裏CLANNAD 智代編 5月3日
呼び鈴が鳴った。
俺は自分の部屋を飛び出して、玄関まで走る。

がらり、とドアを開けるとそこには、手にスーパーの買い物袋とメリケンサックを下げた私服姿(帰り血付き)の智代が立っていた。

って、どんな格好だよ!!

 智代「うん、大漁だった

いや、何が大漁だったんだあああ!!

 朋也(なんか感動…)
 智代「どうした」
 朋也「おまえ、案外そういうの似合うのな」
 智代「案外とは失礼だな」
 朋也「じゃ、狂おしく似合うのな」
 智代「おまえ…欲情しているみたいだぞ…」
 朋也「そりゃ少しはする。こういうのって、憧れのシチュエーションだからな」
 智代「………」
智代が部屋の中を見回した。
 智代「…ひとつ訊いていいか」
 朋也「ああ、どうぞ」
 智代「親父さんは」
 朋也「いねぇよ」
 智代「………」
 朋也「昼間はいないんだよ」
 智代「なんとなく、身の危険を感じるな…」
 朋也「おまえが身の危険を感じる時は、俺も身の危険を感じる時だと思うがな…」
 智代「なんだ…それはどういう意味だ?」
 朋也「いや…一蓮托生って意味」
 智代「そうは聞こえなかったぞ…」
 智代「なんだ? 見ていて楽しいか?」
 朋也「楽しい」
 智代「そうか…なら構わないが…」
 智代「………」
 智代「でもな、黙って見られていると、恥ずかしいんだぞ」
 智代「手元が狂ってしまいそうだ」
 朋也「じゃ、なんかしようか?」
 智代「何をしてくれるんだ?」
 朋也「そうだな…」
智代は包丁を使っていて、手が放せない状況だ。
今なら、どんなことをされても、抵抗するわけにはいかないはずだ。
それは、いやらしいことであっても…。
⇒■シミュレーションしてみる
   ■やめておく

そう…きっとこうなるはずだ。
 朋也「はぁ…はぁ…」
俺は背後に一歩、二歩と近づいていく。
さくっ。

俺の頭に千枚通しがぶっすりと刺さっていた。

って、本編より刺されるタイミングが早すぎるうううぅぅ!?

 智代「私の後ろに立つな。命が惜しければな

お前どこのゴルゴだよ!!そんなのは渚だけでじゅうぶ(ズキュゥゥーーン!!)

 智代「作りすぎてしまったかもな…まるで夕飯だ」
 朋也「確かに、こりゃすげぇな…」
間違いなく、この家での皿の使用量、最高枚数を更新していた。
しかも、この記録は永遠に破られることもないのではないか。
そう思わせるぐらいの量だった。
俺はカボチャのポタージュをスプーンですくって、味見してみる。
 朋也「………」
 朋也「…うまい」
それ以外の言葉が出てこない。
それは、他の料理についても同じ。
ずっと外食で過ごしてきた俺には、謎ジャム入り、というだけで美味さが何倍にも感じられた。
………謎ジャム
 朋也「……なぁ、智代」
 智代「ん?」
 朋也「この………スープの底に沈殿している、どろっとした固形物は何?」

 智代「あぁ、それか。見知らぬご婦人から、「隠し味に」と貰ってな

それ間違いなく謎ジャムだろ。

っていうか、知らない人から貰った者を易々と隠し味にいれんなよッ!!

智代は自分の分には手もつけず、俺のそんな反応をずっと笑顔で見ていた。

 朋也「……なんでお前は食べないの?」
 智代「(謎ジャムが)危険そうだから

じゃあ入れるなああああああ!!

