裏CLANNAD 5月02日
早朝。
いつものように、親父は居間で転がっていた。
朋也「なぁ、親父」
小さく上下する肩に触れる。
電話でも手紙でもよかったのだが、渚がそれを許さなかった。
──絶対に会って、少しの間、帰らないことを伝えてください。
それは、そうすることだけで、解決してしまうかもしれない、というあいつの浅はかな考えによるところだ。
そんなことでは何も変わらない。
俺はそれがよくわかっていた。
親父「ん…」
寝言か何かわからなかったが、親父が小さくうめいた。
朋也「俺、家を出るから…」
それを一方的に目覚めたと判断して、俺は話を始めた。
朋也「しばらくは帰ってこないつもりだから…」
朋也「ひとりで元気にやってくれよ…」
それだけを伝えて、俺は親父のそばから離れる。
そして、荷物をとりに、自分の部屋へと向かった。
持てるだけの着替えと、学習用具。
それだけをスポーツバッグに詰め込むと、すぐに部屋を出る。
居間を通って玄関へ…
ぎっ、と背後で床がきしむ音がした。
振り返らざるをえない俺。
朋也「おはよう」
平静を装う。
親父「朋也くん…どこかへいくのかい」
朋也「友達の家に…」
親父「その割には大きな鞄を持っていくんだね」
朋也「ああ。そこにしばらく泊めてもらうことにした」
朋也「いつ帰ってくるかは、決めてない」
親父「そう…寂しくなるね」
親父「朋也くんは…いいヤン坊だったからね」
今更蒸し返すなよっ!!
(詳しくは、裏CLANNAD4月14日を参照のこと)
まだ7時を回ったところだというのに、すでに古河パンは、朝の喧噪の中にある。
朋也「あのっ」
大きな箱を抱えて行き過ぎようとしたオッサンを呼び止めた。
秋生「ん? なんだ、てめぇは、こんな朝早くに」
朋也(え…)
朋也(渚の奴…もしかして、話を通してくれてないのか…?)
秋生「………」
じっと、睨まれる。
今日から厄介になります、なんて、とても言える状況じゃない…。
秋生「早く用件を言え」
朋也「あの、渚は…?」
秋生「まだ寝てるよ」
朋也(…渚、おまえって奴は…)
秋生「どうしたよ」
朋也「いや…」
秋生「用がないんなら、帰れよ。仕事の邪魔だ」
朋也(ぐあーっ…どうすりゃいいんだ…)
まさに蛇に睨まれた蛙状態。
早苗「おはようございます、岡崎さん」
奥から早苗さんが姿を見せた。
朋也「おはようっす」
早苗「今日からよろしくお願いしますね」
その言葉に俺は、全身の力が抜けるほどに安堵する。
早苗さんは、ちゃんと知っていたのだ。
朋也「こちらこそお世話になります」
秋生「あぁん? お世話ってなんだよ」
早苗「今日からしばらく、合宿されるんですよ、秋生さん」
なんですか合宿って。
秋生「なんだとぅーーっ!?」
早苗「夕べ、渚から聞いたじゃないですかっ。
超一流スナイパーへ育て上げるって」
そんなの希望した覚え、ありません。
朋也「あ、あの、早苗さんっ」
早苗さんだけを呼び止める。
早苗「はい?」
朋也「渚って、何時ぐらいに起きるんですか?」
早苗「もう起きてますよっ」
朋也(オッサン…!)
早苗「さっき、頑張ってライフルを磨いてましたよ。」
初心者にはまず拳銃からじゃないんですか早苗さん。
って、突っ込みどころはそこなのっ!?
渚「では、とりあえず、部屋のほうに案内します」
朋也「ああ、頼むよ」
渚の後に続く。
渚と同じ家で暮らすこと。
それは、こんなにも俺の足を軽くするのか。
自分でも驚きだった。
渚「ここです」
渚に続いて、入室する。
ぷんと謎ジャムの匂いがした。
・・・何の匂いだって?
