裏CLANNAD 5月06日
 渚「それでは、いってきます」
 朋也「いってきます」
 早苗「はい、仲良くいってらっしゃい」
 秋生「気ぃ付けていけよ」
ふたりに見送られ、家を出る。
なんだか、小学生の兄妹のような見送られ方だった。
いや、兄妹じゃなくて…姉弟なのか…。
違和感バリバリだが。
 渚「ああ、もう一週間もないです。次の日曜には、発表会です」
 朋也「あんまり焦るな。台本もできたじゃないか」
 渚「はい。でも、ちゃんとセリフを覚えなくてはダメです」
 朋也「でも、覚えるだけじゃ駄目だぞ」

 渚「はい、わかってます。覚えたら台本を燃やさなくてはなりません

 朋也「………なんで燃やす必要があるんだ

 渚「機密保持のためですよ

ニヤリ。

………機密保持するほどの内容なの?




昼休みは、部室で演劇部のミーティング。
 朋也「それで…俺たちは何をすればいい」
 朋也「そろそろ役割分担してもらわなくちゃ、準備もできないぞ」
 渚「はい、そうですね」
 渚「でも…後、何が必要なのでしょうか」
 朋也「おまえな…」

 朋也「戦車とか、戦車とか、戦車とか、たっくさんあるだろう?」

 渚「ありませんっ」

ヒュッ!!プスッ!!

 朋也「ぐふっ………………!!
ツッコミ代わりに、渚の特製トリカブト吹き矢が俺の首筋にナイスヒット
あぁ、今日も意識が遠のいていく………


放課後もまた、部室に集まっていた。
そこには、顧問である幸村の姿もあった。
 春原「こんなに種類、あるのかよ…」
目の前には、蓋を開けたダンボールの数々。中には、照明器具が詰まっていた。
 春原「こりゃオンオフだけの単純な問題じゃないぞ…」
 幸村「どれだけ大変かは劇による…」
 幸村「そんな展開の早い劇をやるつもりかな…」
 渚「いえ、ゆっくりと進むお話です。とてもなだらかです」
 朋也「ああ、なんの起伏もない。クライマックスすらない」
 幸村「ふむ…なら、簡単だろうて」
 春原「なんかつまんねぇな…。ピカピカ光らせてさ、ディスコみたくフィーバーしようぜ」
 朋也「おまえ、すげぇダサいからな」
 朋也「で、音響なんだが、ジィさん。どうすりゃいいんだ」
 幸村「効果音は、その鍵盤で鳴らすがよい」
 春原「おっ、シンセサイザーじゃんっ。んなのがあんのかよっ」
それをダンボールの中から引っ張り出してきて、コンセントを繋いで電源を入れてみる。
 春原「鍵盤ごとにテープが貼ってあるじゃん。『戦慄』…ってなんだ?」
 春原「押してみよ」
春原が勝手に鍵盤を叩く。

すると、鍵盤と鍵盤の間から、針が飛び出した

当然、針は春原の手に突き刺さり………

次の瞬間、春原が泡を吹いて倒れていた。

 幸村「ふむ………今日も威力抜群じゃの

そっちの意味の「戦慄」なのっ!?

っていうか、本番は俺がそれ動かすんだけど………俺の命、だいじょぶ?


 声「こんにちは、おふたりさん」
入り口のほうから声が聞こえてきた。
振り返ると、そこに仁科と杉坂が立っていた。
 朋也「よぅ」
 渚「こんにちは、仁科さん、杉坂さん」
 杉坂「今、幸村先生に言われて、駆けつけたんです」
 杉坂「劇に使う曲をお探しとか」
 渚「はい。そうなんです」
 渚「けど…レコードが多すぎて、どうしていいかわからないんです」
 杉坂「それなら、お手伝いできそうです」
 杉坂「りえちゃん、ほとんどのクラシックは知っていますから」
 杉坂「ねぇ、りえちゃん」
 仁科「はい。任せておいて下さい」
 仁科「どんな曲調のをお探しですか?」
 朋也「おまえ、ストーリーを教えたほうが早いんじゃないのか」
 渚「そうですね。お話ししたいです。聞いていただけますか」
 仁科「はい、もちろんです」
 渚「というわけで、女の子は寂しくなくなりました」
 渚「おしまいです」
 仁科「………」
 仁科「えっと…」
渚は、本当にストーリーを聞かせただけだった。
 仁科「その…どんな世界なんでしょう、そこは」
だから、仁科は困った様子でそう訊いた。
 渚「世界、と言いますと、どんな木が生えて、どんな果物がなる、とかそういうことでしょうか?」
 朋也「おまえな、地理の授業じゃねぇんだから、もっとわかりやすく表現する何かがあるだろ?」
 渚「何かって…その世界には女の子しかいないんです」
 朋也「いや、そういう意味じゃなくて、その世界は洋風なのか、和風なのか、とかさ」
 朋也「要は世界観だよ」
 渚「小屋がひとつ、ぽつんとあって、外はずっと何もない大地が続いてます」
 仁科「うーん…」
仁科は考え込む。あまりに特徴に乏しい世界で、曲のイメージが湧かないのだ。
 朋也「小屋はどんなだ。中には何がある」
 渚「小屋の中には、机があります」
 朋也「そりゃ、あるだろうな。どんなだよ」
 渚「普通の机です。そこでお茶を飲むと落ち着きそうです」
その場にいた渚以外全員が、顔をしかめた。
 朋也「他には」
 渚「他には何もないです」
 朋也「おまえ、それでどうして、その話を幻想物語なんて呼べたんだよ。ぜんぜん幻想的じゃないじゃないか」
 渚「でも、幻想的な世界なんです…」
 朋也「だから、どこが」
 渚「雰囲気です」
 朋也「伝わらねぇよ、それじゃ…」
 朋也「ストーリーも、子供向けの童話みたいで、ぜんぜん悲しくないし…」
 渚「とっても悲しいんです」
 朋也「どこが」
 渚「それは…」
 仁科「世界にたったひとり残された女の子のお話だから」
仁科が答えていた。
 渚「はい、そうです」
 仁科「なんとなくわかってきました」
 仁科「その子の気持ちになってみればいいんです」
 仁科「家や学校で、ひとりじゃないんです」
 仁科「世界でひとりきりなんです」
 仁科「それはとても、悲しいことですよね」
 渚「はい、とても悲しいことです」
 杉坂「どんな曲が合いそう?」
 仁科「音楽も、もの悲しくあるべきです」
 仁科「使う曲は一曲だけでいいと思います」
 仁科「とても悲しいピアノ曲を一曲だけ」
 仁科「それをテーマとして、要所で流して、後は無音です」
 朋也「こいつ、俺より音響係然としてるんだけど」
 杉坂「曲はどうするの?」