さて…これからどうしようか。
智代が後片づけをしてくれている間、ぼーっとテレビのワイドショーを見ていた。
いい天気だし、外に出るのもいい。
ふたりで歩いているだけでも、楽しいと思った。
だが…
家にふたりだけ、というこの状況をみすみす見過ごしてしまってもいいものだろうか。
けど、こんな明るいうちからそんないい雰囲気になるわけもなく…。
俺は無意味にチャンネルを変えていく。
 朋也(ゴルフに料理番組…ロクなのやってねぇし…)
手を止めたところでやっていたのは、ドラマだった。
中年男性が、食卓で嫁と思しき女性と口論していた。
 朋也「………」
しばらく見ている。
 朋也(こういうのって…途中にいやらしい場面が絶対入ってくるんだよな…)
そんな場面を智代とふたりで見る絵を想像してみる。
 朋也(それで、ふたりの気分が盛り上がるなんて…あるわけねぇか…)
 朋也(でも、まぁ…一応、流しっぱなしにしておくか…)
片づけを終えた智代が、戻ってくる。
 朋也「おつかれ」
 智代「皿はまだ乾ききっていないから、戻していないぞ」
 朋也「ああ」
 智代「ちゃんと戻しておくんだぞ? わかっているのか?」
 朋也「わかってるって」
 朋也「疲れただろ? まぁ、座れよ」
背後に詰んであった座布団をひとつ抜き取って、すぐ隣に置いた。
 智代「うん、そうさせてもらおう」
そこに智代が腰を下ろす。
 智代「そうそう、三角コーナーは、裏側もちゃんと洗え。ものすごいぬめりだったぞ」
 朋也「ああ、覚えておくよ」
 智代「女手がないというので大変なのは、わかるがな」
 朋也「ああ…」
 智代「聞いているのか?」
 朋也「ああ、聞いてるって」
生返事しかできなかった。
なぜなら、今まさに、ブラウン管では情事が始まろうとしていたからだ。
 朋也「………」
俺が無言になると、智代も何気なくテレビに目を向けた。
 智代「………」
しばらく見ている。
 智代「…番組、変えないか?」
 朋也「え…マジ?」
 智代「当然だろう。陽の高いうちから不健康だぞ…」
 智代「それともなんだ。好んで見ているのか?」
 朋也「はぁ…」
俺は肩を落とす。
高い確率で予想しえた反応だったが、それ以上にこんなことでどうかなると期待していた自分の不毛さに嫌気が差す。
世の中の高校生なんて、彼女ができればみんなそうだ、と誰かに慰めてもらいたい気分だった。
いるだけ幸せ、というやつか。
そう、春原なんて見てみろ。
学校じゃヘタレキャラが染みついて、モテそうな顔のわりに、全然モテないじゃないか。
そう考えれば、いかに自分が幸せな立場にいるかがわかるってものだ。
そう、俺は恵まれているのだ。
 智代「それともなんだ、ああいったことがしたいのか」
 朋也「うん、そうだ」
俺は力強く拳を握りしめていた。
 朋也「…あん?」
俺は、勢いに任せて、何か智代の問いに返事してしまった気がする。
 智代「やっぱり、そうなのか…」
その証拠に、智代が深くため息をついていた。
 智代「まぁ…その気持ちはもちろん、うれしい…」
 智代「こんな私なんかに、拳を握りしめてまではっきり言ってくれるのだからな…」
 朋也「………」
俺は黙ったままでいた。智代が勝手に勘違いして、状況は思わぬ展開を見せようとしていたからだ。
 智代「さっきの通りにすればいいのか」
 朋也「さっきの通りって?」
 智代「もちろん、その不埒なドラマのことだ」
智代が指し示すブラウン管…すでに濡れ場は終わり、別のシーンに移っていた。
俺は考え事をしていて、ほとんど見ていなかった。
けど、きっと…すごいことになっていたはずだ。
 智代「どうなんだ?」
⇒■ああ…たぶん
   ■いや…違う

 朋也「ああ…たぶん」
 智代「ものすごいことを言っているぞ、おまえも私も」
 朋也「だろうな」
 智代「あんなこと、本当にいいのか」
 朋也「さぁ…それは試してみないと俺もわからないけど…」
 智代「だって…女のほうから覆い被さっていたぞ…」
 智代「おまえは、本当に、それでいいのか?」
 朋也「ああ…そういうのもいいんじゃないか?」
 智代「そうか…おまえがそう言うのなら…」
 智代「本当に仕方のない奴だな…」
 智代「………」
 智代「私は進んでやろうとしているんじゃないぞ?」
 朋也「ああ、わかってる」
 智代「好きな人の、願い事だからだぞ?」
 朋也「ああ…わかってるって」
 智代「じゃ、いくぞ…」
目を瞑り、何度か深呼吸をする。
次開けたときは、覚悟を決めた目だった。
 智代「空手チョップ!!

ずごんっ!!
 朋也「うごぉっ!!」
突然智代に空手チョップを喰らわされた。
 智代「む、失敗か。じゃあもう1回…」
 朋也「いやいやいや、待て待て!!なんでそこで空手チョップだよ!!」

 智代「何でって…さっきの通りに空手チョップを真剣白刃取りする場面を………」

やってた!?ねえ、俺見てなかったけど、やってたの!?

もう1度同じコトやられていたら、確実に頭蓋骨が陥没してたぞ…


 智代「どうも…」
 朋也「うん?」
 智代「あまり、掃除をしていないように思えるのだが、それは正しいか?」
ふたりがお茶を飲み終える同時、智代はそう切り出した。
 朋也「そうだな…長いこと掃除機もかけていない気がする」
 智代「それを先に言え」
 朋也「言ってたら、どうかなっていたのか?」
 智代「当然だ」
 智代「ふたりで過ごすんなら、きれいな場所で過ごしたいじゃないか」
 智代「先に掃除をしておいたものの…」
 朋也「悪いな…今度会う時はしておくよ」
 智代「うん、仕方のない奴だな…」
 智代「今からするか」
 朋也「え?」
 智代「だって、明日も明後日も、ここでふたりでご飯を食べるんだぞ」
 智代「今日一日を犠牲にしても、そうすべきだと私は思うが…朋也はそうは思わないか?」
 朋也「思わない」
 智代「思え」
 朋也「だって、おまえ…掃除、むちゃくちゃ時間かけそうじゃないか…」
 智代「うん、よくわかるな」
 智代「私の掃除は細かくて有名だ。家族も辟易するほどだぞ」
 智代「もちろん、昔はそんな癖なかったんだけどな」
 智代「し始めると楽しいことに気づいた」
 智代「自分たちの過ごす場所がキレイになっていく…それに勝る快感はなかなかないぞ」
 智代「ほら、始めるぞ」
 朋也「マジか…」

 智代「まずはどこから爆破するかだが…

 朋也「爆破すんなっ!!だいたい、なんで爆破する必要がある!?」
 智代「ああ、どうせなら家ごとリフォームしてしまおうと思ってな」

それなんてビフォーアフター?

ていうか、仮にも人ん家なんだから爆破とかやめてくれ

裏CLANNAD 智代編 5月3日 終
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ひとこと:
本編だと朋也の妄想があったり、智代がおたまで朋也の頭をぷっ刺したりして素で面白い。
壊れ度だけでも本編よりは上回らなければ、このSSの存在意義が。
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