」
 朋也「そっか…」
 古河「はい…」
 朋也「じゃあ、古河…頷いてくれ、俺の問いかけに」
 古河「………」
 朋也「古河、俺の彼女になってくれ」
 古河「………」
少しの間。
振り返ることもなく、頷くこともなく…
ただ、小さな声が聞こえてきた。
よろしくお願いします…と。

裏CLANNAD 4月24日 終
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ひとこと:
はい戦死者一人〜(ぉ)
春原君は何回殺しても生き返る不思議なキャラなので殺り甲斐(ぇ)がありますねー。
っていうか、今回はキャタピラが頭に浮かんだと思ったら素早く出来上がりました。
いつもこんなふうだと助かるんですがねぇ。
でも夢に出てきそうだな・・・戦車を乗り回す幸村。
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