朋也「いい部屋だな…」
いいのかっ!?
渚「普段は、謎ジャム倉庫です」
俺、実は歓迎されてない?
夕飯の後、渚が見えないと思ったら、外にいた。
昼間は子供で賑わう公園。
今は、閑散としていた。
その中心で、渚は、演劇の練習をしていた。
朋也「おまえ、毎晩、こんなところで練習してんのか?」
渚「いえ、毎日ではないです。でも、毎日のようにがんばりたいです」
朋也「おまえな、ちょっとは気をつけろよ。こんな暗い場所で、ひとりでさ」
渚「大丈夫です。家の前です。呼んだら、すぐお父さん、きてくれます」
朋也「そうかもしれないけど、おまえとろそうだから、うまくつけ込まれないかと心配だぞ、俺は」
渚「えっ」
渚が俺の顔を見る。
渚「わたし…とろそうに見えますか?」
朋也「なにっ」
今度は俺が渚の顔を見返す。
朋也「おまえ…とろそうに見えるっていう自覚がなかったのか?」
渚「そんなの、ないです」
朋也「それは驚くぞ、俺は」
渚「わたしは…落ち込みます」
俯いてしまう渚。
朋也「はぁ…」
朋也「おまえさっ…そう簡単に落ち込まねぇのっ」
渚「えへ、冗談です」
渚「わたし、慣れっこです。朋也くんの意地悪」
朋也「…んなもんに慣れなくてもいいけどさ」
朋也「悪いな、俺、口悪いから」
渚「いえ、朋也くんも、朋也くんのままでいてください」
変わらないでほしい。
変わってしまったからこそ、渚は学校でひとりになってしまったんだから。
それを切に祈っているようだった。
朋也「ああ、わかったよ」
俺たちは、鉄棒にもたれるようにして並んで立つ。
見晴らしがいい。星空が綺麗だった。
朋也「で、演劇の題目とか、決まってんの」
渚「題目、と言いますと?」
朋也「つまり、なんだ…要はどういうお話をやるか、ってことだ」
渚「お話、ですか?」
朋也「ああ」
渚「決めてません」
朋也「なら、とっとと決めろ」
渚「どうやって決めればいいんでしょうか」
朋也「………」
朋也「おまえさ…演劇って、未経験者だっけ」
渚「そうです」
渚「しかも、そういった行事はことごとく欠席してます」
渚「幼稚園の学芸会でさえ、参加してません」
…そのへんを歩いている、まったく演劇に興味のない一般人のほうが、よっぽど向いていると思えるのは気のせいだろうか?
朋也「…気のせいだ…気のせいだ…気のせいだ…気のせいだ」
渚「なにを呟いてるんです?」
朋也「いや、成功祈願のおまじないだ」
渚「早すぎると思います」
朋也「そうだな…」
朋也「とにかく題目を決めなくちゃな。練習のしようもないだろ」
渚「そうですね…」
しばらく考え込む。
渚「ひとつだけ、やりたいお話があります」
朋也「おっ、そうか。それはなんだ」
渚「わたしが小さい時に聞かされたお話です」
オッサンか早苗さんが聞かせていた話なんだろう。
朋也「タイトルは」
渚「題はわからないです」
朋也「どんな話だった」
昔話の類なら、きっと聞けば思い当たるだろう。
渚「世界にたったひとり残されたうぐぅと不発弾のお話です」
・・・・・・うぐぅ?不発弾?
渚「それはとてもとても悲しい…」
渚「冬の日の、裏Kanonなんです」
タイトル分かってんじゃん!!
裏CLANNAD 5月02日 終
5月01日へ 5月03日へ
ひとこと:
どうしよう、裏CLANNADが終わる頃には朋也も立派なゴルゴになっていそうです(笑)
でもヤン坊なのは変わりません(ぇ)これは真理です!!(マテ)
っていうか、その前に謎ジャムによってどうにかされてしまうかも(笑)
これからも頑張って更新しますよ〜。
裏CLANNAD-TOPへ SS一覧へ トップへ