 仁科「うん…巫女みこナースは、いかがでしょう」

いかがでしょう、じゃねぇ。

今までのセリフと全くかみ合わねぇし。

 仁科「………何か言いました?岡崎さん。轢き殺しますよ?

と、仁科がいつの間にかキャタピラに乗っている。

いえ、何でもありません。



 秋生「おぅ、おかえり。俺様の素晴らしい遺伝子を受け継ぎし娘と、どっかの馬の骨」
 渚「ただいまです」
 朋也「ただいま…」
 秋生「いいものを借りてきてやったぞ。ほら、受け取れ」
オッサンが差し出すのは一本のビデオテープだった。
 渚「なんでしょうか」
 秋生「演劇を録ったビデオだ。参考になるだろ」
 渚「はい。わたし、演劇見たことないですから、助かります」
演劇部、部長の爆弾発言Part2。
 秋生「そうか、そりゃあ、いいタイミングだったなぁ」
2、3年は遅かったと思う。
 渚「ありがとうございます。早速見ます」
 秋生「よしよし」
 秋生「おい、小僧、てめぇには何もない。物欲しそうなツラで立ってんじゃねぇ」
 渚「一緒に見ましょう、朋也くん」
 朋也「いいのか、ひとりで見なくても」
 渚「ふたりで見たほうがきっと楽しいです」
 渚「それに朋也くんにも研究してほしいです。それで、わたしの演技のダメなところ、指摘してほしいです」
 秋生「誉めまくれよ、てめぇ」
 朋也「聞こえてるぞ、本人に」
 渚「そうですっ、お世辞なんて言ってほしくないです。厳しくお願いします」
 朋也「大丈夫だ。俺はお世辞なんて言わねぇよ」
 渚「そうです。朋也くん、ハッキリ言ってくれます。すごく勉強になります」
 秋生「てめぇ、何様だよ。人に意見するほど偉ぇのかよ」
 秋生「まだ満足にチ○コも生えそろってねぇ、ガキのくせによ」
この人のチ○コは何本生えてるのだろう。
 渚「いきましょう、朋也くん」
 秋生「おう、勉強してきやがれ」
ブラウン管に映し出された映像。
それは、まさしく人の心を揺さぶる劇だった。
ドラマや、映画以上に、オーバーアクションで、体当たりな演技。
それが言葉では表しきれない思いを伝えていた。
もし、生で見ていたなら、その圧倒的な思いに打ちのめされていただろう。
俺も、しっかりと演劇を見たことはなかったから、それは衝撃的な体験だった。
そんなふうに夢中になっていたため、一緒に見ていた渚の存在を忘れていた。
隣を見てみる。
 渚「ぐすっ…」
…大泣きしていた。
 朋也「おい、泣いてたら研究にならねぇぞ」
 渚「は、はい」
俺が渡したティッシュで涙を拭く。
 渚「でも、ものすごく感動してしまったんです」
 渚「なんだか、すごく懐かしくて」
 朋也「おまえ、初めて見たんだろ」
 渚「そのはずですけど…」
 渚「………」
 渚「でも、演劇って、こんなにすごいものだったんですね…」
 渚「わたしのなんか、これに比べたら…ままごとみたいなものです」
 朋也「ああ、俺もそう思った」
 渚「そ、そうですよね…」
 朋也「でも、いいんじゃねぇの」
 朋也「ままごとだってさ、真剣にやれば、それは演劇だろ。観客がいるかいないかの違いだけだ」
 渚「あ…」
 渚「そうですね…そうかもしれないです」
 朋也「ああ、だから頑張っていこうぜ」
俺はリモコンの巻き戻しボタンを押した。

どむっ!!

テレビが爆発した。

 渚「あぁっ、それは巻き戻しボタンに見せかけた自爆ボタンですっ」

必要なの!?


裏CLANNAD 5月06日 終
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ひとこと:
更新頻度が遅れて申し訳ありません_| ̄|○
思うが侭に任せて壊してきましたが、はたして本番の演劇ではどうなってしまうのでしょうか(主に朋也が)
まぁ、殺しても死なないのが裏CLANNADだから別に安心ですけど(マテ)
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